黄色い夏の日 (福音館創作童話シリーズ)

著者 :
  • 福音館書店
4.12
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感想 : 27
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784834086263

作品紹介・あらすじ

七月半ばの日曜日。初夏の日差しが落ちる道をたどり、景介の向かう先にその家はあった。中学生になって入った美術部で、建物を描くという課題がだされた時、まっ先に浮かんだのが、木々と草花に囲まれて建つ、灰色の壁と緑の屋根の古めかしいその洋館だった。主の老女に招き入れられ、足を踏み入れた洋館で、景介は1人の可憐な少女に出会う。一目見たその時から、ゆりあと名乗ったその少女に景介は心引かれていくのだが……。

感想・レビュー・書評

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  • 話の展開はかなり感覚的で分かりにくいのだけど、描きたかったことはハッキリしてると感じた。
    謎めいた洋館と謎めいた少女、そこに少年少女だけではなく、老女が絡んでくるのが最近の高楼さんぽい。
    挿絵も効果的に挿入されていて、日常の隣の異世界を堪能出来ました。好き。

    アホっぽい感想で申し訳ないが、主人公がやや子に言った言葉は「困った時に〜」の台詞はめっちゃイケメン……!
    こんな事を言える子がいたらそれはモテますよね。

  • 一行目:七月半ばの日曜の午後だった。

    前回読んだ、十一月の扉がとても良かったので、図書館に在庫のあるものから。
    お恥ずかしながら、あんなに作品数のある方だとは知らず。なんで読む機会がなかったんだろう。

    今回も大変記憶に残る、いい本だった。絵もすばらしい。
    小谷津さんも素敵なキャラだけど、息子さんの誠也さんがよかったなぁ。
    まだティーンの主人公たちに向かって「〜だから、母が、こうして、きみたちと仲良くしているというのが、実は非常に不思議なんです。きみたちくらいの、まさに思春期の子どもなんか、鬱陶しいと思うような人だと思ってましたからね」とハッキリ。

    作者が描く大人は、いつも正直に生きている人が多い。
    そんで、おばあちゃんでも子どもを鬱陶しいって思っていいんだ!という清々しい気持ちにもなった。

  • 中学生の景介が、古い館で経験する、ひと夏の物語。
    児童書で、ファンタジーの形式をとっているのだが、私にはややわかりにくかった。

    古谷津艶子の人生と景介が、時空を超えて関わり合うのだが、それは老人の記憶の中にもなかったことも含まれており、ただ書物と日記だけが真実を物語っている。
    晶子は現実のままにとどまるが、謎解きの一端を担う。

    メッセージ性のある部分はよく伝わるし、さすがに言葉の選び方も素晴らしい。こんなふうに語れる人なのに、物語全体を通すとやや混乱して、若い人に届きにくいかもという印象。(私の理解力が足りないだけかもしれないけど)
    高楼さんの新作は、艶子さんの人生を借りて、ご自身を重ね、若い世代に大切なことを伝えたかったのかなと思う。
    愚鈍な私は、賢明な若い方たちに、この物語が届くよう願うよりない。

  • 中1の夏を迎えた景介は、美術部の課題の絵を描くために以前から惹かれていた家に向かっていた。

    三角帽子を思わせる尖り屋根に真四角の窓や縦長の窓がいくつか並び、歳月の中でじゅうぶんに古色を帯びた建物はしっとりと落ち着いていた。
    緑の草原に眩いほどのキンポウゲ。
    まさしく絵にしたいと思うほどだろう。

    そこに住む小谷津艶子さんは、祖母が入院していた時に隣りにいたおばあさんだった。

    その庭で知り合ったゆりあと仲良くなり、時をおいて裏の家のやや子とも親しくなる。
    けれどいずれも艶子さんがうたた寝している少しの時間だけ…。

    艶子さんの探している本を見つける為に大量の蔵書の片づけを手伝うことになるが、ゆりあに会いたい一心でもあった。

    幼なじみの晶子が、ただならぬ景介の様子を見て後をつけてから彼女も艶子さんと親しくなるのだが…

    その頃には、景介はゆりあの存在に疑問を持ち、やや子とは…いったい誰かと漠然とした考えを巡らせていた。

    引き込まれてしまうほどの魅力がたっぷりと詰まった本。
    憧れと優しさと夢中になれるものがある。
    そして、この家と庭のキンポウゲの風景に気持ちをもっていかれるようだった。

    夏は終わってしまったけれど夏におすすめの児童書といえるだろう。

  • 中1の夏景介が古い趣ある住宅に魅せられ住人の艶子というおばあさんと交流を深める。急にやつれた景介を心配する幼馴染の晶子。やや子やゆりあとは誰なのか?景介があまりに優等生っぽく思えたがこの役柄には相応しい。艶子さんの言葉が心に響く。

    • たださん
      111108さん、こんにちは。

      読んで下さったのですね。ありがとうございます(^_^)

      木村彩子さんの絵、印象に残りますよね。

      最初の...
      111108さん、こんにちは。

      読んで下さったのですね。ありがとうございます(^_^)

      木村彩子さんの絵、印象に残りますよね。

      最初の館とその庭も印象的でしたが、途中で、突然現れる絵には、何かの終わりなのか、それとも始まりなのか、怖いような、儚いような、考えさせられるものがありました。
      2022/08/16
    • 111108さん
      たださん、コメントありがとうございます!

      そうなんです。いつものように短い文でレビューした後に、この印象的な館の絵と途中の見開きいっぱいの...
      たださん、コメントありがとうございます!

      そうなんです。いつものように短い文でレビューした後に、この印象的な館の絵と途中の見開きいっぱいのキンポウゲの事を書き忘れた!と、追加で書き加えちゃいました。

      たださんの『黄色い夏の日』のレビューにも、ぐいぐい勝手なコメントをしてしまいました(*´-`)お時間あったら目を通してくださいな♪
      2022/08/16
    • たださん
      111108さん、コメントありがとうございます♪

      今日が休みの内に、あちらも目を通させていただきました(^_^)
      111108さん、コメントありがとうございます♪

      今日が休みの内に、あちらも目を通させていただきました(^_^)
      2022/08/16
  • 高楼方子さん、ラジオで始めて声を聞いた。
    なんか可愛らしい感じ。
    ああこのひとがこーゆー物語を紡ぐんだなあっと納得。

    ひと夏の恋と成長物語、と言うことなのかな。
    不思議な雰囲気をもつ家に惹かれる少年が
    そこで出会い恋をする。
    恋わずらい、とはよく言ったもの。
    そこまで誰かを想う、と言うのは正直よく分からないんだけれど、心が動かされるってゆーことなんだろうなあ。
    狂うほどに。
    児童書に 狂う、と言う言葉が出てきたことにびっくりした
    柳田國男の狂う一歩前の話を思い出した。
    過去と現在と現実と空想とが重なって重なって
    その時にしかない空間が生まれる・
    案外現実は簡単にひっくり返るものなのかも、とも思ったり
    けれどそれはいろんな条件が揃ってのこと。
    キンポウゲも咲き終わり、家もなくなってしまえば消えてしまう儚いもの。
    なんとか現実に戻った少年は幼馴染と大人になるんだろう。

    ヒミツの場所、自分にとって特別な場所ってのを
    持っていたい、という感覚はよくわかる。

  • 『その家は、木々と草花に囲まれながら、堅牢に、しんと建っている。黒ずんだ灰色の壁と緑の屋根の古めかしい、決して大きくはない洋風建築で~(中略)~その家を目にしたときから心惹かれていたのだった。家そのものだけではなく、黄色い小花が木立の間にちらちらしていた前庭の景観をふくめて、まるごとぜんぶに。』

    高楼方子さんの作品で、『怖い』という感情が生じたのは初めてかもしれない。
    しかし、その感情は、別の言葉の裏返しであるようにも思われ、それは、人を想うことに囚われた一途さから始まったのかもしれない。

    中学一年生の「景介」と、その幼馴染みの「晶子」が、上記の洋館に一人住むおばあさん、「小谷津さん」を訪ねて、菩提樹の花茶を飲みながら楽しむ、やや現実離れしたささやかなひと時は、読んでいて心地好く、素敵な時間に感じられ、窓から見える前庭には、黄色く咲き誇るキンポウゲの群れ・・

    最初に、景介が洋館に惹き付けられた時から、既に予兆はあったのかもしれない、その幻想的で不思議な出来事には、一応、解答めいたものが終盤にあり、それを知ったときの私の感情が、上記の『怖い』だった。

    景介が初めて知った狂おしい想いと、その真意が分からずに悩み苦しむ晶子と、二人の心のフィルターを通すことで、改めて、これまでの人生の喜びを再認識する小谷津さん。この三人の関係性は、思いのほか深いものがあり、中学生二人が小谷津さんに関わったようでいて、実は全く逆で、その遥かなる時を隔てた、人を好きになるという想いの、呪術にも似た、奇跡を起こすかのような神秘的な力には、まず怖さを感じてしまったのだ。

    しかし、ラストシーンの、景介の興味の対象が、やや変化した姿を見ると、どうやら景介自身は、そうした風に思ってはいないようで、しかもその怖さを、人間の持つ一部分だと解釈しているようにも思われる、その姿勢には、狂気にも近い、人を想う気持ちの不可思議さを、景介自身も実感したからだと思い、改めて、小谷津さんの少女時代に湧き起こった、自らの行動指針と相異なる、もう一つの欲望には、良い悪いという概念ではなく、人間の起こす行動として、とても共感できるものがあった。

    • 111108さん
      たださん、お返事ありがとうございます。

      今私の方のコメント読んできました(´∀`;)どちらにもコメントいただきありがとうございます♪

      高...
      たださん、お返事ありがとうございます。

      今私の方のコメント読んできました(´∀`;)どちらにもコメントいただきありがとうございます♪

      高楼さんノスタルジー溢れる作品が似合いそうですね、一冊しか読んでない私が言うのも何ですが。『ルチアさん』もたださんのレビューで気になってるので、読みたいリストに入ってますよ。

      本当に不思議な三角関係みたいな図式ですね。
      人は自分と境遇が似てるなど身近な所で出会い成長していくと思いがちですが(部活とかバンドとかバイトとか)、この3人のように(景介と晶子は幼馴染ですが)年齢や境遇を超えふとした偶然からお互いが作用し合っていく関係が素敵だと思いました。
      2022/08/16
    • たださん
      111108さん、返事のお返事ありがとうございます♪

      そうですね。景介と晶子はともかく、そこに艶子が関わってくるのは、ちょっと出来過ぎなの...
      111108さん、返事のお返事ありがとうございます♪

      そうですね。景介と晶子はともかく、そこに艶子が関わってくるのは、ちょっと出来過ぎなのではとも思いそうですが、本書の場合、その理由がはっきりしているので、幻想的な要素を上手く取り入れて、現実的な成長ものに作用させていくのは、よくよく考えると、すごいことしてるんだなと、思いました。

      『ルチアさん』、読みたいリストに入っているのですね。ありがとうございます(^_^)

      そちらは、本書とはまた違った趣なので、111108さんが読んで、どう思われるのか、気になります。

      そちらのレビューも、楽しみにしてますね(^o^)
      2022/08/16
    • 111108さん
      たださん

      お返事ありがとうございます♪
      『ルチアさん』積読本ある中いつになるかわかりませんが読みたいです!
      たださん

      お返事ありがとうございます♪
      『ルチアさん』積読本ある中いつになるかわかりませんが読みたいです!
      2022/08/16
  • 中学受験する子どもが、国語の過去問に載っていて、きれいな物語だったから全部読みたい、ということで借りてきたこちらの本、色合いで言うとエメラルドグリーンがかっていて、ミステリアスなファンタジーです。
    本人は勉強に忙しく、結局最後まで読めず、私も半分ぐらいまで読みましたが、それ以外の日々の忙しさに時間を奪われ、返却日になったため、そこで返却しました。
    先にガンガン読みすすめたい、最後まで読みたい、とならなかったため星三つですが、途中で中断した際も、ふんわりその世界観に包まれているような不思議な感じがしました。

  • 古い洋館に住む老女と、ときおり姿を見せる美しい我儘な少女。これはファンタジーの王道の…とわかってて、何となれば、主人公の少年もそれをわかってて、それでもひきずりこまれてしまう。美しさも甘さも人を壊す不吉な影。それでもひかれてやまない夏の日の強い光。毒の回りがすごすぎる。

    途中で1ページだけはさまれる挿画がある。キンポウゲの咲き乱れる庭。ぞっとして、思わず本を閉じてしまった。

  • 洋館、おばあさん、少女、花、本、日記、昭和…。昔と今が交差するファンタジーを書かせたら高楼さんは絶品だ。特に今回は洋館ってのがまた。幻想的な雰囲気をより掻き立てる。人間の想いの強さは想像もできない奇跡を起こすこともあるのかもしれない。不思議はそこかしこに溢れている。

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著者プロフィール

高楼方子 函館市生まれ。絵本に『まあちゃんのながいかみ』(福音館書店)「つんつくせんせい」シリーズ(フレーベル館)など。幼年童話に『みどりいろのたね』(福音館書店)、低・中学年向きの作品に、『ねこが見た話』『おーばあちゃんはきらきら』(以上福音館書店)『紳士とオバケ氏』(フレーベル館)『ルゥルゥおはなしして』(岩波書店)「へんてこもり」シリーズ(偕成社)など。高学年向きの作品に『時計坂の家』『十一月の扉』『ココの詩』『緑の模様画』(以上福音館書店)『リリコは眠れない』(あかね書房)『街角には物語が.....』(偕成社)など。翻訳に『小公女』(福音館書店)、エッセイに『記憶の小瓶』(クレヨンハウス)『老嬢物語』(偕成社)がある。『いたずらおばあさん』(フレーベル館)で路傍の石幼少年文学賞、『キロコちゃんとみどりのくつ』(あかね書房)で児童福祉文化賞、『十一月の扉』『おともださにナリマ小』(フレーベル館)で産経児童出版文化賞、『わたしたちの帽子』(フレーベル館)で赤い鳥文学賞・小学館児童出版文化賞を受賞。札幌市在住。

「2021年 『黄色い夏の日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

高楼方子の作品

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