セザール・ビロトー 〔ある香水商の隆盛と凋落〕 (バルザック「人間喜劇」セレクション(全13巻・別巻二) 2)
- 藤原書店 (1999年7月30日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (449ページ)
- / ISBN・EAN: 9784894341432
作品紹介・あらすじ
明けても暮れても夜逃げ倒産のニュースで騒がしいこの不景気日本の運命をかこつ者が、そんな事態は洋の東西、古今を問わず、珍しくもなんともないと知って慰めになるかどうかは定かでない。だが、今から約二百年前のフランスでも倒産騒ぎは日常茶飯事、まじめ一方、商売一筋の香水商もちょっと気をゆるめたばかりに不運と悪意につけこまれ、あっという間に倒産の憂き目。ただ当時のフランス、今の日本でも珍しいのは、破産宣言を受けたこの男が、なにがなんでも負債を全額返済しようとする律義さ。破産してしまえば負債は帳消し同然、あとはまたうまくやるさ、と考える輩の多いこの世の中で、その努力はまさに第一級の貴重品。彼の大奮闘の首尾やいかに。さあ、お立ち会い、お立ち会い…。
感想・レビュー・書評
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<閲覧スタッフより>
約100篇もの小説に2000人を超える人物が登場する『人間喜劇(La Comédie humaine)』。何人もの登場人物が複数の物語間を縦横無尽に動き回る「人物再出法」と言う手法が特徴的です。『人間喜劇』は、バルザックの射程の広さを実感するオムニバス劇場です。
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所在記号:953.6||ハオ||2
資料番号:10121909
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バルザックの作品は、岩波、新潮、河出、角川、ちくまなどから文庫で出版されていたり、
各出版社の世界文学全集などでは、『ゴリオ爺さん』『谷間の百合』或いは『ウジェニー・グランデ』のような作品が読めると思う。
バルザック全集は、河出書房、新潮社、東京創元社などから出されているが、1999年から2000年にかけて藤原書店から、鹿島茂らの責任編集のバルザックの全集が発売された。
この全集は『バルザック人間喜劇セレクション』と題され、今、日本で出版されているバルザックの全集の中では一番新しい。
この全集に題されているように、バルザックは自作を「人間喜劇」という大いなる総題をつけた。
その総序でも述べられているが、社会には属するさまざまな職種、性別、年齢、思想、人生があり、それらの人々を登場させて、ある世代の社会風俗博物誌のようなものを作り上げるという壮大な企てを「人間喜劇」と呼び、
小説89篇と総序を加えた90篇が「人間喜劇」の著作とされる。
バルザックは137篇で完成という目録を生前に作っていたが、51歳で亡くなった彼にはそれを完成させる時間が残っていなかったようだ。
しかし、ゾラの『ルーゴン・マッカール叢書』のように最初に細密な設計がなされた連鎖小説ではなく、「人間喜劇」の登場人物は、書いていくうちに創造されていったものらしい。
バルザックが「人間喜劇」に登場させた人物は2000人以上とされ、そのうち、再登場人物は、600人を超える。
この人物再現法により、わたしたち読者は、「人間喜劇」を読み通すと、その各々の小説がひとつの統一した世界だと感じるのだという。
バルザックの「人間喜劇」を読み通したいという欲望は以前から持っていたが、これはなかなか腰を据えないとできないことであるし、まぁ、あまり深く考えずバルザックに触れていければいいという漠然とした考えでいたが、ここにきて、牛の歩みでもいいので少しずつ読んでいこうと思うに至った。
その理由は、これからバルザックを読むたびに繰り返し書くことになると思うが、これまで私が読んだバルザックの小説は、
『ふくろう党』『ゴリオ爺さん』『谷間の百合』『ウジェニー・グランデ』『Z・マルカス』『知られざる傑作』『砂漠の灼熱』『エル・ヴェルデュゴ』『恐怖政治の一挿話』『ことづて』『柘榴屋敷』それと今回読んだ『セザール・ビロトー』計12篇で、
まだこれだけしか読んでいないのに、人物再現法というバルザックの魔術の手にひっかかってしまったのだ。
『セザール・ビロトー』の副題は「ある香水商の隆盛と凋落」で、本書はこの副題の意味するとおりのストーリー展開で描かれている。
正直で人の良い香水商のセザール・ビロトーは、苦労の末、商売で成功し、パリの助役になったどころか、騎士勲章まで貰う。
美しい妻と、年頃の可愛い娘にも恵まれ、叙勲記念の舞踏会まで盛大に開くが、その数週間後、公証人が彼の資産を持ち逃げし破産に追い込まれる。
縁者たちの努力で債権の責務から解放された直後、セザール・ビロトーは死ぬ。
『セザール・ビロトー』という小説は、バルザックの作品の中で、中篇か長編に属するものだが、読みにくい部類には入らない。要は倒産の話なので、倒産を繰り返し、債務者に追いかけられる人生を歩んでいたバルザックにとっては、珈琲を飲みつつもさぞや、ペン先のインクがさらさらと紙の上を走っていったことだろう。
内容はどうでも『セザール・ビロトー』では、実に多くの人物が登場する。そのうち106人は、「人間喜劇」の再登場人物というのだから驚く。
たった11篇しか読んでいなかった私もさすがに、知ってる人物続々登場で、一冊の書物を純粋に楽しむということ以外に、人物再現法というバルザックの罠にまんまとかかってしまったわけである。
主人公のセザール・ビロトーの兄は破産した弟に千フラン送金することで登場するが、『谷間の百合』では、司祭であったし、
ビロトーを追い返す銀行家のケレールは『ウジェニー・グランデ』でも登場する。
『ゴリオ爺さん』のゴリオの次女はニュシンゲンという銀行家(ロスチャイルドがモデルとされる)に嫁いだが、この夫妻がまた『セザール・ビロトー』で現れる。
ビロトーが開いた舞踏会には『谷間の百合』の登場人物たちが招待される。
前述したようにバルザックの全集や書物はたくさんの出版社から刊行されており、今回の『セザール・ビロトー』は、藤原書店さんの大矢さんの訳で読んだ。
バルザックは、「人間喜劇」を、「風俗研究」「哲学的研究」「分析的研究」に分類し、
更に、「風俗研究」を「私生活情景」「地方生活情景」「パリ生活情景」「政治生活情景」「軍隊生活情景」「田園生活情景」に分け、
たとえば、『谷間の百合』は「田園生活情景」に、『ゴリオ爺さん』は「私生活情景」に、『セザール・ビロトー』は「パリ生活情景」に、『ふくろう党』は「軍隊生活情景」に、『知られざる傑作』は「哲学研究」に分類される。
出版月日や、分類なども考慮しつつ、出版社にあまり拘らずバルザックの「人間喜劇」をゆっくり楽しんでいきたいと思っている。
『セザール・ビロトー』1837年 -
面白かった。ナポレオン失脚後の王政復古期はブルジョアといってもまだ小売商人。広告を出し、工場を作り商品を売ることを始める。産業革命はまだ先だが、今の商業主義の原型がわかった。土地の高騰を見越して投機的に土地を買ったり、偽装倒産や計画倒産させて債権を買い叩いて儲けるなんてバブルの頃にやっていたこと!家族や友人たちの絆や愛情が胸を打ち、悪役の落胆に溜飲を下げた。
解説を読んで気づいたが、セザールはイエスで弟子に裏切られ、処刑され、復活し、昇天するのか。 -
【09.1.16/図書館】
裸一貫(?)から成り上がり、妻を愛し娘を愛し、無知故に「誠実」でもあり続ける善良な香水商ビトローが、とある投機を持ちかけられて、その誘いに乗るが、その話には裏がありましてね・・・。
っていう話。
目次を見ただけで、ストーリーが丸わかりなので、先を知りたくない方は、目次は丁重にスルーすべき。
最後、ビロトーがどうなるかまでわかっちゃうという。
(それで読書欲が削がれるってことでも無いんだけれども)
その最後には思わず「え、なんで!?」と言いたくなってしまうんだけれども、物語そのものは大団円なので、安心して読みおえられます。
投機の話やら、破産の話やら、経済がらみの話が長ったらしいが、ま、そこが面白いと言うことで。
星は微妙に5…ゴリオを3にするのなら4ってところかな。
でも、ゴリオも3って感じじゃないんだよなぁ…。難しい。