キオスク (はじめて出逢う世界のおはなし オーストリア編)

  • 東宣出版
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (275ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784885880933

作品紹介・あらすじ

1937年秋、ナチズムが台頭するウィーン。少年はキオスクでフロイトに出会った。フロイトは少年の話に耳をかたむけた。――17歳で田舎から出てきた少年フランツの目を通して時代のうねりを活写した、ノスタルジックな空気感がたまらない青春小説。国際的に注目される現代オーストリア文学の人気作家、初邦訳!

【あらすじ】
自然豊かな湖のほとりに母とふたりで暮らしていた少年フランツは、田舎を離れウィーンのキオスクで見習いとして働くことになった。はじめてのひとり暮らしと仕事、都会の喧噪に期待と不安を感じながらも、キオスクの店主から新聞、葉巻、お客のことなどを学んでいく。そんなある日、忘れ物を届けたことで常連客のジークムント・フロイト教授と懇意になり、フロイトから人生を楽しみ恋をするよう忠告される。さっそくおしゃれをしてプラーター遊園地にくりだしたフランツは、謎めいたボヘミアの女の子に出会い、すっかり心を奪われてしまう……。ナチスドイツに併合されていくオーストリアの様子と、そのなかで少年が思い、悩み、考え、行動する姿を、静謐に物語る。

感想・レビュー・書評

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  • 田舎から母の知り合いのキオスクで働くために都会に出てきたフランツ。仕事を覚え、初恋の相手に翻弄され、あのフロイトの若き友となり…!戦争が深まるにつれ、少年から青年への階段を登っていくフランツ。彼の成長を静かな文体で描く本作品。よく見たら知ってる作家さんでした。「ある一生」も良かったし、本作品も良かった。
    フロイトの名言「頭から水に飛び込むために、水を理解する必要はない!」スカッとしました!

  • ゼーターラーの新訳がもうすぐでると思ったら、実は「はじめて出逢う世界のおはなし」シリーズから一冊出ていたのか。

    田舎からウィーンへ、初恋とナチスドイツへの併合、助言をくれたフロイト教授との別れ・・少年の成長が早いのは時代のせいだろうか。
    ショーウィンドウに貼られる夢を記した付箋のせつなさよ。

    いつか“サンファンイマルティネスのよく日の当たる肥沃な川岸で男気ある者たちによって収穫され、美しい女たちによってていねいに手巻きされた”葉巻ホヨードモントレーを吸ってみたいもんだ。

  • 田舎から都会へ上京したフランツ。
    彼は初めての仕事や烈しい恋を経て、自分の生き方に思い悩む姿はかつての自分を思い出す。都会への戸惑い、恋に翻弄される姿をちょっとほのぼのした感じでみていた。だが、後半になるにつれて当時の社会背景が自由を奪っていく姿はみていて心が辛かった。何よりもそんななかで、諦めずに抗う生き方が心を鷲掴みされた。人はいつか終わりに向かっていく。生きていくなか人は抗い続け、抗った生きた証が残る。目に見える物として、あるいは目に見えないものとして。フランツの生きた証はしっかり受け継がれたと思う。決して幸せではないけど、終わりは始まりでもある。生き方を教えてくれる一冊なので、生き悩んでいる人にオススメしたい。

  • チラシに謳っている
    「ノスタルジックな空気感がたまらない青春小説」
    というのが実に的確。
    ナチズムという時代の空気感と、田舎から首都に来て都市の空気を感じる青年が、恋をして社会に揉まれ、痛々しい程のナイーブさが、なんとも青春小説という感じ。

    エンディングの結末がどうなったかが気になるけど
    あまりいい感じはしないなぁ。

  • 第二次大戦前夜のウィーンの空気を感じたいと手に取ったが、最初はほぼ主人公フランツの思春期の悩みが続き、その悩みをフロイト先生に聞いてもらえるなんてなんと贅沢な少年よ、でもちょっと期待外れかと思って読んでいた。しかし半ばでその空気が一変する。「最近までぼくは子どもだった。今もまだ大人になりきれてない」(p.170)というが、ドイツに併合されたウィーンで一人キオスクを守るフランツは大人びており、この辺りの変化は岸恵子が「ベラルーシの林檎」で空襲を受けて「子供であることをやめた」と述べたのを思い出した。戦争は子どもを大人にしてしまうのだろうか。フロイト先生とキオスク店主は、父親を知らないフランツにとっての父親だったのだろう。ウィーンの片隅のキオスクという狭い世界から、いやキオスクからだからこそ見ていて世の中はどんどん「おかしくなって」戦争へと向かう様子が見て取れる。重要なアイテムとなっているのが新聞。このおかしくなっていく世界がティモシー・スナイダーの「ブラックアース」のプロローグに描かれた、通りの名前を塗りつぶすウィーンへとつながる。それにしてもこの書籍、重層的にいろんなことが含まれていてYAには読み解くのが困難ではないだろうか。

  • 途中、心配だったけど、読み終えてみるとすごくいい本だったと思う。
    「ノスタルジックな雰囲気がたまらない みずみずしい青春小説」みたいな煽りがついているけど、それは少なくとも嘘だろう。。。笑

    英訳版がブッカー賞の最終候補に選ばれただけはある、いい小説です。
    2018年1月末のGACCOH小説読書会の課題本。

  • 1937年、オーストリアの山間部・湖の近くに住む17歳のフランツは母親と二人暮らしだった。母親の雇い主がなく案ったのを機に、一人ウィーンのキオスクに住み込みで働くことになる。キオスクの主人は、戦争で片足を失った。フランツは、キオスクにやってくる常連さんたちの好みを覚え、ひとつづつ仕事を学んでいく。そんな常連客の中に、精神分析学のフロイトがいた。フロイトは、すでに著名な学者であったがユダヤ人であることから、ヒトラーからにらまれていた。
    フランツは、フロイトの荷物を運んだりするうち親しく話すようになり、自分の人生の相談をする。フロイトの助言に従い、休みに町へ遊びに出たフランツはアネシュカという女の子に一目ぼれしてしまう。フランツはアネシュカを探し求めるのだが…。

    ヒトラーのユダヤ人や少数民族の迫害、追い込まれていくキオスクの主人やユダヤ人。怪しい世の流れの中、フランツはフロイトの助言に共感し、自分の進む道を行くのだが、最後は想像できてはいたものの、悲しいものであった。
    美しい湖のそばに住む母親とフランツの手紙のやり取りなど、悲しさを増す。

  • 他の本を買おうとして、目に入って、呼ばれた本。
    お値段が、このサイズの本にしてはお高い!
    そこだけが、ネック。

    ナチズムが台頭するウィーンで、主人公フランツがフロイトと出会う。

    オビだけでも、ワクワクする話!
    でも、フロイトおじいちゃんはあくまでアクセント的存在。
    フランツが何不自由なかった田舎から、ウィーンという都市社会に出て来て、出会い、恋し、別れ、慟哭する。
    最初は、青臭い話かと思っていたのに、しっかり成長し、頼もしい男性になり、意志を持つ。

    トゥルスニエクオーナーと雑なやり取りをしていたのに、最後、フランツが憤り、社会への見つめ方が変わる所にゾワッとさせられ。
    フロイトおじいちゃんに言われて、自分の夢を書き留めてキオスクに飾るところも、面白いなーと思った。

    からの、フロイトとフランツのクライマックス。
    二人の選んだ道に、納得した。

    よく出来ている小説だと思う。
    新潮の100冊に入っていておかしくないクオリティ。中高生でも、読める。
    シリーズもので買ってみようか、悩むところ。

  • 文学

  • 引き込まれる小説ではあったけど、「野原」「ある一生」ほどは心の琴線に触れてくる感じはなかったかも。なまっちょろい少年だった主人公と、片足を失っている傷病軍人の店主とのやりとりが良かった。別に優しい言葉なんかお互いかけないけれど、店が壊されれば一緒に片づけをし、ビールをあおる。店主が秘密警察に連れていかれそうになれば、主人公は足を震わせながら身代わりになろうとする。そんな主人公を、店主が乱暴な言葉でかばい、縋りつく主人公を置いて一人連れていかれる場面は胸に迫った。店に一人残された主人公が、そこからはっきりと大人へと脱皮していくのが分かる。その行き着く先があの結末なのは、何とも言えないが…。

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著者プロフィール

1966年ウィーン生まれ。俳優として活躍する傍ら、2006年に小説『ビーネとクルト』で作家デビュー。本作で一躍人気作家となり、最新作『一生』(2014年)でグリンメルスハウゼン文学賞受賞、同英語訳は2016年ブッカー国際賞の最終候補作になった。

「2017年 『キオスク』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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