- Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
- / ISBN・EAN: 9784794224040
作品紹介・あらすじ
江戸時代の海の男たちの知られざる三〇〇年史
百姓=農民、ではない。
海辺に生き、漁業を主ななりわいにした者たちも、身分的には百姓だった。
漁法、利益配分、魚の輸送ルートなど、当時の漁業とはどのようなものだったのか?
網元とその配下の網子たちの対立と協調の歴史とは?
第一部で江戸時代の全国の海村の姿を網羅的に紹介しつつ、
第二部では渋沢敬三が奥駿河湾岸で発見した古文書を取り上げ、
江戸期以降の漁業の実態を時系列で追いかける。
感想・レビュー・書評
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江戸時代、海に面した村で農業とともに漁業を兼業していた百姓たちの姿を、克明な記録とともに紹介した本。
第一部の「江戸時代の漁業とは」がまず十分に面白い。まだ沿岸での漁業が中心だった全国各地の漁場での漁法やルール、近隣の村とのいざこざの原因など、当時の状況がまざまざとわかる。
第一部はほんの序の口で、本書の中核である第二部「海の男たちの三〇〇年史」では、貴重な古文書が見つかった伊豆半島の村々での漁業の変遷と村民同士のいさかいの歴史を、克明によみがえらせている。
農業における地主と小作人のような一方的な従属関係とは違い、共同作業である漁業においては、リーダーである津元(つもと)とその下で働く網子(あんご)たちは、常に一触即発の気配に満ちており、時には抵抗し合い時には手なずけられと、立場を越えて言い合える濃厚な関係だったことが記録から伝わってくる。
この第二部では、不安定な漁場の縄張りをめぐる、気性の荒い男たちの小競り合いの裁判記録が次から次へと紹介されて、その訴状の多さと(著者の意訳によるものかもしれないが)達者な論法に驚かされる。耕地の少ない土地で自分たちが生きるために必死だったのだろうが、北条氏の頃(!)から永年守ってきた、明文化されていない漁業慣行である「浦例」「浦法」を盾に、津元と網子、村と村が一歩も退かない攻防を繰り広げる様は、非常にリアルだった。
日本は島国だから同じ地域内で争っているが、これが地続きであれば他国との領土争いから、まさに血で血を洗う戦争に発展していただろう。
本書を読むと、農業や林業を始める若者は増えてきているのに、なぜ漁業の参入障壁が高いのか、理由の一端が見えた気がした。
もともと自然に左右されやすい生業で暮らし、時には牽制し合い時には協力しながら危うい関係を築いてきた、しがらみだらけの海の男たちが、近代になって「○○漁業組合」と名前を変えても内部が一枚岩になっているはずはなく、ましてや自分たちが守ってきた縄張りに新規参入者を簡単に迎え入れる訳はないだろうと感じた。 -
●江戸時代における漁業について、とても詳しく書かれた本。江戸時代当時の漁師たちの暮らしぶりや漁の歴史がよくわかる。
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☆漁民も百姓と呼ばれた