斜線の旅

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  • インスクリプト
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  • Amazon.co.jp ・本 (275ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784900997288

作品紹介・あらすじ

水半球に横たわる「見えない大陸」(ル・クレジオ)、ポリネシア。フィジー、トンガ、クック諸島、タヒチ、そしてラパ・ヌイ(イースター島)へ。アオテアロア=ニュージーランドを拠点に、太平洋の大三角形の頂点を踏みしめ、旅について、旅の記述について、行くことと留まることについて、こぼれ落ちる時間のなかから思考をすくいあげる生のクロニクル。

感想・レビュー・書評

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  • 菅 啓次郎著『斜線の旅』読了。単なる旅行記とは一線を画する物凄く深い余韻。余韻、また余韻。圧倒的な文章力と経験を伴った博識さをもって語られる物語。浅学な僕には理解の難しいくだりもたくさん。辞書を何度もひきつつ、google検索も駆使しながらの素晴らしい読書体験でした。

  • いったいこれまでこの作者は、どの順番でどれだけのところに住んだんだろう。アメリカ本土、ハワイ、ブラジル、ニュージーランドまではわかったけれど。フィジー、トンガ、青森、武漢、アメリカなどが舞台の紀行。観念的な旅しかできず、観光的なものは見逃してるところもあるかもしれないが、と語るが、そこに住み、あるいは何日か滞在し、都市にふれ、人にふれていくことでわきあがる思索を追っていくような旅。タイトルは、ガンジーを念頭に、インドで生まれ、イギリスに留学し、インドで高給の弁護士だったのに、それをなげうって南アフリカの砂糖労働者救済のために南東に、世界地図でいうと斜線を描いて移動したことから取られている。(そんな風にかけ離れた土地が誰かの生涯において突然に、長い斜線を引くようにして結びつけられることには、どこか人を魅了するものがある。(p.14))◆トンガで印象深いもの「お墓」「よろず屋」「野良豚」「みんなの体格のよさ」「町中のタパを打つ音」(洗濯のため)「オムライス」といったあたり、「青森ノート」の移動と光の加減が特に個人的には印象に。◆また、”「美術ってて何か役に立つんですかあ」と何の屈託もなく口走る学生たち”に何度でも言う言葉(p.202-203のあたり)、"現代日本には、誰もが誰を相手にしても対等の立場で話をしていいしたとえ未知の相手であってすら必ず言葉を交わすべきだという原則が、完全に欠落している。"というp.132の前後あたり、"一貫性が一日のうちですらたやすくとぎれ、すべてが並列される。価値の位階が崩れ、自分自身が何か索引のようなものになってしまう。"ではじまる p.260-261のあたりが特にぐっときました。◆リー・フリードランダーの砂漠写真、ウーヴェ・オマー「トランジット-1424日世界一周」も観てみたい思いに。

  •  著者は1958年生まれ。翻訳者、詩人。比較詩学研究、コンテンツ批評、映像文化論を専門とする学者さん。

     本書刊行当時に一度手に取ったのですが、その時は通読できず。なんとなく、また手にとり、今回は最後まで読みました。

     『風の旅人』という雑誌に連載された旅行記・滞在記を中心にまとめられた本です。仕事が終わって家に帰ってきてから寝るまでの短い時間で、途切れ途切れに読み継いでいくのにちょうどいい本でした。

     ”そんな風にかけ離れた土地が誰かの生涯において突然に、長い斜線を引くようにしてむすびつけられることには、どこか人を魅了するものがある。その旅は征服の旅、侵略の旅、探究の旅、抵抗の旅、強いられた旅、無根拠な旅、放埒な楽しみの旅、いろいろな性格のものでありうるだろう。だが客観的な善悪の判断、有意義無意味の区別を超えて、遠い連結にひめられた魅力は、否定しがたい。(中略)いまもぼくらの旅のすべてが、その背後に多くの倫理的な問題を隠しつつ、見たことのないものを見たい、思ってもみなかった何かを知りたい、見て、知って、自分のものにしたいという気持ちに立って、構想され、実現されてゆく。” p14

     旅というのは、どこかとどこかの土地を、欲望によって結びつけるものであるという指摘から本書ははじまります。欲望の良し悪しはひとまず留保されます。

     しかし、この本のあちこちで、良し悪しは問われ続けます。旅そのものに対してというより、もっと広く、ヒトの営みについて。植物伐採、資本主義、インターネット、芸術、大学。それらについて論じられたあと、本書の最後で、また旅についての著者の思いが述べられます。それに同意するかどうかはあまり重要ではなく、旅をする人それぞれが、旅の持つ意味を考えるためのきっかけとしてこの本を味わえばいいのかなと思いました。旅をしにくくなっているコロナ禍に再度手に取ってよかったです。

  • 南半球、太平洋の旅。好きな本。

  • かぜたび舎が発行する雑誌『風の旅人』に連載されたエッセイを集めた本書。タイトルにある「斜線」とはハワイ諸島、イースター島、ニュージーランドの三点を結んで出来る三角形であるポリネシアン・トライアングルの辺のことである。著者がこの「斜線」付近にある島を中心に旅をし、体験したこと、感じたことなどを記した旅行記である。土地と土地、場所と場所、出会った人と人は、きわめて独特で直線的な並び方をして、私たちの心に全面的な影響を与えると著者が述べており、実際にさまざまな島で様々な人種、文化に触れてみたくなる一冊である。
    (電気電子系電気電子コース M2)

  • 旅行記と思い、手にした本。
    旅行記だが、「普通」の旅行記とは一線を画する、引用の多さが印象的だった。
    この本を読んで、旅行には行きたいがなかなか行けない大人の抱える物理的な束縛感をどういなして、それとどうつきあっていけばいいのか、というのを考えさせられた。

  • 旅での思索をめぐる極上のエッセイ。
    言葉の一つ一つが珠玉のように輝いている。
    装丁も含め、文句なしの五つ星。

  • なんともいえない高揚感(まるで旅している時みたいな!)をこの本から得られました。
    なんてすばらしい本なんだろう!
    これからも、心の閉塞感を感じた時に何度も手に取るでしょう。

  • 出逢えてよかった一冊。そしてこれからもまた、時おり手に取ることができたら嬉しいと思う。この世界観に寄り添う時間は心地よいのだ。

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著者プロフィール

1958年生まれ。詩人、批評家。明治大学理工学部教授。詩集『Agend'Ars』『島の水、島の火』『海に降る雨』『時制論』『数と夕方』『狂狗集 Mad Dog Riprap』(いずれも左右社)、『犬探し/犬のパピルス』『PARADISE TEMPLE』(いずれもTombac)、英文詩集にTransit Blues(University of Canberra)がある。紀行文集『斜線の旅』(インスクリプト)により読売文学賞受賞(2011年)。エドゥアール・グリッサン『〈関係〉の詩学』『第四世紀』(いずれもインスクリプト)をはじめ、翻訳書多数。2021年、多和田葉子、レイ・マゴサキらによる管啓次郎論を集めた研究書Wild Lines and Poetic Travels(Doug Slaymaker ed., Lexington Books)が出版された。

「2023年 『一週間、その他の小さな旅』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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