エリア-デ幻想小説全集 (第1巻(1936-1955))

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  • Amazon.co.jp ・本 (555ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784878935145

作品紹介・あらすじ

生涯にわたって"聖なるものの顕現"を探究し、二〇世紀文学に偉大な足跡を残したミルチャ・エリアーデ。その全幻想小説を編年体で網羅した、世界初のオリジナル全集。

感想・レビュー・書評

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  • ルーマニア哲学者・小説家エリアーデによる幻想小説集。「ムントゥリャサ通りで」が楽しかったので、小説集も読んでみた。
    https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4588490400


    『令嬢クリスティナ』
    ルーマニアの田舎の村の貴族屋敷に滞在する若い画家エゴールと考古学者のナザリエ氏。
    屋敷の住人は、モスク夫人と二人の娘、エゴールと恋愛関係にあるサンダと、まだ9歳のシミナ。
    エゴールとナザリエは、夜になると妖しい気配を感じる。
    この屋敷には、30年前の農民暴動の時に殺されたモスク夫人の姉クリスティナの影が色濃く残っている。
    とくにシミナは、クリスティナの姿を見て、クリスティナの言うとおりに動いているかのように、9歳とは思えない妖艶な振る舞いを見せる。
    エゴールはサンダを連れ出そうとする。
    だがクリスティナはエゴールの夢に入り込み誘惑する。夢は現実を侵食するようになり、サンダは熱に倒れる。
    ==
    ゴシックホラー中編。
    背徳的な噂を持つクリスティナが現れるときの濃厚な雰囲気が匂い立つようです。
    9歳のシミナの書き方が道徳的にまずいということで発売当初は非難も浴びたらしい。
    解説によるとクリスティナからエゴールへの感情は”恋”らしいんだが、私の感じでは幽霊の意地で落としてやるくらいというか、恋とは思わなかった…。


    『蛇』
    夫のステーレ上級官史に幻滅を感じるリザ、婚約同然のドリナとマヌイラ大尉。ソロモン夫妻。歌い手のスタマテ氏。
    田舎町の数組の男女がバカンスを過ごす途中で、アンドロニクという青年を拾う。
    明るく社交的で、奇術師で蛇使いのようで、数百年前の出来事を「なぜか知らないが知っている」というアンドロニク。
    アンドロニクは一行と行動をともにしながら何かを期待しているらしい。
    ==
    現実的に考えれば謎の青年の魅力に、現実の退屈さを嫌がっていた女たちが誘惑される話。
    幻想的に考えれば、半分違う世界の住人の幻想の物語。
    アンドロニクは謎の青年なんだが妙に明るい。彼は結局人間なのか半分違う世界の住人なのか。
    登場人物たちは幻想的な光景に紛れ込みますが、最後は違う世界に行ったかと思ったら行ってないのか?


    『ホーニヒベルガー博士の秘密』
    インド帰りの語り手は、ゼルレンディ夫人から「夫の手記に興味を持つかと思いまして」と連絡を受ける。
    ゼルレンディ氏は、インドのヨガ哲学と秘法の研究者ホーニヒベルガー博士の研究をしていたが、ある時忽然と姿を消したという。
    調査を進める語り手は、睡眠しながらはっきりと覚醒している状態に辿り着く。どうやらゼルレンディ氏はさらに秘法を勧めて自分自身を時間の外に解脱する方法を編み出したらしい。
    ==宗教研究者の作者は、インドに数年滞在していた。宗教哲学を科学と小説の手法で著したお話。


    『セランポーレの夜』
    カルカッタに近いセランポーレ村で休暇を過ごす語り手たち。
    ある夜村外れの森で迷った彼らは、女の悲鳴を聞き、その夫の屋敷で時を過ごす。
    なんとか家に戻った彼らは、その出来事は100年以上前のことで、屋敷ももう崩れ去っていると聞く。
    ==なんらかの手法により、人間を過去に追いやることができる。しかしただ過去を見ただけでなく、実際に過去の人間と会話までした。これはすでにこの世の理を越えているのではないか、という考察と、でもこの世には何でも起こるんだよ、というこの世の不思議。
    インドの夜の森についての記載がこのようなかんじ。<まったく、こんな夜の中で発狂しないほうが不思議だよ。この美しさは、無垢であると言うにはあまりにも残酷だ。人間はこんなすばらしさは天国でしか味わう権利はない。地上では、この種類のどんな美も、悪魔の誘惑だね。とくにインドの大地ではね」P388抜粋>
    ヨーロッパの人間にとって、広大なアジアの力強い原始は、この世の不思議と神秘に圧倒されてなにかこの世ならざることを感じとるのだろう。


    『大物』
    友人の身長が異常なくらいに伸びていく。2メートル、2メートル半。友人は姿を隠すことにした。山のなかで別れたときには3メートルを越えていて、言葉も通じなくなっていた。
    人の噂で5メートルを超える人間の姿を見たという。そんな彼はどこに行ったのかそれきり会えない。


    『弟思い』
    ルーマニアから亡命しようとする人々。
    弟の幼い詩を発表したいという男。
    そんなことのためにこの危険を犯すのか。


    『一万二千頭の牛』
    牛の輸送許可のために大蔵省官僚を訪ねた男は、突然の空襲警報に防空壕に隠れる。
    だが外に出てから、防空壕の中で会った男女の話をしたら「みんな何年も前の爆撃で死んだ」と言われる。


    『大尉の娘』
    何者かになろうとする大尉の娘、大尉の息子の友人で自分でもわからないけれど色々なことを知っている少年。
    将来を模索する二人は、ふたりとも作者の分身でもある。

  • 歴史を背負い、思想潮流を「幻想小説」という形に昇華させたエリアーデの著作集。
    今般の洗練された(逆に言えば、グローバル規格に単一化されつつあるんだけど)娯楽作品の文体に馴れた読者には、いささか迂遠で野暮ったい風を感じるかもしれないが、文句なしの星5つである。

    一番お勧めは、『ホーニヒベルガー博士の秘密』。
    東洋の宗教に造詣の深い著者(マジもんの宗教学者)ならではの作品、東洋思想の内側から読むも一興。
    欧州文化、思想圏では周辺に位置するルーマニアの学者が、若い頃ヨーガや東洋思想に傾倒し、なおかつ学術的に理解せんとしたことを踏まえると、味わい深い一篇である。

    一見、通俗小説の体裁をとってはいるが、
    「読者に疑問を持たせたまま、断定させない(解説ではこれを躊躇と言っている)」
    幻想文学の白眉といえるのが、『蛇』である。
    中産階級的な世俗のなかに紛れ込む、異者(はっきりしない背景なのに、魅力的な人物と描かれる)の存在。願望の混じった予知夢とも、神秘の別次元からの投影ともいえる夢の描写。
    卑俗なもののなかに隠れる聖なるもの。見る者の目が開いていなければ、『それ』とは理解できない現象(作中のちょっとした事件など、夢の描写を抜きにしてみれば、浮かれた若者の暴走でしかない)。

    長編『妖精たちの夜』は、非常に読みづらい(語り手がコロコロ変わる)ため挫折したが、短編ということで本書はまだ取っつきやすい。
    エリアーデの宗教学、哲学の現れとして、お膳立てされた物語。あるいは、ルーマニア文化の『継承の器として書かれた物語』という軛を意識して、お読みになると良いだろう。

  • 世界的に有名な宗教学者であったエリアーデは、
    実は幻想文学作家でもありました。
    以前、福武文庫から出ていた『ホーニヒベルガー博士の秘密』
    ――とても面白かったのに、何故か手放してしまい(←バカ)
    気が付いたときは絶版で再入手不可能になっていたんですが、
    エリアーデの小説は、
    私の知らない他の本も殆ど同じ目に遭っていたようで、
    今年、発表年代順に編集された全集の発売を以って復刻、
    という運びになった模様。
    で、第1巻に「ホーニヒベルガー博士の秘密」と、
    文庫に併載されていた「セランポーレの夜」が掲載されている
    というので、ハードカバー、お値段¥4,800にも拘らず購入。
    うう(^_^;)。
    通読しての感想は……やはり長期間に渡って書き続けると、
    段々(どんどん)巧くなるものなのか!ってとこでしょうか。
    巻頭の「令嬢クリスティナ」<1936>なんか、
    雰囲気よく分かるし、好みなんだけど、
    いかんせんゴチャゴチャして読みづらい。
    ところが四年後に発表された「ホーニヒベルガー博士の秘密」は、ぐっとスッキリしてて、文章が洗練されたという感じで、
    内容と語りがしっくりと一体化している訳です。
    おおぉぉ(笑)。
    今回そのことに一番感動しましたが、しかし、
    やはり如何にも幻想小説的なトリックとオチが堪らんです。
    ハイ。
    大体見当は付いちゃうんだけど、素直に分からないフリをして
    読み進める(笑)のがベストでしょう。
    しかし、この作品のタイトルは寧ろ、
    「ゼルレンディ博士のひみつ日記」の方がピッタリだと思うのは
    私だけだろうか(←って、おいおい☆)。
    それから、もう一本、
    特に印象深いのが1948年発表の短編「大物」。
    このタイトルから、
    普通どんなストーリーを思い浮かべるでしょう。
    これがもう、見事に意表を衝かれて大笑い(^^ゞ。
    でも、こういう荒唐無稽な話って好きだわ。

    • 淳水堂さん
      深川夏眠さんこんにちは。

      ムントゥリャサ通りが面白かったのでこちらも読みました。
      こちらの作品は、寓話的というか記号的というか政治や...
      深川夏眠さんこんにちは。

      ムントゥリャサ通りが面白かったのでこちらも読みました。
      こちらの作品は、寓話的というか記号的というか政治や社会情勢不安が垣間見えますね。

      この中では「ホーニヒベルガー博士の秘密」と「セランポーレの夜」が面白かったです。
      インドというか東洋哲学に過剰な期待していませんか!?という気がしないでもなかったけど(^_^;)
      2022/01/29
    • 深川夏眠さん
      いらっしゃいませ、コメントありがとうございます。
      やはり「ホーニヒベルガー博士の秘密」と「セランポーレの夜」
      ですね。
      この二作は繰り...
      いらっしゃいませ、コメントありがとうございます。
      やはり「ホーニヒベルガー博士の秘密」と「セランポーレの夜」
      ですね。
      この二作は繰り返し読んでいます。
      その割に真髄を掴めていないのですが……(トホホ)。
      https://booklog.jp/users/fukagawanatsumi/archives/1/4828831673
      2022/01/30
  • 2022.01.19 図書館

  • 【展示用コメント】
     ハリポタだけが、ファンタジーじゃない。

    【北海道大学蔵書目録へのリンク先】
    https://opac.lib.hokudai.ac.jp/opac/opac_details.cgi?lang=0&amode=11&place=&bibid=2001164462&key=B151607971011494&start=1&srmode=0&srmode=0#

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著者プロフィール

1907年、ルーマニア、ブカレストに生まれる。1928年より3年間、インドに滞在し、ヨーガやタントラを学ぶ。帰国後は、ブカレスト大学で形而上学史などを教える一方で、小説『マイトレイ』を発表し、小説家としても高い評価を得る。第二次世界大戦中は、ロンドン、次いでリスボンでルーマニア公使館の文化担当官として勤務した。第二次世界大戦終結後はフランスに亡命。『宗教学概論』や『永遠回帰の神話』を発表することで、宗教学者として活躍した。1957年よりシカゴ大学に招聘され、翌年、宗教学教授に就任。1986年にシカゴで没。

「2015年 『エリアーデ=クリアーヌ往復書簡 1972-1986』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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