世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい

著者 :
  • 晶文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794965677

感想・レビュー・書評

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  •  ドキュメンタリー映画『A』は様々な見方が出来る映画である。オウムの内部、当局の不正、理不尽な妨害活動…。ともあれ、そこで一貫して描かれているのは、「オウムの内部から見たら日本の社会はこんなにヘンなんだよ」という単純な事実だ。

     『A』を監督した森達也も様々な側面を持つ人物である。TVディレクター、作家、映画監督…。そんな森達也による本書は、『A』公開後から『A2』公開に至る彼の心情を綴ったものである。雑誌やネットなどの媒体で発表された文章がまとめられている。そしてこの本には冗談みたいなタイトルがつけられている。『世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい』。9・11テロが起き、アメリカがイラクに侵攻し、すぐ隣では独裁国家が世界を脅しているような状況で、そんな事が言えるのだろうか?
     このタイトルは当初、『A2』のサブタイトルとして考えていたという。

     森達也はこの世界を良くするためにどうするべきだ、などという話はしない。ただこう言うのだ。もっと悩め、と。ウジウジしたりクヨクヨしたりする事は決して悪い事ではない。わかりやすい理屈で世論がどんどん傾いていってしまう世界に、ただ語りかける。もっと悩め、と。
     本書の中で何度も語られるように、オウムの信者もナチスドイツも、イラクのバース党幹部も北朝鮮の特殊工作員たちも、きっと皆善良で優しい人たちなのだ。それが集団になった時、思考は停止し、善良で優しいまま残虐になっていく。
     「見つめることだ。そして考えることだ。自分たちが今何を考えていないかを」(本書p140)。そうなのだ。そういう意味で、本書のタイトルは重い響きを持つ。僕たちは考えることをやめてしまった。きっと単純な事実を見逃している。

     もちろん森達也自身も苦悩している。自分の映画がヒットしない事に単純に悩む。思考停止した社会に悩みつつ、そんな社会であるからこそネタがたくさんあるぞとほくそ笑む矛盾に悩む。
     彼の言葉を現実的でないと笑う事は簡単だ。世界はもっとシビアなのだ、憎悪に満ちているのだと切り捨てる事も簡単だろう。

     しかし僕は信じている。いや知っている。世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい事を。

  • 「思考の停止は非常に危険」一面だけを見て判断するのは、想像力に欠け、危険。常に頭に入れておきたい。

  • 2010.10.8 図書館。
    想像力の欠如、憎悪の蔓延、思考の停止。マスメディアからの情報だけだと全く気づかないよね。いや、マスメディアによってそうなるように仕向けられてるのか。自覚しましょう。

  • いい本だった。同じことを言っている。同じスタンスで、同じ目線で。それを筆者は幾分不満なようだけど、それこそがこの人の特質で、周りが停止している中で自分だけが動けるのはこういう部分が多大にあるんじゃなかろうか、と。この人はとてもとても人間らしくて、それが文章に溢れていて、いい。(08/3/15)

  • 2008/8/27購入

  • 今読んでる。

    ここで印象的だった一文を。

    「『これは白だよ』とあっさりと断言されたとき、でもよく見ると黒も少しだけ混じっているよと首をかしげながら思うだけで、大げさを承知で書けば、憎悪や殺戮が蔓延する今の世界も、ほんの少しだけ変わるはずだと思っている。」

  • 考えさせられる事 沢山あります。
    私達はコレでいいのでしょうか?本当に?
    もっと見ることを、知ることをしないといけないのではないでしょうか?

    『長いまえがき』と3章と『長くもないが短くもないあとがき』からなってます。

    森氏の視点は今の日本に、世界に問題を提起してくれる。
    会ってもないのに、知りもしないのに『知ったかぶる』のは如何なものか?
    表面だけの上っ面だけで、論理を振りかざしていないか。
     なにか に踊らされてないか。
     なにか に上手に騙されてはいないだろうか?

    とても とても 判りやすく 自分で判断する事 を願っているように思える本。

  • 一度お会いしたことのあるドキュメンタリー作家の森達也さんの本。戦争、殺戮の耐えない現代世界に対して、彼独特の視点から希望の光を当てた作品。

  • 森達也のエッセイ集。『世界が完全に思考停止する前に』に比べるとインパクトが小さいかな。しかし、彼の思想が端的に現れていると思います。

  • 一度は読むべし

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著者プロフィール

森 達也(もり・たつや)
1956年、広島県呉市生まれ。映画監督、作家。テレビ番組制作会社を経て独立。98年、オウム真理教を描いたドキュメンタリー映画『A』を公開。2001年、続編『A2』が山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞・市民賞を受賞。佐村河内守のゴーストライター問題を追った16年の映画『FAKE』、東京新聞の記者・望月衣塑子を密着取材した19年の映画『i-新聞記者ドキュメント-』が話題に。10年に刊行した『A3』で講談社ノンフィクション賞。著書に、『放送禁止歌』(光文社知恵の森文庫)、『「A」マスコミが報道しなかったオウムの素顔』『職業欄はエスパー』(角川文庫)、『A2』(現代書館)、『ご臨終メディア』(集英社)、『死刑』(朝日出版社)、『東京スタンピード』(毎日新聞社)、『マジョガリガリ』(エフエム東京)、『神さまってなに?』(河出書房新社)、『虐殺のスイッチ』(出版芸術社)、『フェイクニュースがあふれる世界に生きる君たちへ』(ミツイパブリッシング)、『U 相模原に現れた世界の憂鬱な断面』(講談社現代新書)、『千代田区一番一号のラビリンス』(現代書館)、『増補版 悪役レスラーは笑う』(岩波現代文庫)など多数。

「2023年 『あの公園のベンチには、なぜ仕切りがあるのか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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