清少納言がみていた宇宙と、わたしたちのみている宇宙は同じなのか?: 新しい博物学への招待

著者 :
  • 青土社
3.50
  • (4)
  • (6)
  • (7)
  • (2)
  • (1)
本棚登録 : 237
感想 : 13
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791774401

作品紹介・あらすじ

あらゆるものを等しい目線で素描する。
清少納言が『枕草子』で描いた「すばる」は現在のわたしたちが観測するものと同じみえ方をしていたのか? クレオパトラはなぜ真珠を飲めたのか? 古代中国のブランコはどのようにして動いていたのか?
科学者の目で古今東西の文章を渉猟する、サイエンス・エッセイ。
2001年に出版された『天文学と文学のあいだ』を最新の知見に合わせて改稿、書き下ろしの章も加え、新たにリリース!

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  理系エッセイで読みやすいのだけれども、結構読み終わるのに時間がかかった。かなり色んなことが詰め込まれている。万葉集とかに、昔の植物、鉱物、いろんなものが出てくる、科学と文学のつながりを読んで楽しむことができる。
     そして、科学と文学は常に影響し合う……どころかほぼ表裏一体であることがわかる。高山宏の「近代文化史入門 超英文学講義」の冒頭が、ニュートンの難解な数学書を最も一生懸命読もうとしていたのは詩人だったというような(たぶん)ことが語られている通り、表現というのは、個々の心理によってできるだけではなく、その重要なポイントは、科学の進展によってそれを描写することで成立している。
     つまり、本著を読んでますます分かるのは、科学は文学を支えている。または、文学とは「科学の受け取りっぷり」である。人間が新しい科学をどう受け取るかを描写することが文学である。そう言えるのかも知れない、と思える一冊だ。

  • 文系のことに造詣の深い理系の人を心から尊敬しているわたくし。池内了さんのこの本はまさにそういう本。

    もともとは『天文学と文学のあいだ』として20年前に一度出版されたもので、それが本当かどうか分からぬがちっとも売れなかったそうだ。
    タイトルもあるかなー。

    そもそも学問や知識の世界を文系と理系とか、ジャンル分けすることに意味があるのか。こんなふうに縦横無尽に興味の向くままに目の前にくり広げてられるととてもワクワクする。おもしろかったー。

    「死せる孔明生ける仲達を走らす」って昔聞いたことあったなあ。「じしゃく」の章より。

  • 「池内流新しい博物学」面白かったです❗

    江戸時代に高く評価された遊び・洒落・機知
    などの失われた精神原理、江戸の文化を体現していた博物学を現代によみがえらせてくれました。


    先住民たちがしている「すばる占い」を人工衛星を使って観測し、この言い伝えの正しさが実証されたり。


    清少納言がチクリと書いた事に紫式部がキーとなった事と河豚による大量死亡事件。

    海のなき 京おそろしや 鰒汁


    「竹酔日」「竹迷日」なんて美しい日本語
    梅雨の鬱々した日々の最中に、竹を植えている姿を想像したりするのは、楽しいことです


    参考文献の一覧が、読んでみたい本の一覧になりました。



  • 文系と理系の垣根を超えたエッセイ。身近な題材の説明に始まり、それの歴史やそれを題材とした文学作品の紹介に繋がっていく。昔の人も同じように自然を味わっていたのだな、と思いを馳せるのもまた一興。
    枠にとらわれず、作者のように自由な好奇心を持ち続け、風流を感じられる人でありたい。

  • ふむ

  • 清少納言が見ていた宇宙と、
    わたしたちのみている宇宙は同じなのか?
    ~新しい博物学への招待

    著者:池内了
    発行:2021年12月30日
    青土社

    宇宙物理学者の著者がこのようなタイトルで本を書けば、1000年前と現在との宇宙の変化かなにかを解説している本かと思いたくなるが、そういう内容ではない。著者の兄は有名なドイツ文学者(物故者・池内紀)だが、著者も負けないほどの文学少年だったようだ。しかし、何をやっても勝てない4歳上の兄の苦手が理数系だと知った中学3年時、将来進む道を理数系に変えたらしい。理工学部進学、大学院では天文学を専攻し、国立天文台で教授をしていた40歳過ぎ、自分は本来文系ではないかと考え、地上で創造されてきた「人間知」を評価し慈しもう、理系知と文系知の融合を目指そうと大阪大学、名古屋大学に研究場所を移した。

    博物学という学問の分野は、今はないので、とかく理系の諸学問、とくに物理や生物や地学などのもとになったものというイメージを持ちがちだけれど、著者のいう「新しい博物学」においては、理系と文系の対話といでもいうべきものが感じられる。詩や歌などに出てくる自然を科学的に分析して解説する、ということならそんなに珍しいことではない。しかし、自然科学が解明できていない事象を、詩や小説が一定の答えを示してくれるとなると、「新しい博物学」もイメージできてくる。経験や観察、考察が、文学で表現されるか、自然科学で整理されるか、その辺りもおもしろい。

    本文は「すばる」から始まり、「れんず」へと進み、星や宇宙、光学などの話になる。「なんてん」「あわ(泡)」も文学と科学の両方によく馴染むテーマ。「かつお」から旨味(化学)のアミノ酸へと話が踏み込むのも、文系、理系を問わず人に馴染む。そこに挟み込む自然科学史への精通ぶり、NHK-BS「フランケンシュタインの誘惑」での解説を見ていてもよくわかる。

    「あとがき」によると、本書は著者が2001年に上梓した『天文学と文学のあいだ』に加筆して再版したものだという。旧版はまったく売れず、「新しい博物学」への意気込みがすっかり萎えたそうだが、読書好きの従姉妹に中身がよくても装幀や紙質が悪いとダメ出しをされ、今回は「あわ」の章を新たに付け加え、新タイトル、新装幀で再版したものらしい。話題の本となっているので、売れているに違いない。こうした指摘による練り直し手法も、「新しい博物学」の英知の一つかも知れない。

    それにしても著者の文学への精通ぶりには驚愕。ジャンル分けをするならエッセイだろうけれど、新しい博物学としか言えないのかもしれない。

    *************

    金星が白く輝くのは、70気圧を超える大気に厚く包まれ、太陽光の80%以上を反射するため。大気はほとんど二酸化炭素で、温室効果のために金星表面は摂氏400度超。水は蒸発してないと考えられる。

    「よばい星」とは流れ星のこと。「婚(よば)い」は「呼ばい」であり、堂々と声を上げて言い寄る(求婚する)ことだが、不首尾のことも多く、やがて男は女の許へ密かに忍んで行くように。「夜這い」に転じた。その様子から「よばい星」と呼ばれるようになったのかもしれない。

    太陽近くに最近やってきた彗星が作る塵の帯は、まだせいぜい数千キロメートル程度の広がりで、地球の通り道を彗星の軌道があまり重なっておらず、地球が塵の帯を横切る時間は1時間程度。流星群の予報が天文台から出されても、そうした交差する時間予想がまだ正確でないため外れることがある。2021年夏のペルセウス流星群は予報の翌日が大量だった。

    望遠鏡を誰が作ったかははっきりしないが、1600年前後であることは確か。1543年に死んだコペルニクスが望遠鏡で見て地動説を証明した、コロンブスが望遠鏡でアメリカ大陸を眺めていた(到着が1492年)、というようなことはありえない。

    1726年にガリバー旅行記を書いたジョナサン・スウィフトはアイルランド(ダブリン)出身で、イングランドに強い反発心を持っていた。当時、イングランドの造幣局長官をニュートンがしていて、悪貨が出回っていたことから金貨鋳造所に視察に出かけるも、事前に視察日を知らせていたため意味がなかった。スウィフトは「いくら自然科学の天才でも、人間の心が理解できないデクノボーだ」と批判した。悪貨がアイルランドの搾取に利用されていたことに心を痛めていた彼は、ニュートンの視察は正義面を装ったパフォーマンスでしかないことを見抜いていた。スウィフトは、『ラピュータの物語』でラピュータの人々の天文学は優れていて、火星の二つの衛星を発見したと書いている。実際にそれらが発見された1877年から150年も前に予言していたことになる。

    カツオのタタキの正体:
    回遊魚のカツオが出す猛スピードのエネルギー源は、ATP(アデノシン三リン酸)。これが分解して旨味成分の一つ、イノシン酸に。藁でいぶして生臭さをとり、軽く叩いてATPの分解を促してイノシン酸を増やす。

    人体を構成している細胞は細胞膜につつまれ、内側と外側に50ミリボルトぐらいの電位差がある。プラスの電気を持ったナトリウム・イオンが内部に少なく外部に多いため。いわば小型電池。神経が刺激されて興奮すると細胞膜に穴が空き、ナトリウム・イオンが流れ込んで電位差が小さくなる、するとすぐに穴が閉じ、ナトリウム・イオンは外に汲み出されて電位差が戻る。こんな変化が次々と神経細胞を伝わるのが「神経伝達」の仕組み、かつては電流のように神経を伝わっていくと考えられていたがそうではなかった。ふぐ毒のテトロドトキシンは、ナトリウム・イオンが細胞内に入るのを妨げる働きをするらしい。詳しくはまだ明かではないが、穴を塞いでしまうと想像される。だから興奮が伝わらず、血管が収縮したままとか、呼吸麻痺とかが起きる。

    東日本のゲンジボタルは4秒に1回、西日本は2秒に1回光る。西日本は夜8時、深夜12時、明け方3時頃と3回の飛翔ピークがあるが、東日本は深夜はあまり活動しない。ホタルの系統が違うらしい。

    ホタルは雄が飛び回り、雌はめったに飛ばずに草間で発光を繰り返す。雄は雌を見つけると15センチぐらい離れた葉にとまり、少しずつ近づいていって10センチぐらいでとまって15秒間に5回程度発光、それを繰り返す。雌は気に入るとOKの発光をする。

    野生のホタルの寿命は雄が3日、雌で6日程度。

    ホタルは種類ごとに求愛の光信号を持っている。大型のベルシカラーホタル(アフリカ大陸)は、他のホタルの真似をして発光、その偽信号にだまされて雄が近づいてくるとそれを捕食する。

    次の夜は 蛍痩せたり 篭の中 (正岡子規)
    日本のホタルは幼虫期に水中で得た栄養だけで生きる。成虫は水しかのまない。野外だと3~6日ぐらいしか生きないが、家でかっていると20日も生きることができるらしいが、目で見てもホタルが痩せ細り、光が弱っていくのが分かる。

    古代から竹は、神霊が招き寄せられて乗り移る「依代(よりしろ)」と考えられてきた。門松、どんど焼き、結界を示す四方、七夕、福笹・・・

    「タケノコ生活」:
    二次大戦後、仕事がなく収入がない人が衣類や貴重品を差し出して物々交換して糊口をしのいだ生活が、タケノコの皮をむいていくのに似ているからこう言われた。

    植物は恐怖を感じるとエチレンを発生して縮こまると考えてよさそう。トウモロコシの実験、毎日、震度を与えると半分ほどの背丈にしか育たない。稲の実験では、人に手でなでられると成育が遅れるという実験もあり。人間に触られるのは恐怖らしい。

    曼珠沙華(ひがんばな)がいつ日本に入ってきたのかは不明。室町時代の15世紀になって初めて「曼珠沙華」という花の名前が詩や典籍に現れる。1603年の日葡辞典(日本イエズス会発行)にも出てくる。

    彼岸花の球根が「救荒植物」だったと考えられる。球根にはデンプンが豊富なので穀物が不作の時の緊急食物に。リンコンという毒姓は粉にして水に長時間さらす、塩と油で調理して分解する。

  • すばるから曼珠沙華まで。身近なものを、科学的視点、文学的視点の両面から眺められる何とも贅沢な一冊。好奇心を刺激されるし、第二弾を待ちたくなる。

  • 請求記号 404/I 35

  • はじめに――新しい博物学への招待
    天 文
    第1章 「すばる」――星は すばる
    「すばる」望遠鏡 星は すばる ひこぼし ゆふづつ よばひ星 清少納言の虎の巻 行方知らずのプレヤード伝説 すばる満時 すばるの歌
    第2章 「れんず」――伸び縮む奇なる眼鏡
    レンズマメ 老眼鏡までの道のり 凹レンズの由来 ガリレイの望遠鏡 ケプラーの望遠鏡 望遠鏡と石けん 推理小説の凸レンズ
    第3章 「なんてん」――南天の赤き実よ実よ
    NANTEN望遠鏡 南天の霊力 邯鄲の枕 ナンテンのヨーロッパ・デビュー 南天と羅漢の寺
    第4章 「あわ」――宇治川の水泡さかまき
    「泡」の話題ふたたび 泡はうたかたなのか? バブル騒動 宇宙はバブル
    物 理
    第5章 「じしゃく」――古郷を磁石に探る霞かな
    磁石と電気 磁石の歴史 日本の磁石史 歌舞伎と狂言 なぜ、磁石は鉄を引きつけるのか? 原子の世界 地球は磁石
    第6章 「ぶらんこ」――ふらんどや桜の花をもちながら
    ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん ブランコはなぜ揺れる ブランコの起源と呼び名 ブランコが揺れる理由 鞦韆は漕ぐべし
    海の生き物
    第7章 「しんじゅ」――真珠の見がほし御面
    豚に真珠 クレオパトラのイアリング グレシャムの真珠飲み 真珠の効用 養殖真珠の歴史 真珠養殖戦争 真珠の色と光沢 人造真珠 白き玉物語
    第8章 「かつお」――つれづれに鰹は食ふな
    初鰹 兼好と鰹 鰹の「うま味」 鰹のタタキと鰹節
    第9章 「ふぐ」――きのふは過てふくと汁
    河豚は食いたし フグ毒 フグにとってフグ毒とは何か 河豚料理 清少納言と紫式部の葛藤
    陸の生き物
    第10章 「ほたる」――蛍火の鞠の如しや
    蛍の光 恋のフラッシュ 螢火 ホタルの生態学
    第11章 「たけ」――夕日美し竹の春
    筍の刺身 タケとササ 依代としての竹 竹の春夏秋冬 竹の開花 竹の利用 竹のように
    第12章 「あさがお」――あさがほに我は食くふをとこ哉
    アサガオの花 ホメオスタシス アサガオの体内時計 花のSOS信号 牽牛子から朝顔まで 江戸のアサガオブーム 環境のカナリア
    第13章 「ひがんばな」――曼珠沙華二三本
    GONSHAN. GONSHAN. 呼び名アレコレ 彼岸花の日本への旅 彼岸花の毒性 歌ことば

全13件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1944年兵庫県姫路市生まれ。京都大学理学部物理学科卒業後同大学大学院へ。1975年に理学博士。北海道大学助教授、国立天文台、名古屋大学大学院の教授を経て現在名古屋大学名誉教授。観測データを用いて宇宙の進化を理論的に解明する研究を行う。『寺田寅彦と現代』(みすず書房)『ふだん着の寺田寅彦』(平凡社)など寺田寅彦に関する著書を発表。『科学と科学者のはなし』(岩波少年文庫)『なぜ科学を学ぶのか』(ちくまプリマー新書)など高校生向きの本もある。

「2021年 『寺田寅彦と物理学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

池内了の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
伊坂 幸太郎
森見 登美彦
凪良 ゆう
スタニスワフ・レ...
カルロ・ロヴェッ...
小川 哲
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×