環境デザイン講義

著者 :
  • 王国社
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784860730499

感想・レビュー・書評

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  • 140816 中央図書館

    建築分野は、構造、設備、意匠に大別される。その内の設備環境(特に空気環境)について、<span style='color:#ff0000;'>光(空)、熱(火)、水、風、音(地)</span>に分けて、内藤の経験から得たエンジニアリング思想を講義する。東大の講義録がベースとなっている。

    構造や素材やシミュレーションという個々の技術の進歩を取りいれて、望ましい「環境」を構築しようとする営みは、内藤が「<span style='color:#0000ff;'>スペースシップモダニズム</span>」と呼ぶ、<span style='color:#0000ff;'>外界と遮断された閉鎖的な領域でアクティブな制御を活用する方向</span>へと進化してきた。

    内藤は、逆に「<span style='color:#ff0000;'>開放系」への転換が、効率性や環境負荷などの諸課題を解決する鍵になる</span>という。ヒトの生物学的センサーは、温度、湿度、音、風、匂いなど大量の情報をインプットするが、脳はそれらを適切にスクリーニングしたりスケール処理することで効率的な情報処理を可能としている。しかし、情報処理の効率性を追い求めるあまりに、外界情報を選別しすぎて<span style='color:#ff0000;'>ヒトとしての環境への感覚が鈍りつつあるのではないか</span>、という問題意識を内藤は持つ。デザインは、ヒトとモノをブリッジするものである。小さく管理された環境にヒトを置くのではなく、<span style='color:#ff0000;'>大きな自然環境の流れをできるだけパッシブに活用</span>したデザインをこころがけるべきではないか。たとえば、<span style='color:#ff0000;'>棚田や砺波の散居村</span>を美しいデザインと感じるが、それらは合理的でエネルギーミニマムのデザインが風景に表出しているのだ。

  • 内藤廣の東大での講義「構造デザイン講義」「環境デザイン講義」「形態デザイン講義」の3部作のうち第2弾。
    環境を光、熱、水、風、音に分け、それらと建築のあり方を論じている。
    光の回の、闇を設計する必要性には納得させられるし、熱の回の、温度、湿度、風速、輻射熱を測定する機器を持ち歩いて人が感じている環境に対する感覚を身につける姿勢には感心させられる。
    水が入り込まない設計は、私も常々難しさを感じている。雨と屋根の関係が、「切妻」「寄棟」「入母屋」の3つだけの応用だけで成り立っていることや、水が熱環境や人の心理に与える影響も勉強になった。
    また、建物が軽くなったり、高層化すると、構造も重力系より風力系による影響が大きくなるという事も参考になった。

  • 建築家内藤廣が「空・風・火・水・地」と「眼耳鼻舌身意」を組み合わせて森羅万象を語る。

    「「水」というのはやはり「時間」のメタファーなのではないかと思っています。」
    (抜粋)

  • 建築環境について、大学講義がそのまま本になった感じの内容であり、音、光、空気、熱について、とても分かりやすい。数式などは一切無く、どのようにして現在の建築環境に至ったか、数字の持つ意味を分かりやすく解説している。とても良書です。

  • 建築環境の分野は、細分化されていること、それぞれの分野で数値化された基準、指針などが判断の基準となっていることが、逆に人間と自然環境の関係性を全体像として把握することを難しくしているということが感じられた。 

    また、環境というのは異なるスケールの間でも本来は相互に関連性があるものであり、室内環境、建築環境、都市環境の影響を念頭に置きながら建築の設計や都市のデザインを行っていくべきなのだろう。

    それぞれの分野を極めていくことも大切だが、少なくとも学び始める最初の段階ではそれらの全体像をどのように捉えていくことが必要なのということを学んでいくことが大切だと感じた。

  • 内藤氏の最終講義をまとめた1冊。
    輻射暖房をめぐる章、照明に関する考え方が興味深かった。
    建築家の仕事には、やはり総合的に「人間」を見る目が必要だということを改めて感じさせられた。

  • 内藤さんの経験を元に話しが進み読みやすかった。
    デジタルに頼っている現代だが、五感で建築を捉えていかなきゃと感じた。

    自然と言う切り口から建築を考えなければいけない。
    土地の癖を考える。

  • 建築家であり、本年度をもって東京大学を退官された内藤廣さんの著書です。東京大学の講義を文庫化したもので、内藤さんが環境を形成すると考えている5つの要素「光」、「熱」、「水」、「風」、「音」についてどのように捉え設計活動をしてきたかが書かれています。講義録のようなものなので授業を受けているような感じがして読みやすい本です。建築の設計をする人だけではなく、都市、土木を計画する人でも読む価値が十分ある本です。

    内藤さん自身の建築実作の話も書かれているけども、それぞれの要素についての逸話、先人たちの捉え方など教養的な意味においても
    充実しています。書かれていることが多いため勉強できることも多いけど、自分の経験とすり合わせてもなるほどと思う話を1つ書いておきます。

    「水」の話の中で、前々から考えていたことの話です。この本の中で内藤さん自身の環境設計の目指すものは、機械的に環境を操作するアクティブな操作より、自然法則が自然と作り出すパッシブな操作によって環境をつくることと言っています。この考え方は日本古来、地域に根ざした風土を反映させた建築においては自然と行なわれていることです。僕の家は割と古い家で、冬は寒いけど、夏場は南北の戸を明けていくと風が通ってクーラーが必要がありません。北側は日陰になっているから当然涼しいし家中が涼しい。夜は防犯とかの理由で戸を開けっ放しにすることはできなけど、おそらくクラーは必要ないと思います。これは家の前が田んぼだから、土もあるし水がはってあって周辺より何度が低いんです。ある意味理想の環境(笑)クラーが完備されたビルで生活しているより、やっぱり自然の力を利用して快適な環境、生活を作り出すと、心の快適度なんかも違うのではないかと思います。

    これは建築の話の1つだけど、これ以外にも数多くの話が書かれています。設備とか意匠とか構造とか関係なく、都市、建築、土木にこれから関わっていく人にとっては「なるほど」が数多く存在する本です。非常に興味深い内容で勉強になりました。

  • 環境を専門にやってる人は得られることが多いと思う。が、建築やってる人は意匠系でも目を通すべき内容。著者が述べている内容については簡単に実現することはできないけれども、今の建築業界が変わるにはもっとも重要なことが述べられていると感じた。

  • 東大の教授による講義集の第二弾。環境デザインとは我々をとりまく空気環境や設備環境についての学問。サイードを引用し、「知識人とは危ういところに立って発言するものだ」という立場から、著者の個人的体験に基づく授業を行う。例えばハクスリーの「近くの扉」を引用したり、一方でザハの建築を(これは構造デザイン講義だけど)けなしたり、危険な立場に立っての発言がとてもよい授業になっている。この教授の授業が受けたかったなあ。
    光、熱、水、音、風にわけた環境について、境界条件を設定し、解ける問題にしてから解くという工学的なアプローチのケーススタディを行う。この基本を活用してきた工学エンジニアなのでそれを怠ることはしない。だが、同時にこのアプローチに潜む危険性を認識することが重要であると説く。この危険性に対応するには、個人的な体験を積むことで、全体性に対する身体感覚を身につけること。ううむ。かっこいい。

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著者プロフィール

1950年神奈川県横浜市生まれ。建築家。1974年、早稲田大学理工学部建築学科卒業。同大学院理工学研究科にて吉阪隆正に師事。修士課程修了後、フェルナンド・イゲーラス建築設計事務所、菊竹清訓建築設計事務所を経て1981年、内藤廣建築設計事務所設立。2001年、東京大学大学院工学系研究科社会基盤学助教授、2002-11年、同大学教授、2007-09年、グッドデザイン賞審査委員長、2010-11年、東京大学副学長。2011年、東京大学名誉教授。建築作品に海の博物館(日本建築学会賞、吉田五十八賞、芸術選奨文部大臣新人賞)、安曇野ちひろ美術館、牧野富太郎記念館(村野藤吾賞、毎日芸術賞)、倫理研究所 富士高原研修所、島根県芸術文化センター、虎屋京都店、静岡県草薙総合運動場体育館、富山県美術館、高田松原津波復興祈念公園 国営追悼・祈念施設(芸術選奨文部科学大臣賞)、東京メトロ銀座線渋谷駅など。著書『素形の建築』『構造デザイン講義』『環境デザイン講義』『内藤廣と若者たち』『内藤廣の頭と手』『形態デザイン講義』『内藤廣の建築1』『内藤廣の建築2』『内藤廣設計図面集』『空間のちから』ほか。

「2021年 『建築の難問 新しい凡庸さのために』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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