マウス―アウシュヴィッツを生きのびた父親の物語

  • 晶文社
4.10
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本棚登録 : 130
感想 : 28
  • Amazon.co.jp ・本 (159ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794923004

作品紹介・あらすじ

ポーランドの町々にカギ十字の旗が翻った。ごくふつうの暮らしをしていたユダヤ人たちは、その日からナチスの脅威にさらされていく。ゲットー。隠れ家。闇市。裏切り。収容所。死の恐怖。脱出行。…日々の営みの細部を丹念に掘り起こしつつ、奇跡的に生きのびた父の驚くべきライフ・ストーリーを等身大で描きだす。物語は、戦時下のヨーロッパと現在のニューヨークを行き来しながら展開する。老いた父との自らの葛藤を同時進行で織りこみ、作者はホロコーストの時代と自分たちの時代を互いに照らしだそうとする。世界で高い評価をうけている傑作コミックの待望の邦訳。

感想・レビュー・書評

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  • ナチスドイツ人を猫、ユダヤ人を鼠、ポーランド人を豚に置き換えて描かれるノンフィクション漫画の第1巻です。
    ホロコーストを生き抜いた父ヴラデックの物語を、息子であり著者のアートが漫画にしたものです。
    昔話だけでなく父へのインタビューも詳細に描かれ、その生活感が壮絶な過去と繋がっている雰囲気がひしひしと伝わってきました。
    父と母の出会い、悪くなっていく日常、殺されていく隣人、そしてアウシュヴィッツへ…。
    登場人物はみんな可愛い動物なのですが、あまりにも惨い出来事がそれを凌駕してひたすらに恐ろしい世界が広がっています。
    あの時代にあの戦争をしていた人間は人間ではなく、全員が動物にも劣る存在だったのかもしれませんね。
    2巻にも期待します。

  • テッサ・モーリス=スズキの『過去は死なない』http://booklog.jp/users/utsu/archives/4000224417で取り上げられ、中沢啓治『はだしのゲン』と比較しながら検討されていた。ユダヤ人はネズミ、ドイツ人はネコ、ポーランド人はブタの姿で描く、という大胆な方法も話題となるところだが、作者の父による戦中の話と、作者と作者の父とのやりとり(家族というもののネガティブな側面大放出みたいな)とが交互に出てくるところもまた、ある種大胆。もっともこの行き来をモーリス=スズキは小林よしのりのゴー宣シリーズと「同様の手法」と説明するのだが。画風はべたが多く暗くてちょっと汚い感じの米国的なものだが絵はしっかりしていて、動物の顔で描かれても話自体は決してうわつかない。不条理な扱いをされる人が皆いかにもかわいそうで気の毒な人とは言いきれない感覚や、大変つらい思いをした人が他人のことを思いやる人になるとは限らないとか、まぁ読んで心地よいものでは決してないが、たぶんワタシはこの物語を今後何度も読むだろう。この巻はついにアウシュビッツに収容されるところまでだった。IIを読みたいところだが、現在版元品切。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「IIを読みたいところだが、」
      私は「消えたタワーの影のなかで」が読みたい。
      動物に擬しているのは、感情移入を拒むための方法なだけでしょう。...
      「IIを読みたいところだが、」
      私は「消えたタワーの影のなかで」が読みたい。
      動物に擬しているのは、感情移入を拒むための方法なだけでしょう。
      人に与える感銘の深さでは、引き合いに出されているマンガ?とは雲泥の差ですよね。
      2013/07/04
  • アウシュビッツを生き延びた父親にインタビューして、息子がその体験を漫画にした作品。漫画作品で初めてピューリッツァー賞を受賞した。

    夫婦で生き延びた作者の両親だが、母親はその後精神を患い自殺しており、現在父親は再婚相手と暮らしている。

    全2巻の1巻にあたり、両親の出会いからアウシュビッツに収容されるまでが描かれている。

    父親と作者の関係が上手く行ってなかったり、再婚相手と父親もいがみ合っていたりする現在のゴタゴタと、過去の戦争体験が交錯する面白い構成。

    体験した人にしか語れない、少しづつだが確実に迫ってくるナチスの恐怖がとても恐ろしい。簡単に人が殺されていくあの時代の空気が、読んでいてビシビシ伝わってきます。

    世渡りの上手い父親の自画自賛っぷりもちょっと笑えるし、父親と息子の分かりあえない様もまたリアルで良い。

    『ペルセポリス』に似てるとの事で手に取りましたが、確かに似ています。この本に影響を受けて書いたのかもしれません。絵は『ペルセポリス』の方が断然魅力的ですが・・・。

    読めて幸せな、面白すぎる作品です。

  • 読んでみたかった漫画。そしてアメコミ高いと思って読んでいなかった漫画。偶然やっと読めた。毎回、戦争の話を読むと人間は集団になると狂う生き物だとしみじみ思う。それは頭に入れておくべきことだとも思う。近代になっても、現代になっても愚かになってしまう生き物なんだと自覚が必要なのだと思う。それはすこしでも愚かになる前の防衛策に使いたい。
    あと、壊れてしまったものはどうやったって元には戻らない。ほんとに。
    ほか、心理カウンセラーさんとの間の沈黙を入れたのが表現としてすごいな、と思った。そしてサミュエル・ベケットの言葉は何だろう…『私たちは黙ることができないのだから興奮せずにおしゃべりしてみましょう』?『僕たちの時代を悪く言うのはやめよう。これまでの時代にくらべて一層悪いということはない』?ちょっとだけ調べたけどそういうことかなあ…。『今までやったことがある。今まで失敗したことがある。そんなことは構わない。もう一度やれ。もう一度失敗せよ。より上手く失敗せよ』という言葉もあった。それでも、よりよくなるためにはやってみるしかないということだろうか。人が学ぶのはいいと思う。ちゃんと活用できるように、というとこが問題で行動しかないのか。

    『彼らはまる一週間、そこに吊るされていた~わしはフェーファーとも取引があった。若いシオニストで新婚だった。彼の妻は通りを悲鳴をあげて走っていった』

    「あの人、人間より物のほうが大事なのよ!」

    『彼らが連れてった大部分は子どもだった――2、3歳の子もいた。悲鳴をあげる子もいた。泣き止まなかった。するとドイツ人どもは子どもたちの足をもって壁にたたきつけた…子どもは2度とわめかなかった。』

    「ハッハ!おまえはわかってないな…あの時は、それはもう家族なんてなかったんだ。それはみんな自分のことしか考えてなかった」
    『彼は百万長者だったが、それでも自分の生命を救えなかった』

    「ねえ、強制収容所を生きのびたことに後ろめたさを感じる?
    「いや、悲しみだけだ」
    「そう。人生は常に生きる者の味方だ。なのにどういうわけか犠牲者は避難される。でも生きのびたのが最良の人達ではないし、最良の人達が死ぬわけでもない。無差別なのさ。はーあ。いまは君の本の話じゃないがホロコーストについてどれほど多くの本が書かれてきたことか。問題にすべきは何か?人々は変わりもしなかった。もっと新しい大きなホロコーストが必要なのかもしれない。とにかく死んだ犠牲者たちは、決して彼らの側の物語を話せない。だからもう、物語はこれ以上、ないほうがいいのかもしれない。」
    「うーむ。サミュエル・ベケットがこう言ってます。『あらゆる言葉は沈黙と無のうえについた不必要なしみにすぎない』」
    「そうだ」
    (沈黙)
    「でも一方で、彼はそう言ったんです…」
    「彼の言うとおりだ。そのことを君の本に入れるといい」

    「彼はほんとにドイツ人だったの?」
    「わからんよ。ドイツ人の囚人もいたんだ。でもドイツ人にとってこの男はユダヤ人だったのさ!」

    『わしは彼らの仕事を見て、靴の修理のしかたを少し覚えた~ほらね、何でもやり方を知っているのは得なんだ』

    「許せないわ!よりによってあなたが人種差別をするなんて!あなたの黒人への言いかた、まるでナチがユダヤ人にするみたいよ!」
    「ふん!わしはおまえがもっと賢いと本当に思っていたのに、フランソワーズ。黒人野郎とユダヤ人とは比較にもなりゃしないよ」

  • ここで描かれるアウシュビッツを生き延びた父の話は、教科書的あるいは『ライフイズビューティフル』のような美化された物語ではなく、他人に「殺される」ことから逃げる、生のなかではなく死の淵ぎりぎりにいたユダヤ人の話で、本当に底の知れない恐怖が込み上げてきた。何が恐怖を掻き立てるのか。
    それは、人が人を排斥しようとするほど忌み嫌う憎悪、それが根拠のない人種に優劣をつけるイデオロギーに裏打ちされていること、憎悪が集団になったときのエネルギー、人と人の絆を断ち切ってしまうこと。ああそういうことか、と納得できないもの。
    いや、違う、もっと書き尽くさなければ…どう表現する?という表出としてこの作品がある。

  • アウシュヴィッツに到達したところで物語が終わるのでした。続きを!

    と書いてたら2巻あったんやね。読まねば。

  • 余裕ある立場の人が,命がけの人を助ける.
    余裕がない立場の人は,家族をも売る.


    ユダヤ人はネズミ,ドイツ人はネコ,ポーランド人はブタと擬人化してあるので,人種の違いに疎い日本人にも分かりやすいし,辛い内容も和らぐ.

    アウシュビッツを生き延びた偏屈な父親と,それに付き合いきれない息子の関係性も話の重要な副題.

  • 歴史を、家族を、「正しく」語ることの難しさ。

  • 誰もただで他人のために命がけのことなんかしてくれるものか。
    ポーランドの母親たちはいつも「気を付けるのよ。ユダヤ人につかまると袋に入れられて食べられちゃうわよ」と子供たちに教えていた。

  • バンドデシネ、海外マンガには、日本では知られていないベストセラーが沢山あるみたい。これもその一冊のよう。
    ユダヤ人の大虐殺やアウシュビッツなどのナチ時代のことごとが、作者の父の思い出がたりという視点で淡々と語られて行く。画面が暗いのと、逃亡生活時代の極貧の生活のようすが図解入りでこと細かく述べられているため読了後はかるくナーバスになる。
    非常に陰惨な歴史物語なのだが、ユダヤ人はネズミ、ドイツ兵はネコ、ポーランド人がブタといったキャラ造形になっている。ネズミとネコの一方的な力関係に仮託した表現はうまいと思ったが、そのせいでかわいい雰囲気まであるからなおさら読後感がつらい。

    戦争ものの海外マンガでは、ほかにも「風が吹くとき」は非常にショックを受けた。(核実験に巻き込まれてしまった夫婦が死亡するまでの物語。)

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