こころ朗らなれ、誰もみな (柴田元幸翻訳叢書)

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感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784884184308

作品紹介・あらすじ

誰よりもシンプルな言葉で、誰よりも深い世界を描く。新訳で贈る短篇集。ヘミングウェイの決定版19篇。

感想・レビュー・書評

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  • 柴田元幸氏の訳によるヘミングウェイの短篇集。
    ヘミングウェイ作品は『老人と海』くらいしか読んだことがなかったので、手に取ってみました。

    食事や鱒釣りの1つ1つの動作が、たんたんとした文章で綴られています。
    そのためか、どこか儀式めいた雰囲気があり、すぅっと目が引き寄せられるような感覚になりました。
    また、著者の従軍経験が生み出したのであろう描写が印象的です。
    野ざらしになった戦死者の周囲に、軍服のポケットに入っていたであろう紙が散らばっている…そんな情景が生々しく感じられました。

    あとがきの中で、柴田氏は本書収録の短篇について「何らかの意味で壊れた人間を描いた、悲惨さを壮絶なユーモアで覆ったように思える作品」が多くなったと書かれています。
    「雨のなかの猫」は、本書の中では異色な作品でしたが、個人的に抱いていたヘミングウェイの印象がちょっと変わりました。


  • 「二つの心臓の大きな川」を読み返したくなったところでタイミングよく、柴田元幸さんが心惹かれた短編を厳選して新たに訳されたという本書を知った。ちなみに柴田訳では『心臓の二つある大きな川(原題:Big Tow-Hearted River)』 となっている。
    主人公のニック•アダムズは丘を越えて行き、森の中に鱒釣りのためのキャンプを張る。
    冷たく澄んだ水の中でまるでじっとしているかのように、流れに逆らって泳ぐ鱒の煌めき。折り取られたばかりの枝が放つ新鮮な香り。丹念に作る工程が書き込まれた素朴な料理の味わい(熱々のビーンズとスパゲッティにはトマトケチャップがかけられ、ソースの着いた皿はパンできれいに拭われる)。針に掛かった鱒が竿を大きくしならせて必死に抗う手応えと充実感。
    瑞々しく生き生きとした文章によって、ニックの五感を通じて自然に触れているかのような心地よさを感じることができる。
    しかし短編集を通して読めば、ニックが第一次大戦の従軍中にイタリアで頭部を負傷し、それと並行して精神を病んでいることが明らかにされている。また、帰還兵として帰郷しても、平穏は得られていないことも確かだろう。そうして読むと、ニックが汽車から降り立つ町が火災で失われたまま放置されていることも、焼け野原に住むバッタが一年経っても黒いままなことも、ニックの傷ついた心象を反映している。また、短く行動の一つひとつを描く描写パターンも、できるだけ考えるのを避けて目の前の行動に集中することで発作を遠ざけようとするニックの姿勢の顕れと捉えられる。まだニックは深い湿地に分け入る準備は整っていない。それでも失われる前に過ごした川での釣りは、ニックを深く静かに癒していく。

    柴田さんはニックの物語を作品の発表順ではなく、少年から青年への成長順に並べ変えているが、ニック少年と妹の絆を描いた『最後の原野』は敢えて『心臓の二つある大きな川』の後に置かれている。この順番で読むと、描かれていないニックの心には妹リトレスとの思い出が去来していたんだとつい空想したくなる。
    ヘミングウェイ最初期の短編集に収められた『心臓の二つある大きな川』と晩年の未完に終わった作品である『最後の原野』を並べて読むことで、二つの作品が響き合い深い余韻が心に残った。





  • ヘミングウェイ短編集。
    ヘミングウェイの分身と称される、ニック・アダムスが主人公の作品が多い。
    戦争を舞台としていたり、あるいは少年時代の田舎町を舞台としていたり、シチュエーションは様々だが、どれもなんというか、「なんてことのない」出来事を語ったものが多い。
    ラストを飾る「最後の原野」は、保安官から逃亡する少年とその妹の話で、その逃亡の様に若干ハラハラとさせられたりもするが、それでも何か劇的、ドラマチックな部分はそんなにない。

    それよりも共通するのは、何気ない日常を描く中での、余韻。
    「ん?どういう終わり方だ、これ?」という最後の数行。
    私が今更語るまでもなくの巨匠であり、彼の文章力なんて私が語るのも大変におこがましいくらい、全編にわたって素晴らしい文体が続くのだけれども、その中でもこの余韻。

    ぜひ、味わってみて欲しい。

  • ヘミングウェイの短編を評して自ら『氷山理論』と称することを初めて知った・・読むとすぐに実感する。英米作品を多く約した柴田さんならではの巻末の文章で上手く保管してくれている。研ぎ澄まされた無駄のない文を淡々と読むだけでは、私の頭になかなか浸透していかなかった。眼ら、優れた文筆家は短編を書くことによって評価が下されるというが、作者は最たるもの。「何らかの意味で壊れた人物を描いてきた作者」らしくない作品を選んだというだけあって、私には新鮮なヘミングウェイの世界だった。彼の分身であるニック・アダムズを主人公にした作品群がコアを占めている。中でもいずれも秀作・・≪武器よさらば≫«陽はまたのぼる≫等読んだだけの私にはへミンウェイ=従軍作家というイメージが強い。それだけに戦争文学のカテゴリーに入れがち。しかし、短編集には戦争に触れたものはあるが、殆ど具体的な描写が無く、そこで傷ついた心身を豊かな自然に身を横たえ自信をいやす作品に昇華している。2次元の物語が3次元の情景と化し、ている。

  • ちょっと古典を読もうシリーズ。
    こないだは「怒りの葡萄」で今回は「ヘミングウェイ」、俺ってアメリカ文学好きなんだろうか?そういやトムソーヤもハックフィンもアンクルトムも好きやったなぁ。

    さてヘミングウェイと言うと、なんとなくマッチョとか男臭いとかストイックとかハードボイルドの元祖…的なイメージを持ってて、実際そういう作品も(特に最後の3つあたり)あるにはあるんだけど、従軍体験を生かした物語あたりはメンタルを打ちのめされた弱ってる主人公や登場人物なんかも出てきて、そういう作品も書くんだなぁと発見。

    でも、やっぱ自然の中でタフに生き抜く人を描かせたら、実にいいなぁと思った。山登りの宿泊手段としてのキャンプが多い俺だけど、自然の中に身を置いて暮らしてみる、単にそれだけのキャンプもオモロそうだなぁと思った次第

  • 柴田元幸さんの翻訳が素敵すぎます!!
    ヘミングウェイが向かおうとしている方向を理解して、寄り添っているような翻訳に痺れます!!

  • お気に入りは、「よその国で」と、「最後の原野」。ニック・アダムズにハマった。

  • 「老人と海」に感動したのでヘミングウェイ2冊目。好き。細かい描写の積み重ねは読者に臨場感を与えるけれど、やりすぎると奥行のない作品になってしまう可能性もはらんでいる。でもヘミングウェイワールドでは、身の回りの些事の描写をひたすら読んでいるうちにいつのまにか視点がすうっと上がって行って人間とはとか自然とはとか、もしくはもっと神秘的な何かに触れているような気持になる。のが、スゴイ。ちょっとよしもとばななを思い出した。全部良かったけど特に「清潔な、明かりの心地よい場所」と「闘う者」が好き。あと「心臓の二つある大きな川」は延々といつまでも読んでいたくなる不思議な世界だった。素晴らしい。

  • 短編集といいつつ最後の話は長かった(解説を読むと未完らしい)。ニック・アダムスの登場する話が多かったのに、気づくのが遅かった。何かしらの喪失感を持った人が出てくる話が多かった。何も起こらない話の中に漂う雰囲気が良かった。釣りの情景が目に浮かんできた。

  • むむむ。これは難しい本でした。
    ぼんやり読んでいるとなんのこっちゃら分からなくなってしまう。
    最後の解説を読んでいるともう一度読んでみたい気持ちになる。
    いづれまた読んでみよう。

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著者プロフィール

Ernest Hemingway
1899年、シカゴ近郊オークパークで生まれる。高校で執筆活動に勤しみ、学内新聞に多くの記事を書き、学内文芸誌には3本の短編小説が掲載された。卒業後に職を得た新聞社を退職し、傷病兵運搬車の運転手として赴いたイタリア戦線で被弾し、肉体だけでなく精神にも深い傷を負って、生の向こうに常に死を意識するようになる。新聞記者として文章鍛錬を受けたため、文体は基本的には単文で短く簡潔なのを特徴とする。希土戦争、スペインでの闘牛見物、アフリカでのサファリ体験、スペイン内戦、第二次世界大戦、彼が好んで出かけたところには絶えず激烈な死があった。長編小説、『日はまた昇る』、『武器よさらば』、『誰がために鐘は鳴る』といった傑作も、背後に不穏な死の気配が漂っている。彼の才能は、長編より短編小説でこそ発揮されたと評価する向きがある。とくにアフリカとスペイン内戦を舞台にした1930年代に発表した中・短編小説は、死を扱う短編作家として円熟の域にまで達しており、読み応えがある。1945年度のノーベル文学賞の受賞対象になった『老人と海』では死は遠ざけられ、人間の究極的な生き方そのものに焦点が当てられ、ヘミングウェイの作品群のなかでは異色の作品といえる。1961年7月2日、ケチャムの自宅で猟銃による非業の最期を遂げた。

「2023年 『挿し絵入り版 老人と海』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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