ようこそ来世喫茶店へ~永遠の恋とメモリーブレンド~ (スターツ出版文庫)

著者 :
  • スターツ出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (333ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784813710387

作品紹介・あらすじ

生まれ変わっても忘れたくない
大切な人、思い出…来世へ届けます
カフェ店員に憧れる女子大生の未桜は、まだ寿命を迎えていないにも関わらず『来世喫茶店』—あの世の喫茶店—に手違いで招かれてしまう。この店は“特別な珈琲”を飲みながら人生を振り返り、来世の生き方を決める場所らしい。天使のような少年の店員・旭が説明してくれる。未桜はマスターの孝之と対面した途端、その浮世離れした美しい姿に一目惚れしてしまい…!? 夢見ていたカフェとはだいぶ違うけれど、店員として働くことになった未桜。しかし、未桜が店にきた本当の理由は、孝之の秘密と深く関わっていて——。

感想・レビュー・書評

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  • 『死んだ後に人間が行く場所は、三途の川でも、天国でもない。そこは、現世と来世の間にある、ちょっぴりレトロな喫茶店』

    (*˙ᵕ˙*)え?

    人は死んだ後どうなるのか?どこへ行くのか?誰でも一度は想像したことがあるだろうその命題。人の想像力は無限です。そんな想像の先にそれを小説として世に表した人もたくさんいます。また、そんな小説を読んで、いや違うでしょ、本当はこうじゃないかなあ…とそんな小説を元にして、その上にさらに想像力を働かせて自分なりの死後の世界をイメージすることもあるかもしれません。

    しかし、どんなに偉大な人物が主張する事であってもそれが本当かどうかはわかりはしません。死後の世界を実際に見てきた人などいないからです。もちろん、実際に見てきたと言って商売をされている方もいらっしゃいますが、さて…どうでしょう…。

    一方で死後の世界の正しい姿がわからないとすると、こんな考え方も成り立つと思います。

    ・ある人が小説に書いている死後の世界が本当だった

    確かめられないからこそ、そんな説を否定することは誰にもできないはずです。突拍子もない、あまりにくだらない、馬鹿馬鹿しくてやっていられない、そんな風に思っていたにも関わらず、あなたが実際に死んだ時に、あれ、既視感がある、これってあの小説が描いていたイメージが正しかったんだ…そんな風にあなたが驚く未来が待っているかもしれないのです。

    さて、ここにそんな死後の世界を舞台にした物語があります。『東京の女子大生になれたら』、『緑のエプロンをつけて、お花でいっぱいのカフェで働くんだ』。そんな夢の先にまさかの死亡宣告を受けてしまった一人の女性が主人公となるこの作品。そんな女性が『死んだ後に行く場所』だったはずの『喫茶店』に『生ける人』のまま働くことになるこの作品。そしてそれは、そんな女性が『人生を振り返り、次に繋げる場所』でもあるそんな『喫茶店』で働く中に、現世を生きる貴さをしみじみと感じる物語です。

    『バイト、受かるといいねぇ』と『隣を歩く明歩』に言われ、『お洒落な街の一角にあるカフェチェーン店』の面接へと向かうのは主人公の八重樫美桜(やえがし みお)。『あそこでしょ?じゃ、私はここで』と明歩と別れた美桜は『よし、準備は万全』と『意気揚々と歩き始め』ました。その時でした。『あのっ、八重樫未桜さん、ですよねっ!』と声をかけられ振り返ると『しわ一つないスーツを着込ん』だ『幼い少年がすぐ後ろに立ってい』ました。『髪や瞳の色素が薄く、西洋の絵画に描かれる天使を思わせる外見』の少年の周りには『親は見当た』りません。『ちょっとお時間いいですか?チケットをお渡ししたいんです』と言う少年は『黄色の細長い紙を差し出し』ました。『八重樫未桜様 二十一歳 店舗名:来世喫茶店日本三十号店 来店日:四月九日(金)』という内容を見て『人違いじゃないですか?私、二十一歳じゃないし』と返すと誕生日を確認され、その日付が誕生日の翌日であることを知った美桜に少年はこんなことを説明します。『お名前は、八重樫未桜さん。現在二十歳で、来店日時点では二十一歳。今から二日後 ー ああ、誕生日当日なんですね、かわいそうに ー に急病で倒れて救急搬送され、三日後の四月九日に病院で息を引き取る』。そんな説明を聞いて『…え?』と思う美桜に『亡くなる際は、お父さんがそばで見守っていてくれます』と少年は付け加えます。『ちょ、ちょっと待ってよ!』と慌てる美桜は『死神?』と少年に訊きます。『僕はただの店員…亡くなった後のことを案内して』いると伝える少年。しかし、曜日の不一致、年齢の不一致を相次いで美桜が伝えると二年後の四月と間違ってしまったことに少年は気づきます。『申し訳ありません!二年後に出直しますっ!』と美桜の記憶を消す行為をするも反応がありません。そんな中、バイトの面接時間が過ぎていることに気づいた美桜は『どうしてくれるの!』と少年に詰め寄ります。『「コーヒー屋さんのお姉さん」になりたいと思ってた』と肩を落とす美桜に『来世喫茶店に、今から来てみませんか?』と誘う少年は自らを笹子旭(ささご あさひ)と名乗ります。『”この世”の喫茶店ではないので、給与をお支払いする』のは難しいと言われるものの、『”生ける人”も出入りできる』と言われ『こんなの、興味がわかないわけがない』と思う美桜はその提案を受け入れます。そして、『春の青空を指差した』少年、そんな少年の『小さな白い手が、未桜の手首に触れ』た瞬間、『頭上の桜が揺らめ』き、『視界が薄ピンク色に染ま』ります。そして、『向こうに浮かぶ景色が、常に移り変わ』るという不思議な場所の『芝生の中央』に『レンガ造りで、赤い庇が突き出た、昔の香りのするお店』の姿がありました。『はじめまして。マスターの静川です』と挨拶する男性とともに、まさかの『来世喫茶店』で働く美桜の物語が始まりました。

    “『来世喫茶店』は、18歳の主人公・未桜がひょんなことから「現世と来世の狭間にある喫茶店」でアルバイトを始めることになり、そこを訪れる人々の人生の謎を解き明かしていくストーリーです”。

    作者の辻堂ゆめさんがそんな言葉で直々に紹介されるこの作品。”「現世と来世の狭間にある喫茶店」でアルバイト”という言葉が表している通り、ファンタジー直球ど真ん中の作品世界が展開します。”現世と来世の狭間”というと、多くの方には『三途の川』が思い浮かぶのではないでしょうか?その先の川向こうの世界ではなく、その途中の場所というものを思い浮かべるのは人がこの世への未練をまだ引きずる、そんな現世と継続した感覚が私たちの想像の中に収めやすいから、そんな理由もあるような気がします。西條奈加さん「三途の川で落とし物」、桜井美奈さん「さよならまでの3分間」など、この世に対するある種の未練に光を当てる作品は需要あってのことだと思います。

    そんなファンタジーな作品では、『三途の川』に相当する場所の風景を作家さんがどのように描いてくださるかも楽しみの一つです。では、まずこの作品で辻堂さんがそんな場所をどのように描いているかを見てみたいと思います。

    『いつの間にか、未桜は白い丸石の敷き詰められた小道に立っていた。左右には、丁寧に手入れされた芝生が広がっている』。

    なんともあっさりした表現です。しかし、辻堂さんは『その向こうに浮かぶ景色』に個性を見せられます。『常に移り変わっている』という『向こうの景色』をこんな風に表現します。

    『春の小川が見えたかと思えば、雨が降りしきる住宅街になり、次の瞬間には穏やかに凪いだ海へと変わっている。まるで、透明のスクリーンが空中に吊られていて、映画の予告編でも投影されているかのようだ』。

    なんとも魅惑的なイメージがそこに広がります。しかし、これがこの作品の展開に欠かせないポイントなのです。この『景色』は、ここを訪れる人の記憶、『人生の中で見た、印象的なシーン』が投影されているということに繋がっているからです。そして、そんな場所には、『三途の川』はなく、『喫茶店』が佇んでいます。そんなイメージを辻堂さんはこんな風に定義されます。

    『人は死ぬたびに、この世と喫茶店を往復するんです。あの世=喫茶店』、『喫茶店を訪れた後、人はまた生まれ変わり、新たな人生を開始する』。

    なんともオリジナルな世界観です。『三途の川』といった従来の価値観を一瞬で吹き飛ばしてしまう現代ならではの発想、というより辻堂さんすごい!といった方が良いと思います。そして、そんな『喫茶店』で働くことになるのが主人公の八重樫美桜です。18歳の大学生でもある美桜がそんな『喫茶店』で働くことになるという展開は、上記したとおりですが、なんとこの作品では、そんな前提紹介が長い、長い〈プロローグ〉で語られていきます。なんと作品全体の一割ものページ数を〈プロローグ〉に割くという力の入れようです。しかし、分量を割いてでもこのある意味ぶっ飛んだ設定を読者に理解してもらうことを優先した選択は正解だと思います。その後の物語がすーっと入ってくる気持ち良さがありますし、たっぷり導入にかけた分、物語世界に読者はどっぷりと浸っていくことができるように思いました。

    そんな物語は、〈プロローグ〉と〈エピローグ〉に挟まれた四つの短編が連作短編を構成しています。具体的には、そんな『喫茶店』に四人の客=亡くなったばかりの人が訪れ、それぞれの人生の言わば未練に光を当てていくという構成になっています。では、そんな四つの短編を見てみたいと思います。

    ・〈第一話 メモリーブレンド〉: 『交通事故の後遺症』で寝たきりになり『誤嚥性肺炎で亡くな』った83歳の男性が来店。そんな男性は『今から五十七年前…冬の日のプロポーズの記憶』を大切に生きてきました。しかし、『険悪な夫婦仲』になっていったと語る男性は、自身が妻に『愛想を尽かされ』ていたとかつてを語りますが…。

    ・〈第二話 相席カフェラテ〉: 『金融関係のトラブルを機に心身を病み』自殺した28歳の女性が来店。ホステスとして接客する店に客として来店した『真面目そうな青年』と付き合い始めた女性は、調理師だという青年と『田舎で一軒家レストランを経営する』という『共通の夢』に向かって二人で貯金を始めますが…。

    ・〈第三話 マスターのカウンセリングティー〉: 『卵巣癌を患』い、亡くなった47歳の女性が来店。『高校時代からの大親友』のことを語る女性は、『ストリートライブ』をやるなど『音楽活動』を大学卒業後も一緒に続けてきました。しかし、転職後、距離ができていったと語る女性は、そんな親友に『お泊まり会』を提案します…。

    ・〈第四話 ホットスカウトチョコレート〉: 『通学中に急病で倒れて救急搬送』、『翌朝、父親に見守られながら、病院で息を引き取』る21歳の女性が来店。『二年前に病気で』母親が亡くなった後、父親と二人暮らしだった女性。そんな女性は父親が『新しいパートナー』を見つけたことに複雑な思いに囚われます…。

    四つ物語のタイトルには全て『喫茶店』で出される飲み物の名前がつけられています。そんな飲み物にはそれぞれ意味があり、物語はその飲み物を来店した人物が選択したことでその意味に沿ったストーリーが展開します。来店する人物の属性、選ぶ飲み物、その結果のそれぞれの結末、読者を全く飽きさせない辻堂さんの見事な設定の妙にただただ関心するばかりの物語が読者をこの作品世界に惹きつけてやみません。非常に上手く構成された物語だと強く思いました。

    そして、そんな物語は、作品全体を一つの串で通すようにベースの物語が存在します。それこそが、主人公・八重樫美桜が『生ける人』のままに『来世喫茶店』へと訪れたという展開です。もちろん、この前提なくしては物語は成り立ちません。言わば必然としての物語展開であり、そこに異を唱えてはこの物語は成立しません。しかし、一方で読者とはそんな大前提自体にも意味を求めてしまうものです。そして、読者は、こんなとんでもない設定にどうオチをつけるのか、納得感のある結末を期待してもしまいます。読者というものもなんとも我儘な存在ではありますが、そこに作家さんの腕の見せ所がやってくるとも言えます。この作品は上記した通り、全体の一割という異例の分量を割いた〈プロローグ〉で始まります。それは、その分量をもって風呂敷を広げまくるものでもあり、読者がおおっ!という設定をすればするほどに落とし所がどんどん難しくなっていきます。『生ける人』である美桜がどうして『来世喫茶店』を訪れたのか?旭が持つ記憶を消す『砂時計』がどうして美桜には動作しないのか?そして、そもそも美桜は『喫茶店』で働くことにどうしてそこまでこだわりを見せるのか?そんな風に次から次へと湧いてくる疑問を辻堂さんは丁寧に伏線回収していきます。それは、ミステリーを得意とされる辻堂さんならではの上手さを見る瞬間です。そう、この作品はファンタジック・ミステリー、そんな面持ちの作品でもあるのです。そして、そこに、さらに辻堂さんがブレンドされるのが書名のサブタイトルでもある『永遠の恋とメモリーブレンド』という言葉が表す”恋愛物語”です。

    『ふわりと、胸の奥が浮き上がる。じんわりとした痺れが、身体中に広がっていく』。

    そんな感覚を『おかしい、な』と感じる恋の始まり。『どうしよう。現世でも、来世でもない世界で、私は』…と恋の感情に囚われていく美桜、展開する物語は、とても甘く、とても切ない、キュンとするような”恋愛物語”が絶妙な甘さをもって展開していきます。そんな”恋愛物語”を含め、ミステリーな物語も全てが納得感のある解決を見るその結末。圧倒的な多幸感に包まれる中に、やっぱりファンタジーっていいなあ、そんな想いの中に本を閉じました。

    “かっこよくて若いマスターや、11歳の店員アサくんとの不思議な交流を、どうぞお楽しみください!”

    作者の辻堂さんがそんな風におすすめしてくださるこの作品。そんな作品には誰も見たことのない死後の世界、それでいて私たちの誰もがやがていつかは赴くことになる死後の世界に確かにあるという『喫茶店』の日常が描かれていました。ミステリーを得意とされる辻堂さんの見事な謎解きが幻想的なファンタジー世界を舞台に鮮やかに描かれるこの作品。四人の客それぞれの人生を垣間見る中に、人が生きとし生ける日々の貴さを感じるこの作品。

    辻堂さんが作り上げたファンタジー世界の説得力の強さに、自分は死後、『来世喫茶店』で何を注文しようか?と、思わず思案したくもなるそんな作品でした。

  • スターツ出版文庫
    辻堂ゆめさんの本が読んでみたかったのと、題名に惹かれて!
    突拍子も無い設定かなと思ったけれど、ストーリーも楽しいし、人物も魅力的でサラサラ一気読み。

    この作家さんの他の本も読んでみようと思う。

  • 【収録作品】プロローグ/第一話 メモリーブレンド/第二話 相席カフェラテ/第三話 マスターのカウンセリングティー/第四話 ホットスカウトチョコレート/エピローグ

    未桜の事情が軽すぎて、幸せに生きてきたんだなあと思う。裏表紙の粗筋はネタバレだけどミステリじゃないと考えればいいのか。

  • 死んだ人が訪れる喫茶店というファンタジーな設定。かわいい少年ウェイターとイケメンマスター。
    死が絡むとはいえ、かなり軽い雰囲気の物語だけれど、さすが辻堂ゆめさん、いろんな仕掛けがあって、なかなか楽しかった。

  • あの世にある「来世喫茶店」へ、生きていながら招かれた未桜。カフェへの憧れがあった未桜は、ひょんな事からそこで働く事になり…

    マスターへの一目惚れ、そして来世喫茶店の秘密。話が進むにつれ、その秘密が明らかになり、最終的にハッピーエンドなんだろうけど、できれば生きて幸せになって欲しかったです。

  • 表紙的にもっと子どもっぽい内容だと思いましたが大人にも楽しめる構成でした。死んだ人が転生するために通る喫茶店での出来事。
    最後に色々繋がっていた関係がほぐれていくのも読んでいて楽しかったです。
    他の人が書いているとおり、このお話の後を想像するとただのハッピーエンドではないところがマイナス要素なのでしょうね。でも、それは未来のお話なので、違う結末あるかもと、割り切って読みました。昔の知り合いがアロマキャンドルの火事で亡くなっているので、読みながら切なく思い出しました。

  • 2021年1月スターツ出版文庫刊。メモリーブレンド、相席カフェラテ、マスターのカウンセリングティー、ホットスカウトチョコレート、の来世喫茶店のメニューにある4品を語る4つの連作短編集。来世喫茶店につとめる美桜の謎解きが楽しめる。ただ来世があるとしても、今の人生が終わるというのはやはり哀しい。そこがお話として割り切れない思いが残ります。

  • 初めて読んだ辻堂ゆめさんの作品。
    発想が面白い。人生終えて向かったカフェで飲む一杯の飲み物。この飲み物を飲み終えたら次の人生へと向かう。自分ならこの場にいたら何を選ぶだろうと想像しながら読んだ。
    ぜひシリーズ化してほしいけど、話的にはこの一冊でうまく纏まっている。

  • 亡くなってしまった人が心すっきり旅立って行き、未練とかが無くなるので前向きな内容。孝之がちゃんと未桜を見てるのかなとか、未桜は現世への心残りは無いのかなとか、色々心配になる事も多いんですが、上手く纏まってます。

  • 喫茶店の存在自体は面白いが、死ぬのを待ってるのが微妙。お父さんがいずれここに来ることになったらお母さんを呼び出して一騒動ありそう。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。東京大学在学中の2014年、「夢のトビラは泉の中に」で、第13回『このミステリーがすごい!』大賞《優秀賞》を受賞。15年、同作を改題した『いなくなった私へ』でデビュー。21年、『十の輪をくぐる』で吉川英治文学新人賞候補、『トリカゴ』で大藪春彦賞受賞。

「2023年 『東大に名探偵はいない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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