とまる、はずす、きえる: ケアとトラウマと時間について

  • 青土社
4.15
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791775491

作品紹介・あらすじ

トラウマ研究と、医療・福祉の現象学の第一人者が、具体と抽象を行き来しながら紡ぎ出す、比類なき対談集。
「学問的な硬い概念では取りこぼされる人間の経験の微細なニュアンスについて、考察することへと宮地さんも私もいざなわれた(「まえがき」より)」――村上靖彦
「表面的な言葉の群れにとどまらない、なにか微かだけれども、底流に流れている大切なものを拾い続けられたらと思う(「あとがき」より)」――宮地尚子

感想・レビュー・書評

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  • 「それる」「もどる」「とまる」「すぎる」「はずす」「きえる」といった動詞をテーマに語られる対談集。各動詞について宿題のつもりでお二人とも持ち帰って話題を考えてくるのだが、話していくにつれてだんだんそれていくその加減が面白い。
    臨床的であり、哲学的であり、かなり読み応えがあり、予備知識がなければやや難易度高めではあるが、読んでよかった、読んでいて知的欲求が刺激される対談集だ。
    思い出したように、何度も読み返したくなる。

    以下は備忘録がてら目次と、気になった箇所の引用やキーワード、自分なりに軽く事項をまとめたもの。

    目次
    まえがき
    第1回 「それる」ーケアと時間
    第2回 「もどる」ーリズムと身体
    第3回 「とまる」ー生とトラウマ
    第4回 「すぎる」ー痕跡と生存
    第5回 「はずす」ーユーモアと曖昧さ
    第6回 「きえる」ー記憶と圧力
    あとがき


    DVについては、加害者が家の中のほとんどの場所を仕切ってるという空間的な理解もできるんだけど、誰が時間を支配しているのかという意味でも捉えられる。「何かが苦しいんだけど何が苦しいのかわからない」っていうときに、結構自分の時間が支配されていることが多いんです。(p.43,44)

    「包容力」っていうのは相手を待てる力だったり、なんとなく相手をうながしたりする力だったりするんですよ。時間をうまく相手と合わせつつ、つきあう力。(p.41)

    片方のリズムが消えるちゃうことの危機感。
    リズムが消えることで空気になってしまう。自分が空っぽになってしまう。

    斥力というキーワード

    時間が止まるということ

    律速段階

    終身性

    「きえる」と「とまる」もまたちがうのかもしれない……(p.104)

    斥力が働くのがトラウマ、引力が働くのが喪失・悲嘆。あるいは複雑性悲嘆とかだと、両方が重なってごちゃごちゃになっちゃう。…斥力と引力が両方働いて、身動き取れなくなっちゃう。(p.115)

    引きつけられる悲嘆であると同時に、釘付けという意味では外傷的(同)

    アクターネットワーク理論

    「やり過ごす」「見逃される」「生贄を捧げて逃れる」

    アウラ:個別のものが消えていく過程で残る輝き
    イリア:there is〜にあたるフランス語。事物は消え去っちゃったけども「ある」ということだけが残っている状態

  • 村上靖彦×宮地尚子【前編】違う道からケアに近づく|かんかん! -看護師のためのwebマガジン by 医学書院-(2021.9.15)
    http://igs-kankan.com/article/2021/09/001340/

    Naoko MIYAJI - NAOKO MIYAJI | 宮地 尚子
    https://www.naokomiyaji.com/

    トップページ - 哲学の実験グループ | ⼤阪⼤学⼈間科学部 ⼈間科学研究科
    http://experimentphilo.hus.osaka-u.ac.jp/

    青土社 ||心理/脳科学:とまる、はずす、きえる
    http://www.seidosha.co.jp/book/index.php?id=3797

  • 日本語の持つ、やわらかい雰囲気に魅かれて読んでみる。
    対談自体はなかなか難しかったが、(特に村上さんのターン)この本がきっかけでトラウマ研究をしている宮地さんの存在を知り、トラウマ理解のために宮地さんが生み出した「環状島の構造」を知れたことは良かった。
    環状島の断面図は、トラウマに限らず、ケアする側とケアされる側の立ち位置をイメージするうえでも参考になった。
    ケアについての「それる」の対談や、「すぎる」という言葉から「3つの生き延び方」があるという話は結構わかりやすかった。
    ところどころ、メモしたいフレーズがあったのだけれど、ついつい読み進めてしまったら、どこに書いてあったのかわからなくなってしまった。
    (そのぐらい、いろんな方向に話の内容が飛ぶ本ともいえる。)
    メモしながら、読めばよかったけれど、それもなかなか難しい。
    がんばって探そう。
    再読記録あり。

  • 対談集。ケアとトラウマと時間についてとあったが、言葉は難しくはないけれども、内容を理解するのには少しレベルの高い対談。読後の感想として、会話がずれるというところに面白みがあるかもしれない。さらに、一つ挙げるとすれば、包容力のようなものはユーモアに含まれている、という一文。少し自分の器からはみ出したところに、心の変動の真髄があるのではないかと思わせてくれる。様々な文献や、著名な人物がでてくるため、研究者のガチな対談を本を通して体験できるといった感じだろうか。難しかったです。

  • トラウマ研究及び臨床の第一人者の宮地氏と医療福祉領域を現象学的に表現する村上氏の対談本。共に好きな著者である。読まない理由はない。それぞれ動詞をテーマに語り合う。「それる」「もどる」「とまる」「すぎる」「はずす」「きえる」。それぞれが自由な発想で時にずれ、時に噛み合わずも、なぜか底層ではつながっている、私的な対話であった。最後に表題を見て、「とまる、はずす、きえる」となっている意味が読後に了解した。

  • 493.7

  • 「内的対話者とは、その人を思い浮かべると心の中で思考が促され、言葉が紡がれていく相手である。それは相手の理解力や反応力、知識量や包容力など様々なものに裏打ちされ、相手への信頼感や安心感がベースになっている。」
    「レイプ被害に遭ってその場面を誰かに見られたら誰かが死ぬしかないといえ『藪の中』の展開は、それ自体、ある種の『レイプ神話』(レイプにまつわる、まことしやかな思い込み)の一つかもしれないですよね。」
    「レイプ被害の結果すぐに誰かが死ななければいけない、誰かを殺さなければいけないという話になること自体、レイプ被害者は『その後』を生きてはいけないということが暗黙の前提になっていて、それも一つの『レイプ神話』かもしれない」
    「当事者性の話を当事者主権とか、当事者中心とか、当事者研究といった視点から語るのは大事なんだけど、当事者性を大事にしすぎると『あなたは当事者なのかどうか』というのを問い詰めてしまうことにもなり得て、それ自体がカムアウトを強制することにもなり得ますよね。」

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著者プロフィール

宮地尚子(みやじ・なおこ)一橋大学大学院社会学研究科教授。専門は文化精神医学・医療人類学。精神科の医師として臨床をおこないつつ、トラウマやジェンダーの研究をつづけている。1986年京都府立医科大学卒業。1993年同大学院修了。主な著書に『トラウマ』(岩波新書)、『ははがうまれる』(福音館書店)、『環状島=トラウマの地政学』(みすず書房)がある。

「2022年 『傷を愛せるか 増補新版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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