京大変人講座: 常識を飛び越えると、何かが見えてくる (単行本)

  • 三笠書房
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感想 : 47
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784837927792

感想・レビュー・書評

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  • 日本が誇るぶっ飛んだ人たちの巣窟、京大。
    実はこの京大で、変人講座という一般向けの講座が開講されているらしい。このご時世なのでオンラインでも受講できるそう。

    http://www.gaia.h.kyoto-u.ac.jp/henjin/lecture/lecture-3901/

    この本ではその講義の一端、6つの講義が紹介されている。どれもこれも一般向けに書かれているので、とっても読みやすい。個人的に刺さったのは「なぜ鮨屋のおやじは怒っているのか」「なぜ、遠足のおやつは"300円以内"なのか」「『ぼちぼち』という最強の生存戦略」の3講。

    こういう形で、一般向けに色んな学問分野の考え方、見方を紹介するのはとても貴重なことだと思う。昔読んだ大阪大学出版の「ドーナツを穴だけ残して食べる方法」と共に、その学問領域でどういう見方、考え方をするのかを伝えてもらえる良書。自分が高校生のときにこういう本に出会っていたらもっと進路についてよく考えたかもしれない…と思わせてくれる本だと思う。

    東大とか京大とかいうと、多くの人達にとっては「むちゃくちゃ頭がいい、普通とは違う人が行くところ」みたいなイメージがあるかもしれない。でもそういう思い込みが自分自身、ひいては子供達の可能性を狭めてしまうのではないか。

    少し手を伸ばせば色んな世界に触られる現代だからこそ、親自身が色んな世界を知り、子供の可能性を広げてあげないとなー、と。そんな事を考えさせてくれる本でした。

  • 多様性を持つことの重要性を教えてくれる本です。
    「変わっている」という言葉は、あまり褒め言葉とは受け取られないことかもしれませんが、京大では褒め言葉となるようです。
    そもそも人類をはじめとする生物は、環境の変化が起こった際に、変化に対応できた「変わった人」が生き残ってきました。
    社会の変化が激しくなる中、「変わっている」≒多様性を持つことが重要視されていますが、多様性を受容(歓迎)する意識を高めるために役立つ1冊だと感じました。

    【特に覚えておきたいと感じた内容の覚え書き】
    「サービスにおいて、提供者側が客を満足させようとすると、かえって客は満足しなくなるというパラドクス(逆説)が起こる。サービス側の気持ちが透けて見えてしまうと、上下関係が生まれ、提供者は従属する側となり、立場が弱くなり、価値が低く感じられ、客は満足しない。」
    「『不便』は、自発的な工夫やチャレンジを許してくれる、度量の広さを持っている。『便利』だと、何でもやってくれるが、ユーザー側の工夫を許してくれない。不便さには、ものの価値を上げ、モチベーションを上げる性質がある。楽(ラク)だと、楽しくなく、プロフェッショナルが育ちにくい。」
    「誰にでも平等に、不平等はやってくる。世の中には不平等なしくみが数多く存在するのは仕方がない。いったんこの世に生を受けてしまえば無計画で何も決まっていないから、チャンスは存在する。無計画さはムダ、無節操、無責任、身勝手ではあるが、強いネットワークを築ける。」
    →不便さ(不平等)がチャンスを作り出すということを覚えておきたいです。なぜ鮨屋のおやじは機嫌が悪いのか、なぜ遠足のおやつは300円以内なのかを考えることから、ビジネスで重要なことを導き出せるということも非常に面白いと感じました。身近な「なぜ」を考えることで学べるものが多いことを教えてくれています。

    【もう少し詳しい内容の覚え書き】

    ○“変人”がいるから人類は発展してきた
    ・「違う道を一緒に歩む」。同じ道を一緒に歩いたら、どこかで煮詰まってしまう。議論する、話す、語らう中で、孤独を恐れず個を深堀りする。
    ・地に足をつけているだけだと、行動に移せない。大学は、ちょっと世間と浮いている人が行動しながら生きていける場所であるべき。

    ○地球の教室-毒ガスに満ちた「奇妙な惑星」
    ・地球に酸素がない時代の生物は、酸素を必要としなかった。彼らにとって酸素を取り込むことは自らの身体を燃やすことを意味し、酸素は猛毒であった。酸素を必要とする人類が今の地球上で繁栄できているのは、その“猛毒”にたまたま適応できた“変わった生き物”が生まれてくれたからにほかならない。
    ・人類、地球の未来を考えると、差し迫る問題ばかりにとらわれがちだが、すべてがあってこその「今」。誰かがそうしようと思って、現在の地球環境ができたわけではなく、起こってきたことにひたすら対応してきた結果。未来の地球に生き残るのは、意外な“変人たち”。そう信じて、「変な生き物」として堂々と生きていくべき。

    ○経営の教室-なぜ鮨屋のおやじは怒っているのか(「お客様は神さま」ではない)
    ・サービスの基本的なしくみは、客と提供者が一緒に参加して価値をつくっていくもの。一方的に与えられるものではなく、“人と人の間にある”。寿司やフレンチなどが高級になればなるほど、「笑顔」「情報」「迅速さ」などの「サービス」と呼ばれるものは提供されなくなるのも、それに基づく。
    ・サービスにおいて、提供者側が客を満足させようとすると、かえって客は満足しなくなるというパラドクス(逆説)が起こる。サービス側の気持ちが透けて見えてしまうと、上下関係が生まれ、提供者は従属する側となり、立場が弱くなり、価値が低く感じられ、客は満足しない。
    ・おもてなしは、必ず経済的な循環の中に取り込まれているが、「見返りを求めていないように見える」という部分に値打ちがある。提供者が一方的に客を満足させる、次から次へと顧客のニーズに応えて新商品を提供し興味を引きつける、客の好みに寄り添って「いいね」をもらおうとする、というサービスのあり方は限界が来ている。
    ・「作法」とは、非常にややこしく、合理的で効率のいい物事の対極であろうとするもの。わからないことが大事。一握りの人にしかわからないからこそ価値が生まれる。「合理的で効率がいい」という方向性をよしとするのは「労働」、「労働者」。

    ○法哲学の教室-人間は“おおざっぱ”がちょうどいい(安全、安心が人間を滅ぼす)
    ・世間一般に認知されている「安全・安心」に違和感があるのは、①「安心」と「安全」がいつもセットで扱われている、②人任せ、国任せにしてしまいがち、③キリがない、という3つのポイントがある。
    ・安全と安心をひとくくりにしてしまうと、非常に危険な状態でも無理やり危険を見ない、安心できるまで安全を追求してしまう、安心できないと人に頼ってしまう、という3つのパターンで有害になりうる。
    ・一つひとつの不安が小さくても、積み重なると大きくなる「不安カスケード」が引き起こされることがあるが、要素として、まず、不安の種(不安な気持ちにさせる原因)があり、それが一定の条件がそろって「畑」ができてしまうと、そこに根付いた「不安の種」があっという間に芽吹き、成長していく。
    ・不安の種はなくならず、無限に生まれる。不安を消すには多大なコストがかかるし、躍起になるほど、矛盾も増える。広く世間を見渡せば、そこまで極端な自体にはなっていないが、それは「本当に気になること」と「どうでもいいこと」の取捨選択を自然にやっているからで、これが悩みを解決するカギになる。
    ・すべての判断を国など他者に委ねるのではなく、自分の感覚を信じ、育てることをもう少し大事にしてもいい。考えるべきは、未来が予測と違う方向へ転がり始めたとき、起きたことをどう受け止めるか。受け止めた瞬間に、それがおもしろく楽しいものに転じる可能性が生まれる。

    ○社会デザインの教室-なぜ遠足のおやつは“300円以内”なのか(人は「不便」じゃないと萌えない)
    ・「不便」は、自発的な工夫やチャレンジを許してくれる、度量の広さを持っている。「便利」だと、何でもやってくれるが、ユーザー側の工夫を許してくれない。不便さには、ものの価値を上げ、モチベーションを上げる性質がある。楽(ラク)だと、楽しくなく、プロフェッショナルが育ちにくい。
    ・自動化は便利になるが、いざというときの問題解決法まで理解が及ばない「ブラックボックス化」、任せてもらえないことによりモチベーションが低下する「タスクの変容」という問題がある。

    ○生物の教室-ズルい生き物、へんな生き物(“単細胞生物”から進化の極みが見える)
    ・生物の世界はまだわからないことだらけで、知識・認識は日々変化する。多様性は、発見して、訂正しながら、少しずつ正しい理解を進めていくもの。社会が生物に対して認識している「多様性」はごく一部、確実に知っているのは「まだすべてを知らない」ということだけ。
    ・カテゴライズ、グルーピングしようとするほど、「例外が多すぎる」「わかっていることが少なすぎる」という現実に直面するが、わからないことをすべて知ることができたら、完璧なカテゴライズが可能になるかもしれない。わからないからできないということは、裏を返せば、わかればできることになる。
    ・環境が、生物の生き方や生物そのものを変える進化を引き起こすことがあると考えられている。人間の生き方も多様化した。他の生物と同じで、変わり者だからこそ、新しく生きる場所を見つけられる生き物がいる。人と違うことは、他の多くの人が真似できないとっておきのチャンスを手にしたと思ってみる。

    ○予測の教室-「ぼちぼち」は最強の生存戦略(未来はわからないが、なるようになっている)
    ・同じところに入れたつもりが、どんどん離れていってしまい、どこに入っているかわからなくなるのが、典型的な「カオス」。それは日常的な動作の中に潜んでいて、特殊な条件で生まれるわけではない。
    ・一方、世の中は小さな図形が集まって大きな形が形成され、「全体」と「部分」が限りなく同じ形をしている「フラクタル図形」があらゆるところに見られると言われる。そこから導き出されるのは、世の中はどうがんばっても予測できないものだということ。同じことをやっても、出てきた結果はちょっとずつズレていく。
    ・現実のネットワークには「普通」という概念がない。例えば、自分にそれほど友人がいなくても、もっと友人が少ない人はたくさんいるので、なんとなく安心できるバランスを保っている。普通がないので、1つの関係が途切れても、別のバイパスがつながり、全体としてバラバラになることはない。
    ・誰にでも平等に、不平等はやってくる。世の中には不平等なしくみが数多く存在するのは仕方がない。いったんこの世に生を受けてしまえば無計画で何も決まっていないから、チャンスは存在する。無計画さはムダ、無節操、無責任、身勝手ではあるが、強いネットワークを築ける。

  • 変わったこと(誰も手を出さないようなこと)を究める人がいるから、新たな発見・見方が生まれ、私たちの生活が色鮮やかになっているということを実感できる本でした。
    本書では6人の京大の先生が、私たちにも身近なテーマをすごく分かりやすく説明してくださっており、目から鱗の話も多かったです。
    個人的には、高級鮨店の板前の無愛想さが生むサービスとしての価値の話が面白かったです。
    お金になる研究に国は重点的に投資したいんでしょうが、京大には「何か変な研究やってるな」って言われるような面白い研究を続けてほしいなと思います。

  • そこまで変人ではない。しかし変人だ。

    みたいなところが読み終わった読後感。
    京大いいっすね。

  • ★ なぜ鮨屋のおやじは怒っているのか
    これがめちゃくちゃ面白かった。サービスってこう捉えられるのか!!!

    ★「不便なモノ」が社会を豊かにする!?
    鮨屋のおやじの話にも通じる。
    最近私はアナログ回帰にハマっているので、共感するところも多かった。


    巻頭対談も面白い。やっぱり山極先生の考え方は自分の好み。


    ★「安心・安全」が人類を滅亡に導く
    は実に「常識を疑って自分の頭で考える」ことを実践している文章だった。

  • 安全安心の内容は、それを謳った東京五輪にピッタリ当てはまる。為政者が誦じてはならないと感じた。個々が判断力を持つべきに納得。大雑把がちょうど良いと言われて安心する私でした。

  • みんな読むべし

  • ☆信州大学附属図書館の所蔵はこちらです☆
    https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB28068974

  • 面白かった~!違うジャンルの話がいくつかあるのが読み易いし、それぞれの面白さを引き立てている。

  • 京大の変人先生を取り上げた一冊。
    面白いところは、各人の研究を通じて、如何に変であることが難しく、また大切であるかを述べている点である。

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著者プロフィール

昭和34(1959)年、千葉県生まれ。千葉県立千葉高等学校、早稲田大学教育学部を経て、早稲田大学大学院文学研究科博士課程後期課程単位取得退学、文学修士。中京大学文学部・大学院文学研究科教授。

「2022年 『森鷗外 ー作品と周辺ー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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