命の経済~パンデミック後、新しい世界が始まる

  • プレジデント社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784833423878

感想・レビュー・書評

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  • 欧州最高峰の知性、ジャック・アタリさんのコロナ論。

    ジャックさんは怒っている。多くの国が国民の健康維持を国にとっての財産なのだと理解してこなかったこと、一時停止している世の中、政府が思考停止状態に陥っていること、戦時経済体制を敷こうとしないこと、無為に自由を侵害する政策が施行されていること、無為な指導者の怠慢のツケを貧者とその子供達が払わなくてはならないこと、以前の世界に戻ることを夢見る人々、きれいごとだけを並べててる人々の多さ、世論の幻想をただそうともしない指導者たち、或いは指導者気取りの人々に対して。

    パンデミック以前の世界に戻ることはありえないとして、来るべき未来に備えるためなすべきことを語っている。

    多くの人は、今回の危機によりアメリカの覇権は幕を下ろし、代わって中国が覇権国になると考える。しかし、ジャックさんは今回の危機で両国は衰退し、覇権なき世界へ向かう変化が加速すると考える。

    覇権なき世界の中で、自由、力、豊かさを実現するために「命の経済」を説く。

    我々の生活様式と生態系への影響が、今回のパンデミックを大きく悪化させた。だから、我々は、組織構造、消費、生産の形態を抜本的に見直す必要がある。
    生産がこれまで著しく不足していたが、生活に必要不可欠だと判明した部門、「命の経済」へと社会を誘導する必要がある。
    それは、
    ①パンデミックとの戦いに勝利するために必要な部門。
    ②パンデミックによって必要性が明らかになった部門。

    例えば、
    ①治療薬とワクチン、ヘルスケア、マスク、検査用キット
    医療機器、公衆衛生。
    ②小肉多菜、小糖多果、地産地消
    レストランのテーブルの配置、テイクアウトサービス。
    ③一極集中の是正。
    隔離施設としても利用可能な構造のバカンス村。
    ④永続的、実践的、具体的な教育。
    デジタル化に向き合える人材の育成、遠隔指導。
    生涯学習の拡充。

    そして、今後、新たなパンデミックの出現があれば、恐怖に曝された人々が自由より安全を優先し、他者への警戒から他者そして自身が監視されることを容認するようになる。
    つまり、独裁社会が出現するだろう。

    それに打ち勝つには代議制で、国民の命を守り、謙虚で公平で将来世代の利益を民主的に考慮する「闘う民主主義』への移行が求められる。

    ふうっ。


    以下、メモ。
    ・死に意味を付与することに成功すると、その文明は繁栄する。逆に、意味を見出すことができないと、その文明は消滅する。

    ・感染症が蔓延すると、自由は疑問視されるようになり、民主的であろうとする社会体制は崩壊する恐れがある。

    ・自由になるには、各自が自己をできるだけ正確に知ろうと関心を持つことが重要だ。

  • 『命の経済』というタイトル(原題も)からは、何が書かれているかは、わかりにくいが、そもそもの人類と感染症との戦いから、昨年のパンデミック、経済など、その影響、パンデミック以降のこと、命の経済、つまり、ヘルスケア産業を重視せよとの提言が、データを散りばめて書かれている。
    が、どれもあっさり書かれているので、内容的には値段の割に、薄い。
    ただ、政権の中枢にいたので入手できたのか、意図的にデータを駆使している点は貴重である。
    なので、ごくあっさりと新型コロナの影響、それ以降の世界を知るのには適していると思う。

  •  ジャック・アタリさんは新しいウィルスによるパンデミックを警告し続けてきた。そこへ今年2020年のコロナ・パンデミックが到来し、未曾有の社会的混乱が引き起こされた。
     本書は都市封鎖による自宅待機のあいだに書かれ、6月にフランスで出版されたものに、恐らく7月に加筆されたものを和訳し、10月にプレジデント社から出版されたものである。まさに風雲急を告げる渦中に執筆されたわけで、世界中でのパンデミックの事態はその後も刻々と変化してきているため、こんな早期にコロナ禍に関する著書を出してしまってよいものかどうか、アタリさんも迷ったようだが、すぐにでも公開したいメッセージがあったと思われる。
     世界各国に研究センターのような拠点を持ち常時社会に関する最新の情報を収集して分析しているアタリさんが、本書前半で新型コロナウィルス感染症が出現してから様々な国で展開された態様をつぶさに記録する。この部分は手に汗を握りながら読んだ。氏は韓国による初期のコロナ対応を高く評価しており、諸国は韓国の手腕に学ぶべきだったのに、独裁国である中国の真似をして都市のロックダウンに踏み切ったことを「誤りだった」と指摘している。韓国はかつてMARSへの対応で一度失敗しており、その経験を教訓として、感染症対策を着々と進めてきたのである。1月のまだ韓国国内に感染者が1人も出ていない頃から、韓国は素速くマスクや検査キットの大量生産に取りかかっていた。これにより、感染者が出始めると迅速に大量の検査を行い、マスクを国民に配布することができた(もちろん、アベノマスクのようなしょぼいものではない)。
     中国にならって欧米諸国が都市のロックダウンを行ったことにより、一時的にせよ経済活動が世界的にストップするという、前代未聞の状態が現出したのだが、これによる影響はまだ全貌が明らかになっていない。そして、本書の刊行後、初冬になってヨーロッパは大きな「第3波」に見舞われ、再度ロックダウンする事態となった。
     この社会的異変による経済上の結果はまだ全てが見えて来ていないが、失業者が溢れ各国は厄介な対応を急がせられるはずである。それ以外にも、このパンデミックは、最近の世界的な情勢を更に急速に推進させた。貧富の差は一層大きくなり、中産階級の没落は早まった。権力による人権の抑制、強制力をより高めようという世論が高まり、民は自ら民主主義を捨てるような方向へと向かう。
     本書後半にはこれからはこうあらねばならない、という論が展開されているが、このような予言的なことをアタリ氏が書く時いつもそうであるように、ちょっと抽象的すぎて、なんとなくパッとしないように感じる。
     アタリ氏は「コロナ禍が終わったら、元の世界に戻れる」というような期待は幻想に過ぎないと批判する。そうではなくて、社会はここから大きく変容していくだろうというのだ。医療・保健衛生などの分野が最重要のものとして見直され、大きく発展して行く。これは「予想」なのかアタリさんの「期待」なのか判然としないが、氏はこれを「命の経済」と名付ける。
     観光業や航空業など、多くの業種はやり方を徹底的に再考し、持続可能な形態に再編しなければならない。
     教育はオンライン化をより進めていくだろう。ただし、オンライン授業だけでは得られないような体験を、生徒たちが得られるような余地を残さなければならない。
     都市に集中しすぎた人びとは、感染症を教訓とし、一極集中から離脱する方向に向かう。
     アタリ氏は危機に直面する今こそ、「闘う民主主義」が必要だと言う。
     特に、日本の自民党の政治家に叩きつけたいような言葉が最後の方に載っている。
    「あらゆる危機は最貧層に最大の影響を及ぼす。そして政府は、現状と今後訪れる状況を耐え得るものにするために、社会正義の必要性をまずもって認めなければならない。まずは税負担の公平性だ。とくに、超富裕層に重税を課すことを拒否するようでは、民主主義は生き残れないだろう。超富裕層のなかには、今回の危機で資産を増やす者さえいるだろう。」(P287)
     アタリ氏はこの新型コロナ・パンデミックが終息した後も、また別の新たなパンデミックが何度でも襲ってくるだろうという前提に立っている。それはやはり、人類の文明が「自然」の秩序を破壊してきたことによるツケだと言う。
     
     新型コロナウィルスによる世界の大転換をめぐり、本書の続編や続々編を、アタリさんには是非出して欲しいと思っている。

  • パンデミック流行の直後にここまでのことを書ける頭脳に素直に驚く。さすが知の巨人。

    歴史や世界の他の事例に学び、問題の本質は何かを突き止め、戦略を描いて対処することの重要性と、それができていない政治が多すぎると素直に感じた。

  • 2020年に書かれたものを読んでも、どんなに内容が良くてもロシアによるウクライナの軍事侵攻が世界を最悪な形で変化させてしまったことを思わずにいられない。とはいえ、内容はいい。この人の他の本も読みたい。

  • 304||At

  • 平易な文章で読みやすい。

  • この著者の2030年の未来予測を読んでいたからか、まだショックは少なかった。
    世界がシナリオ通りに進んでいるだけだとしたらこわいなあと思いながら軽い知識として読んだだけ。

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著者プロフィール

ジャック・アタリ(Jaques Attali)
1943年アルジェリア生まれ。パリ理工科学校を卒業、1981年大統領特別顧問、1991年欧州復興開発銀行初代総裁。1998年に発展途上国支援のNPOを創設。邦訳著書に『アンチ・エコノミクス』『ノイズ』『カニバリスムの秩序』『21世紀の歴史』『1492 西欧文明の世界支配』など多数。

「2022年 『時間の歴史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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