草地は緑に輝いて

  • 文遊社
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784892571299

感想・レビュー・書評

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  • 作家自身を傷つけるような、自傷行為のような作品集。
    彼女の生い立ちや経歴がそうさせているとは思うのだが、ここまで自分を作品で傷つけるほど辛い人生とはどうだったのだろうと考えてしまう。

    彼女は心臓発作で死亡と言われているけれども、枕元にはコカインがあったというから、それが原因だったかもしれないと思うと切ない。

    おそらく自分の中にも、彼女を同じものがあるからそう感じるのだろう。
    だからこそ、彼女の作品を読みたいと思うし、読まざる負えないという感じがする。
    これだから、本読みは厄介だ。だって、本を読むことで自分の心の中もえぐっていくのだから。

    ですが、真面目に辛い時に読んでは駄目です。経験者は語るですね(笑)

  • 異常な作家アンナ・カヴァン。真冬に風邪の高熱下で読んだ「氷」が異様な迫力をもって印象深かった。短編集であるこの本も、色彩感覚にあふれて明るい雰囲気の作品も不安、不審、絶望、孤立といったネガティブな感情に覆い尽くされます。だから面白いということはないのです。

    このような作品に共感できる感情状態ということは自分もかなり追い込まれているということがわかるPCR検査的な位置付けの作家です。今は、これは異常だなと感じることができるので私は病気ではないということかな。病的異常さが気になっていつまでも印象に残る危険な作家だと思いす。

  • 過剰な光と色彩は静寂を八つ裂きにし、狂気の悲鳴を響かせる。日々は果てしなく罅割れ、空虚な荒廃を露わにする。心には強迫観念が巣くい、魂の救いなど現れず、手の甲では幻影と幻想が踊り、手の平で掬えるものは微塵もない。原罪のない刑罰と現在のない未来。現実とは永続する悪夢。季節は孤独増幅装置として作動し、暦の上に真っ赤な血を流す。夕日が寂寥を嘔吐する路地は「求めよさらば与えられん」とは程遠い場所。どこにも逃げられない。絶望の影を踏み、影踏みばかりしているわたしの惨めな背中に、世界の無関心な一瞥が投げかけられるだけ。

  • アンナ・カヴァンの邦訳がまた1冊。
    この人は本質的に短編作家だと思っているので、矢張り短いものの方が読んでいて楽しい。本書には代表作『氷』に通じるような短編や、後に『カヴァンらしい』と言われるような作風の、かなり初期に近い形態の作品が並んでいた。買って良かった。
    それにしても、思い出した頃に新刊が出ているので、ふらっと本屋に行った時に、何か物凄くラッキーな出来事に遭遇したような気分になる。

  • 草地は緑に輝いて
    著作者:アンナ・カヴァン
    文遊社
    フランス在住の裕福なイギリス人の両親のもとにヘレン・エミリー・ウッズとして生まれる。1920年~30年代にかけて最初の結婚の際の姓名である。ヘレン・ファーガソン名義で小説を発表する。幼い頃から不安定な精神状態にあり、結婚生活が破綻した頃からヘロインを常用する。精神病院に入院していた頃の体験を元にした作品集「アサイラム・ピース」からアンナ・カヴァンと改名する。終末的な傑作長篇「氷」を発表した翌年の1968年死去。
    タイムライン
    https://booklog.jp/timeline/users/collabo39698

  • どことなく寂しげな雰囲気のある美しい文章だと感じた。比喩で表された豊かな創造力が押し寄せてくる。
    好みだったのは『受胎告知』。完璧なおばあさまと可哀想なメアリ。嫌な気持ちになるしメアリに同情するけれど、これまで何があったのか、これから何があるのか想像を掻き立てられる話だった。
    『幸福という名前』も良かった。心惹かれる美しい夢から始まり、ミス・レティの現実を見せつけられる流れがホラーめいていた。
    『或る終わり』もシンプルで好みだったな。
    どの話も"その後"を想像してみたくなるのが共通していた。それだけしっかりと一つの世界が完成されているのだと思う。内容は無慈悲で絶望的で閉塞的なのに、そういう意味では無限の広がりを感じるのだった。本を閉じた後にも頭の中でこの世界が広がり続けている。

  • 短編集。
    どれも抽象的で解りにくいが、そもそも簡単には理解の及ばない領域なのだろう。でもそれが読み手の深層部分を刺激することもある。遠く生々しい感情が一瞬蘇る。

    特に響いた作品は『クリスマスの願いごと』。青い海のあたたかいイメージはわかるな。夜の帳が降りるとともに冷えてゆく部屋。頼れるものはなく一人ぼっちで凍えながら願う。「そのうちあたたかくなりますように」と。胸に刺さって仕方がなかった。

    カヴァンはいつも彷徨い旅している。根無し草でありながら閉じ込められているがゆえに、観念的な世界の中でこそそれは可能になる。

  • アサイラム•ピースや氷などの代表作を一通り読み終えた流れでこちらの短編を読んだ。
    アンナ•カヴァンの小説は実験的な側面も強く、分かりにくいといえば分かりにくいのだが、嫌になって投げ出すこともなく、最後まで読むことができる。なぜかと言えば奇怪なイメージを絵画を描くかのように描写的に小説の中で表現しているからではないかと思った。そして登場人物達は大抵の場合、不安神経症のような状態に陥っており、自分としては何だかそんな不安定な登場人物達に共感を抱いてしまい、執拗に描かれる心理描写はどこか他人事とは思えないのである。それとユーモア感覚もあると思う、カフカのような雰囲気でちょっと分かりにくい感じではあるのだが。
    アンナ•カヴァン自身はヘロイン中毒という点を小説に結びつけて、センセーショナルに語られたくなかった(?)らしいのだが、自分としては作者のライフスタイルはどうしても小説に滲み出てしまうのではないか?とも考えてしまう…。安易な考えではあるが、突然突き刺すような不安に襲われるような描写はどこかしら薬物影響下の不安症状のようにも思えるし、天上に迎えられるような感動的な描写があった後、天の裂け目から不安の手が迫るような展開もその感覚の濃厚さにおいて薬物によって圧縮された時間のようなものを感じさせるところではある。とは言っても、それは自分の考え過ぎとも言えることだ…。結局のところ、健全な人間であっても心の皮を一枚破って仕舞えば濃密な感覚が充満する場所が広がっているのだ。この短編集では、そんな自分の中に眠る濃密な場所を大いに刺激された気がする。この本を読んで、筆者は心の深いレベルにあるイメージを凄まじい描写力でもって文章化できる稀有な作家なことには間違いなく、そして言葉の選び方や風景の切り取り方などとても現代的な感覚であり、素晴らし過ぎると改めて感じ入ってしまった。

  • 2021/6/29購入

  • 結構気合いというか、どんより沼に突き落とされる覚悟で開いたが、全然読みやすく面白かった。ものすごく短いのもあるけど、いい感じにまとまった短編集。あんまりユーモアさっていうのはイメージになかったけど、今作には見受けられる。なんだかずーっと引きこもって、ベッドと机の往復人生と思ってたが、生涯に渡って世界各地を旅して回っただとう?そうなのね、今回は高等民族ゆえの、脇汗かいて労働する人間とは違う、なんだかそういう目線が気になった。今までのイメージと違い、穏やかでしっかり面白い感じ。読みやすい。

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著者プロフィール

1901年フランス生まれ。不安と幻想に満ちた作品を数多く遺した英語作家。邦訳に、『氷』(ちくま文庫)、『アサイラム・ピース』(国書刊行会)などがある。

「2015年 『居心地の悪い部屋』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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