総理にされた男 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

著者 :
  • 宝島社
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  • Amazon.co.jp ・本 (429ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784800287359

感想・レビュー・書評

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  • 2023.10.13 読了 ☆9.4/10.0


    「政治家たちは何をやっているんだ」
    こんなふうに毒づいたことは誰しもあると思う
    「自分が総理大臣だったら、日本をもっといい国にできるのに」
    などと思ったことはありませんか?

    だったらやってみてはどうですか?
    突然、総理の替え玉にさせられたこの主人公・加納慎策のように…


    本書は、小説でありフィクションでありながら、日本の抱える問題を詳らかにし、具体的な政治経済、金融などの知識を交えながら優しく説いてくれる入門書であるのです。



    〜〜〜〜〜印象に残った言葉〜〜〜〜〜



    “景気の良し悪しというのは詰まるところ、カネの循環がいかに大きく速いかということなんです。生き物に喩えるなら血のようなものです。動物が活発に動くためには血液が多く、そして速く行き届かないといけない。それと同じです。

    景気を回復させるには、どこかで眠っているカネを動かす必要があります。言わずもがなその在処は富裕層です。そういう人たちがカネを遣ってくれないと経済は活性化しない。だから過去の景気政策というのはおおかた、金持ちにカネを遣いやすくするための政策なんですよ

    酷な言い方ですが、貧乏な人は余分なカネが入ってきても、すぐに遣わず溜め込むでしょう。そうすると結局カネの流れは止まってしまう。
    優先順位に則って対策を行えば、早く恩恵に与かれる者とそうでない者に別れるのは自明の理。
    景気がいい、というのは国民全員が等しく潤うということではなく、あくまで全体の平均値が上がることなんです”



    “政治というのは正しさの追求ではない。意見が対立する者と擦り合わせ、妥協し、着地点を見つけることです。
    正論は正しいが、正論を振りかざすことは全く正しくない”



    “政治が人間の所業である限り、それを動かすのは理屈じゃなくて情だ”



    “親の地盤を受け継いだ二世議員も、弾みで当選してしまったタレント議員でさえも、最初は子供の目をしていた。それが政争に巻き込まれ、カネと権力に塗れ、理想と現実の狭間で揉まれるうちに初志を忘れて、薄汚れた政治家の目になっていく。

    カネも権力も汚れたものだから、塗れていれば人間が汚れるのもまた当然。議員に必要なものは、選挙民に向けた偽りの真摯さと、汚泥の中で生息する術だ”



    “国民全員が裕福になることなどまずあり得ない。誰かが潤えば誰かが渇きを訴える。資金が偏在することが資本主義の特性だ。好景気とは経済上の言葉であり、単にモノとカネの流れが活発であるという事実に過ぎない。
    景気とは読んで字の如く〈気分〉によって語られる部分が大きい。それを数値化するというのは、喩えて言えば、喜怒哀楽を血圧で表示するようなもの”



    “しかし、こうして総理大臣と内閣官房長官が声を上げても、システムは変わらない。誰かが変えようとしない。誰かが変わることに断固反対している。

    何故、国民によって選ばれた議員たちが国民のために働けないのだろう?”



    “本来、自衛官は感謝されてはいけない存在です。自衛官が国民から歓迎され感謝される時は、外国から攻撃を受けた有事の時だ。自衛官は日陰者である方が国民や日本は幸せなのだ。

    同じ公務員でも、霞ヶ関でふんぞり返っている連中とは抱く矜持も懸けるものも違う。報われない仕事、感謝されない存在。それでも彼らは日々汗を流し肉体を酷使することも厭わない。優しき者が銃を担ぎ、気弱な者が死地に赴く。”


    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



    そして本書最後の、国民全員に向けた慎策の、魂のスピーチは感涙です。日本人であることを誇りに思えます。ぜひ一読を。

    • INSPIRE@JTCさん
      かつて「政治」を学んだものとして、興味をそそる感想!読んでみます、ありがとうございます!
      かつて「政治」を学んだものとして、興味をそそる感想!読んでみます、ありがとうございます!
      2023/12/22
  • 政治色の強い内容。総理の真似をしていた売れない俳優という設定なので、政治も経済も素人総理に分かりやすく説明されてはいるが、やはり本気になって読まないと理解しづらい。途中から素人なりの理想論的な方向に行ったが、その方が一般大衆向けにも読む方にもマッチしているように思う。
    このまま替玉で最後まで行けるかどうか、現実には無理と思うが、エンターテイメントとしては期待感を持ってしまう。
    大使館占拠事件は「月光のスティグマ」とリンクした場面があり、こんな内容に繋がっていたとは。

  • 一国の総理大臣と瓜二つの、売れない舞台俳優が、総理大臣の替え玉となり、あらゆる難題をクリアして行く。
    そんな荒唐無稽な話で
    「んなアホな。。
    政治に興味も関心も寄せていなかった若者に、
    仮にも一国の宰相の替え玉が務まる筈あるかいな」
    と読み進めて行くうちに、何となく、引き込まれて行った。

    総理大臣・真垣統一郎に容姿がそっくりで、総理のモノマネをして、最近ようやく名前を知られては来たが、まだまだ売れない舞台役者・加納慎策が、峰窩織炎に罹って、目下意識不明の総理の替え玉にさせられてしまった。

    「回復するまでの間」との約束だったが、真垣は、病状が悪化、帰らぬ人となった。

    引くに引けなくなった慎策に、次から次へと、問題が持ち上がる。
    そして、とうとう憲法違反騒動へと・・。

    無辜の国民の命を守るために、海外に、自衛隊を派遣する決意をする、(偽)総理。
    それが、正しかったのか、間違っていたのかは、わからないけど、改憲を旗頭に結党した、自由民主党に言いたい。
    「早急に、憲法改正を進めるべき」と。
    改憲を旗頭に結党した、自由民主党に

  • 総理大臣にそっくりで、劇団の前座でモノマネをしていた加納慎策がいきなり拉致され、病気で倒れた本物の総理の替え玉をさせられることになってしまう。最初の辺りの乗り切り方が痛快だ。型破りでユーモアがあり、相手の心にも入り込むことができる総理を演じるのだが、慎策、うーん、上手くいきすぎ。この後はなかなか大変なことになっていく。国会での施政方針演説、内閣人事局設置法案の提出、アルジェリア日本大使館へのテロ組織の占拠。自己中心的な官僚組織への取り組みへの族議員や官僚の抵抗、憲法第9条に縛られたテロへの対処の難しさなど非常に大きな問題を取り上げていて、日本人としては簡単に見過ごせないことなのだ。慎策は、国会議員・日本のトップという総理大臣の原点に回帰することを自分自身に突き付ける。最後のテレビを使った解決とレストランでのやり取りは、ほこっとするね。
    中山七里は上手い!テーマもプロットも人間の描き方も素晴らしい。官房長官の樽見には思わず感情移入してしまう。本当の官房長官もこうだといいが。さて、現実の日本政府のトップたちはコロナ禍をどう解決してくれるのか。慎策ならどうしていただろうか。

  • 総理にされた男 中山七里著

    想定外 ⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️

    中山さんは、主人公がピアニスト、検事、解剖医師、銀行員と、まったく違うタイプを執筆されます。
    まず、その時点で驚愕です。
    さらに、その内容は、相当の調べをされた上で執筆されていることも読み取ることができます。

    そして、いよいよ国、政府、首相を主人公に、、、。

    主人公は、総理と似ている舞台俳優です。
    主役ははれず、ひなたにでることなく数年の下積みの繰り返しです。
    さて、そんな彼が誘拐されて、連れてこられたのが首相官邸です。

    なんで?!

    この主人公が自身の置かれた状況の理解に努め、一つひとつ役割をこなしていきます。
    そう、環境に適応することのできるタイプです。

    欲はなく、ただ、ただ、実直に務めを果たす。

    物語の面白さだけではなく、主人公の彼から、生き方、考え方を教えてもらう人も多くいらっしゃるのかもしれません。

  • 総理大臣に、似てるからって急に代役!
    (重症で本人ヤバイ…)
    な〜んも、政治経済の事も分からんのにどうなるの?って感じ。
    強みは、青臭さだけという…
    でも、魑魅魍魎の政治の世界では、新鮮な感覚に見られ、みんなを徐々に魅了する。あんな妖怪だらけのとこで、仕事したくないけど^^;
    何事も初心にかえるのは、重要やな。長く続けると垢が溜まって、あかんし。当然、磨かれる部分もあるやろうけど、思いとかそういうのは、1からってのも大事やと思う。
    今の政治とか、玉虫色な判断とか多いし。それを分かってて、そのまま…
    そろそろ、白黒つける時やな!
    こういう総理大臣の時がチャンスやな!
    なかなか面白かった!
    現実見ると、総理大臣、急に総裁選出んとかなってるし…
    みんな初心にかえって!

    PS
    主人公のように、子供ように目がキラキラやったら、良いけど、もう濁ってそう^^;
    白内障ではないです!!!

  • 役者志望でヒモのような生活を送る加納慎策。
    総理大臣に瓜二つの容姿を活かし、精巧なものまね芸で人気が出てきていたところだった。

    そんなある日、意識不明に陥った総理大臣の替え玉を依頼されあれよあれよと言う間に総理大臣の椅子に座ることに!!


    なんちゅー突拍子もない話やねん!!!
    とたまげたが、これが超面白い。

    政治なんて全然分からないアホな私が読んでも、ページを捲る手が止まらなくなるほど。
    この先どうなるの!?ちゃんと元の家に帰れるの!?
    もう心配で、心配で、心は慎策の母にでもなったかのよう(笑)

    クライマックスの場面は、あれ?私この映像どこかで見てる。。。。
    なぁ~んて既視感が。

    それもそのはず、この場面は中山先生の他の本でしっかり読んでいた。
    読めば読む程、そうだ!確かそうだったと確信に。


    政治苦手の女性でも、かなり勉強になる素晴らしい本じゃないかなぁ~と思う(*^-^*)
    もちろん、話の内容もかなり面白い(*^-^*)

  • ありえないような話ともおもいつつ、絶妙にリアリティがあって、法律を調べて書かれているところも勉強になるし、なによりスリルがあっておもしろい これを読めば選挙の投票率もすこし上がるかもしれない

  • 政治に関心を持つきっかけにいいかも。
    総理大臣にそっくりなことから、総理のモノマネをしていた売れない舞台俳優が、ある日突然拉致されて、総理の替え玉になる!
    アメリカ大統領の替え玉をした人の映画「DAVE(デーヴ)」を思い出しました。(これもおもしろかったです。おすすめ!)
    庶民感覚を持ったままのニセ総理が日本を良くするためにと考えて実行していくのは小気味よいです。なおかつ、舞台が日本で、取り上げられた課題がリアルな分、政治の勉強にもなりました。

  • 役者志望の慎策さん、総理にソックリで意識不明の総理代役にさせられるお話。

    政治まったく分かりませんが、色々勉強になりました。
    慎策さんと一緒に成長できた気がします。(笑)
    展開もドキドキで慎策さんの演説が凄かった。

    面白かったです。

  • 沢山の積読になってしまっている中山七里さん、二年振りですね。さよならドビュッシー以来です。
    皆さんも書かれていますが、本当に面白かった。
    主人公、官房長官、参与の三者がそれぞれの譲れない信念を持って立ち向かう物事に取り込まれました。
    心配だった人も最後の最後で....。
    個人的には樽見官房長官に肩入れしてしまい、つらいものが有りました。
    ただ、全体的には希望が持てる話で良かったです。
    現実も頑張れ!一人一人が考えて行動しないとね。

  • これは面白かった!
    ハチャメチャな設定ながらも、後半はぐっと来ました。
    素人が総理大臣になる設定ものってコメディタッチでいろいろとありますが、本作は、それとはちょっと違うエンターテイメント作品です。

    本作で、今の日本の課題、論点が明確になります。
    政治の勉強ができます(笑)

    ストーリとしては
    売れない役者、慎策は総理大臣にそっくり。
    劇団の前座でモノマネをしながら、貧乏で恋人のヒモの生活。
    ある日、拉致され、意識不明の総理の替え玉をやらされることに。
    その事実を知るのは、官房長官の樽見のみ

    政治知識の全くない慎策でも、その演技力で総理大臣の替え玉になりきれるのか?

    この導入から、
    閣僚、野党、官僚、テロと様々な困難を乗り切っていきます。
    そして、その流れの中で政治を学ぶことができます。
    筆者中山さんの政治に対する考え方も理解できます。

    なんといっても、はやり後半
    内閣人事局設置法案やテロ対応には心熱くなりました。

    こんなにうまくいくはずがないとは思いますが、そんなことは差し引いても、慎策の想いに心動かされます。

    エンターテイメントストーリとして、楽しめました。
    これはお勧め!

  • もし総理になったら?
    ど素人が替え玉!こんな大胆で困難なストーリーを描けるのは先生しかいません!
    最高にスリリングで面白かったです。

  • 中山七里さんといえば刑事もの、ミステリーしか読んだことがなくこのような政治小説は初めてでした。

    政治を知らない素人がいきなり総理大臣に!という展開はよくある話で、『記憶にございません』『民王』などで経験済。
    同じようなコメディタッチかと思いきやそこはやはり中山七里さんと言うべきか、中盤からは怒涛の展開。
    「VSテロ」の部分はとてもハラハラしました。

    解説が池上彰さんであることからも分かる通り、実際の日本の政治を基にした箇所が多くあるため、政治に興味を持つにも役に立つ一冊です。
    インフレターゲット、消費税と法人税の関係、東日本大震災の復興予算の使い道、憲法第9条の是非等々…

    その中で政治家不祥事問題も取り上げられていましたが、
    解決すべき問題は山のようにあるのに、そのための貴重な時間をスキャンダルなんかで潰していいのかと思いました。

    少子高齢化でもはや未来はないと叫ばれる日本ですが、
    悲観する前にまずは自身で考え、自らの一票で未来を託す人物を選ぶことが大切なのだと思いました。

  • 面白かった。
    真垣のように、熱意を持ってストレートに伝えてくる方が安心できるし信頼できる。
    抑揚のない、一辺倒な話し方では伝わらない!!
    今こそ熱いメッセージがほしい。

  • 舞台俳優が総理の替え玉になる…絶対にあり得ないシチュエーション。
    しかしもしそれが現実に起きたとしたら…そしてそれが自分だったとしたら…考えるだけで頭が痛くなりそうです。
    政治に疎い私にとって、入門書のような位置付けで裏を知ることが出来て大変興味深い小説でした。

  • 総理そっくりの容姿の役者が、意識不明の総理の替え玉として政局に向かう物語。
    当初はバレるかバレないか。という不安から事態はそれどころではなくなり。
    閣僚、野党、官僚。そして国際テロへと難題が襲い掛かり。
    参謀はいたとは言え、とても一般人のレベルでは厳しいものではないのかなとも思った。
    自分自身政治に疎い方なので、様々な仕組みやしがらみなど。勉強になる事も多かったけど。
    総理大臣はやはり大変な職務なんだなとも改めて感じました。
    スピーディーかつスリリングに読了。
    今回もいい作品でした。

  • 『しばらく、総理の替え玉をやってくれ』
    時の官房長官・樽見からの提案。

    売れない芸人の加納 慎策は、しぶしぶ真垣 統一郎の身代わりを務めることに。
    そこから始まるジェットコースターの様な毎日。

    果たして、身代わりは上手く務まるのか?
    二転三転するストーリーにハラハラドキドキ。
    政治の仕組みも自然に学べます。

    ・vs閣僚
    ・vs野党
    ・vs官僚
    ・vsテロ
    ・vs国民

    最後のエンディングに、唸りました。
    さすが中山七里さんですね。

  • 設定は荒唐無稽な話。
    作家は自分がなりたい者になれる(特に優秀な作家は)。
    自分が検事なら。自分が喫茶店のマスターなら。自分が教師なら。等々。
    中山七里が政治家を志向しているとは夢にも思わないが、もし自分が総理になって一国の舵取りをしたらどうするだろうと考えながら書いたはずだ。だからここで出てくる総理は現実と青臭い理想の間で苦しんでいく。
    評点が低いのは、作品として面白くはあったが全編を通して作者の施政方針演説を聞かされているように感じたから(笑)

    さて、もし自分が総理になったらあの場面ではどうするだろうか…。

  • 今年読んだ小説の中でトップ1、2を争うくらい好きな作品でした。
    政治にほとんど無関心で、近頃は選挙にも行ってなかったので行かないといけないことを気付かされました。

  • 4.8
    いや〜、面白かった!!
    読んでいて、最後はどうなるんだ??と思いながら読んでいましたが、予想も出来ず、最後はこんなオチかと、思いました。とにかくオチが最高でした。
    この作者、有名ですが私は初めて読みました。この一冊ですっかりファンになりました。
    主人公の思い、語りも、とても自分の価値観に合うものでしたし、話しの書き方、表現の仕方についても、話に入り込んでいるところでいきなりリアルに引き戻されるような違和感のある部分もなく。
    もちろん、話そのものはツッコミどころはありますが、私はそういうのは気にせず読むので、いい具合に楽しんで読むことができました。
    作者の別作品も読んでいきたいと思います。

  • やられた、という気がした。以前、総理大臣を主役に据えたドラマは観たけれども、そこで描かれた総理大臣は、いかにも正義感にあふれて、庶民感覚に満ちた……つまり一般市民にとってある意味で理想形だった。本作の総理大臣(代理)となる主人公は、しがない俳優であり、たまさか容姿が現総理大臣と生き写しだったため、病に罹った総理大臣の緊急代理として祭り上げられた。もちろん、政治的な知識や経験といったバックボーンは持ち合わせてはいない。この設定だけで、ワクワクもドキドキもさせられる。だから、やられた、という気持ちになったのである。

    政府に対する諦念、閉塞感、ひいては絶望をも感じてしまう昨今の状況下で読めば、この物語から大いなるカタルシスを得られる。加えて、政治・経済に対する知識をも獲得できるという意味で、社会学的ハウツー本としての側面もある。解説を池上彰氏が執筆していることからも、著者の政治・経済に対する知識が、本作品にリアルな感覚をもたらしていることが窺えるだろう。

    容姿が似ているというだけで総理大臣(の代わり)を務めることとなった主人公は、知識や政府運営、根回しといった部分は周囲の助けを得ながら、おのが熱意をカリスマへと変換させ、いつしか「本物」の総理大臣となってゆく。リアルな世界では、現総理大臣を見れば端的に理解できると思うが、「本物の総理大臣」となる過程で市民感覚を失い、利権とカネにズブズブにまみれ、結果として本来目を向けるべき国民の信任を失ってゆく。現在の我が国で起きているこうした事態と、物語で描かれるカリスマと国民目線を兼ね備える理想の総理大臣は、まさに強烈なコントラストとなっている。とりわけ主人公が、総理大臣として、常に「自分の言葉で」語り掛けようとして、決して原稿を読まないという姿勢を貫くところは象徴的だ。

    ともすると、政治を扱う物語であり、かつ主人公がその中枢に立つ総理大臣という理由で、敬遠されてしまいがちなテーマなのかもしれない。しかし、老若男女問わず、世界的な大禍に直面している今、多くの人が読むべき小説であろう。

    著者の作品といえば、これまで『さよならドビュッシー』などの著名な音楽家を冠したタイトルのミステリー作品しか読んだことがなかった。それゆえ、大変失礼ながらここまで政治的な物語をものしたことに驚いた。そして、読んでみてその完成度のあまりの高さにもう一度驚愕させられた。物語としても、政治・経済の入門書としても、お薦めできる作品であることは間違いない。

  • ラスト、感動。鳥肌がたって涙があふれた。なんてロマンチックなフィニッシュ。あり得ない事で始まるのだが、現実のことかと思うほどリアルだった。政党の仕組み、しきたりも知らない慎策さんが総理大臣に。総理にされてしまったのである。慎策さんと一緒に政治、経済を学べる小説である。マクロ政治、ミクロ政治、サイレントマジョリティのことも考えさせられる。スリル感もある。コロナ対策真っ最中、オリンピックの件が今現在あるわけだが、慎策さんがどのように乗り越えて行くのかと想像してしまうほど没頭してしまった。

  • 総理に似ているだけの売れない役者が、病に倒れた総理の代役にされる話。ミステリー色は薄いけど、これは単純に面白かった。現実としてこんなにうまいこと進まないんだろうけど、若い総理が青臭くても実直な言葉を発信したら、案外政治家も国民もついていくのかも。
    これは映画にしてほしいなぁ。

  • 面白い!

    読みながら、真垣総理は進次郎、樽見官房長官は菅さんをイメージしてしまった。進次郎...ガクリ

    日々、本当に国のことを考えている気骨のある政治家なんていないんだから、会社員が交代制でやるほうがいいんじゃないか。何なら自分やるけど?と思っていたので
    そうだそうだ!ってすごく納得しながら楽しめた。
    まぁ自分が政治家になったところで、早々に絶望して諦めてしまうのかもしれないけど。

    この本はまだ政治に絶望していない中学生や高校生にぜひ読んでほしい。そして選挙に行き、ぜひ立候補もしてほしい。

    もちろん現役の政治家にも読んでほしい。
    想いが届く政治家はどれくらいいるだろうか。

  • 「政治の勉強、メンドクサイな」
    「社会のことを学んで、なんの役に立つんだろう」

    そんな風に思っている方に、ぜひオススメしたいのがこの小説です。

    主人公の槙策は、ひょんなことから総理に「されて」しまいます。
    読み終わったとき、自分も槙策みたいにひょっとして総理に「される」ことが起こりそうな気がして、誰か自分を総理にさせるために捕まえに来てないだろうか?!とうしろを振り返ってしまう…そんな小説でもあります。

    槙策は売れない役者という設定ですが、それにしてもこんなにうまく総理を演じられるもの?!でしょうか。
    総理よりも総理らしい総理です。
    自分がもし総理になったとしても…残念ながら、とても槙策のようにいきそうにありません…。

    読み進めていくと、政治のしがらみが山ほど出てきます。
    こういう出来事を経て、政治家は「政治家らしく」なり、初心を忘れていってしまうのか…と悲しくなりました。
    だからこそ、庶民感覚のまま政治の中にいる槙策を、応援したくなりました。

    解説には、槙策を通じて政治の仕組みを学べる、とあります。
    確かにそうなのですが、政治の仕組みの説明
    は表現がやや難しく、正直流し読みした部分も多いです。
    小中学校の社会の知識を、全て学校に置いたまま卒業した私は、
    「あー、ちゃんと政治のこと学んでおけばよかったな~。そしたらこの小説も、もっと楽しめたのに…」
    と悔やみました。

    学校で学ぶ知識も、こんな風に小説を楽しむ下敷きになるので、知っておいて損はありません。
    でも、私のように学校で学び損ねたり、授業つまんなくてやっぱり政治について学ぶなんてムリ!という方、大丈夫です。
    今はおもしろく楽しく学べる政治の本が、手に入る時代ですから。

    裏表紙の小説紹介には「痛快エンタメ小説!」とありましたが、これはそんな小説てはありません。
    愉快痛快気持ちよくスカッとする!エンタメという娯楽気晴らし小説!というには、現実にあまりにも似すぎている政治問題ばかりで、ドキドキしてしまい胃が痛くなりそうでした(苦笑)

    政治の説明がちょっと難解な部分があり、「痛快エンタメ小説」というには胃が痛すぎるドキドキ、ということで、☆3つにしました。
    ですが、読み終えたときには「社会」の勉強に身が入ることこの上なし、な小説です。

  • 『総理にされた男』
    タイトルからして面白そうだと思っていたけど、まさかこれほど面白いとは思わなかった

    主人公の慎策は、総理と瓜ふたつの容姿であることを活かして総理の真似をする売れない舞台俳優

    慎策はあるとき官邸に連れてこられ、官房長官の樽見に『病気の総理大臣の影武者をしてほしい』と頼まれる

    そして慎策は総理大臣として、官房長官の樽見と友人の風間と共に政治の世界で躍動する

    ありえない話ではあるけど、政治家の不祥事、官僚主導の政治、憲法9条などの背景も丁寧に描かれていてリアリティもある

    こんな総理大臣がいたらもっと政治に興味を持つ国民も増えるのにと思う反面、ニュースの上っ面ばかり見てる自分を反省

    誰もに読んでほしい一冊
    さっそく妻に勧めます

  • 下手な政治評論よりもよっぽどわかりやすい!着想自体はよくある話だが、それ以上にテンポが良く、引き込まれていく。作者の力量には感心させられた。

  • 妻の挫折本。中山七里さん初読み。劇団員の慎策が蜂窩織炎のため意識不明の重体になった総理大臣の真垣統一郎に代わって総理大臣を務めるお話し。幸運にも慎策は真垣と瓜二つの顔(想定に無理があるがスルー)。慎策は劇団員だけあってパフォーマンス能力は抜群。側近の樽見(官房長官)、風間(大学准教授で友人)が慎策を助ける。慎策は劇団員+純粋無垢なので怖いものなし。内閣人事局設置法について右往左往して可決。最後の日本大使館へのテロは憲法9条がらみで自衛隊出動!で劇的解決。ラストの国民へのメッセージは熱い、熱いよ!

  • 著者の本は、主に推理小説で、どんでん返しがあり、読者をあきさせず、好きで読んでいるが、これは趣向の違ったものである。

    政治小説であるが、非常に面白い。

    何が面白いかと言うと、今の日本の政治に照らしあわせて見ると、そうだよなぁと納得できる。

    国民の為に、という感覚が、今の政治、霞ヶ関の官僚にはあまり感じられない。
    自分達の利得の為に、制度をいいように利用しているかと。熱く語るのは、自分の事に利害が及ぶ時。

    上級国民と下級国民との言葉があるが、まさしく、その事を痛烈に記してある。

    日本人は戦後、耐え忍ぶ事が大切であると、教育されてきた。
    だから、他国のように、大規模なデモもない。
    どうせ変わらないと諦めている。

    そういった点で、ここに出てくる総理みたいな人物が出てきたら、日本は変わるかと。

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著者プロフィール

1961年岐阜県生まれ。『さよならドビュッシー』で第8回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2010年にデビュー。2011年刊行の『贖罪の奏鳴曲(ルビ:ソナタ)』が各誌紙で話題になる。本作は『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』『追憶の夜想曲(ノクターン)』『恩讐の鎮魂曲(レクイエム)』『悪徳の輪舞曲(ロンド)』から続く「御子柴弁護士」シリーズの第5作目。本シリーズは「悪魔の弁護人・御子柴礼司~贖罪の奏鳴曲~(ソナタ)」としてドラマ化。他著に『銀齢探偵社 静おばあちゃんと要介護探偵2』『能面検事の奮迅』『鑑定人 氏家京太郎』『人面島』『棘の家』『ヒポクラテスの悔恨』『嗤う淑女二人』『作家刑事毒島の嘲笑』『護られなかった者たちへ』など多数ある。


「2023年 『復讐の協奏曲』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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