読者に憐れみを ヴォネガットが教える「書くことについて」

  • フィルムアート社
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  • Amazon.co.jp ・本 (616ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784845920037

感想・レビュー・書評

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  • 現代アメリカを代表する作家ヴォネガットの作文講座を、元教え子であり作家のスザンヌ・マッコーネル氏が編集。
    計37章(!)から成るものの、氏の”レジュメ”はこちらの警戒をいとも簡単に解いた。作家志望者や人を惹きつける文章を書けるようになりたい方向けに成り立つ反面、単純に読み物としても楽しい。
    自分もレビューなどの文章力を伸ばしたかったので参考になりそうな箇所はメモに取り、あとは気軽な読み物として楽しんでいた。

    ヴォネガットや彼の作品に関しては、恥ずかしながら無知であった。
    自分のような初心者にも配慮してくださったのか今回マッコーネル氏は、(名前すら初耳である)彼の著書を引用しながら上手く話を繋げている。しかもほんの一部抜粋なのに、それらの著書がどんなストーリーなのか気になってしまい何度も図書館の蔵書検索をかけていた。

    第1章「何かを書こうとしているすべての人へのアドバイス」で公開された手紙から、奥深い人生を歩まれた方なのだと思い知らされた。
    手紙というのは、第二次世界大戦時彼がドレスデンにて捕虜になり、奇跡的に生還した末、家族に無事を知らせたものである。
    「小説を書くために死や破壊や苦悩を経験する必要はない。ただ、何かに関心をもつ必要があるだけだ」とマッコーネル氏は解説の中で仰っていたが、手紙の中の凄まじい経験が自ずと彼の関心をそれらに向けさせたのはまず間違いない。

    計37章の内1つを選びレポートを書くよう言われたら、自分は第18章「落とし穴」にするだろう。
    ここでは「第3のプレイヤー」がキーワードになっている。これは自分の作品に対して添削或いは茶々を入れてくる人物のことを指し、自分対作品の”対話”の重要性が章を通して身に沁みた。また(優れた作品を見分ける)目が肥えてしまうと、自分の作品を嫌悪するようになる傾向も何だか身に覚えがある話であった。

    実は青少年向けの職業案内本『13歳のハローワーク』の「作家」の項について読書中思い出していた。
    著者の村上龍氏は作家について、「作家は人に残された最後の職業だから今は他のことに目を向けよ」とその本で述べている。作家本人の言葉だから事実なのだろうけど、物書きに興味があった自分はどれだけ絶望したことか…

    ヴォネガットの場合「たまたま人より書くことが少し得意だった」のがきっかけで作家を志した。彼にとって作家は「残された最後の職業」ではなく、村上氏もびっくりの天職だった。
    物を書くことを愛するが故にこれだけの講座を組み、(商売道具とも言うべき)執筆の技法を多くの人に公開・指導までした。作家業においても屑かごが満杯になるまで修正を繰り返すほどプロット(構成)にこだわり尽くした。時には「第3のプレイヤー」の力も借りて。

    そして彼はこうも話している。「少しでもなれないと思うなら作家にはなるな」と。やはり、作家本人の言葉だから…(以下略)

  • 生誕100年?!

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    http://suzannemcconnell.com/

    読者に憐れみを ヴォネガットが教える「書くことについて」 | 動く出版社 フィルムアート社
    http://filmart.co.jp/books/novel/kurt-vonnegut/

  • ヴォネガットの弟子にして友人による、ヴォネガット流文章読本。とても長かったけど、詰まることなく楽しくすらすら読めました。作者と役者に感謝を。もちろん、ヴォネガットにも感謝を。彼がうつ病だったということが興味深いです。

  • 小説教室というよりは、ヴォネガットのコラージュで物書きが集まってワイワイ楽しむような本だった。
    私は特に今何かを書いたりしてないが、とても楽しく読めた。しかしやはりヴォネガットなので半ばを過ぎると段々読んでいるこっちがネガティヴになってくる。
    まあサクサク読めるので4〜5日鬱状態で読んだ。
    31章までと33章と、「コネは大事なので利用しろ」までは頷けるのだが、32章、34〜37章は色んな意味で要らない。久しぶりに虚ろな目になって読んだ。
    スザンヌがヴォネガットみたいになりたいとか言ってる時に隣の友人が「私ならこんな人絶対に彼氏にはしないわ。だって酷い鬱病だもの」と、スローターハウス5を読んで言ったのがとてもわかりみが深い。その友達とは気が合いそうだと思った。

  •  カート・ヴォネガットによる「書くことについて」の本。冒頭の7つのアドバイスだけでも十分読む価値があるが、570ページ相当の本文は校正から、生活、稼ぐことについてまで、小説家としての人生への示唆は多岐にわたって網羅されている。がんばったら3日で読めた。

     個人的な関心事は「この本で語られるアドバイスが、近代以降の日本の私小説にも当てはまるだろうか」という部分なのだが、私小説を書くことのコアに「目的を持つこと」「誰か他者にも伝えるべき情報であること」という要素があるのであれば、日本のシーンにも十分援用が可能であると判断する。

     座右の書として置いておくにはちとぶ厚すぎると思うが、いちど、自分のやり方と照会するために目を通すという意味では、けっして無駄な時間にはならないはずだ。

  • カート・ヴォネガットの元教え子で作家のスザンヌ・マッコーネルさんがまとめた、ヴォネガットが考える作家論、創作論。

    とても良くまとめてられていて、あらゆる角度からヴォネガットの発言を読み解いている。
    時代に合わない部分や、マッコーネルさんの考えに合わないところは、はっきりと著者の考えを述べているし、カートのダメな部分も敬意を持って正直に書かれていると感じた。
    また、カートに近い人なだけに偏りがないよう少し離れた目線でまとめられている。方法論についても教科書的な部分も多いので、カート・ヴォネガットのあの語り口を期待してしまうと、少し物足りないかもしれない。
    しかしカートはジョークが上手いので、本人の真意はいつも煙に巻かれてしまうところがあるが、本書の淡々とした文章で読むと、カートが一人の苦悩を抱えた人間として見えてくる。
    本書を読んでからカートの小説を読み返すと、作品世界がよりクリアに見えて良いと思います。

    個人的には、戦争とジョーク(笑い)が人にもたらすものについては非常に興味深かった。

  • 第11章までと第33章のみ読了。

    『第7章 価値あるテーマを見つけることへの不安、すなわち死の欠乏』が大いに勇気を与えてくれた。

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著者プロフィール

1922-2007年。インディアナ州インディアナポリス生まれ。現代アメリカ文学を代表する作家。代表作に『タイタンの妖女』『母なる夜』『猫のゆりかご』『スローターハウス5』『チャンピオンたちの朝食』他。

「2018年 『人みな眠りて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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