実況・近代建築史講義

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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784900997820

作品紹介・あらすじ

『実況・比較西洋建築史講義』と対をなす中谷建築史第一弾。ルネサンスから現代まで、ブルネレスキから藤森照信まで、近代500年の建築史を全12回で駆け抜ける。早稲田大学ティーチングアワード総長賞受賞講義を実況収録。近代建築の始まりをルネサンスにおき、第1部はルネサンスから産業革命まで、第2部はモダニズム建築の誕生と発展を概観する。第3部は日本に舞台を移し、江戸時代における建築の近代的萌芽を探り、現在を展望する。建築と建築様式の変遷、建築家たちがどのような課題に応え、どんな作品を生み出してきたのか、確かな歴史観の下にわかりやすく批評・解説。読んだら建築史が好きになる早稲田大学の人気講義をまるごと収録。版を重ねたLIXIL版の内容そのままに継続刊行。付録・近代建築家生没年年表付。

感想・レビュー・書評

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  • 2022/9/24

  • 近代建築史の概要を理解するために読み始めたのだが、面白すぎてびっくりしている。ルネサンスから現代に生きる建築家まで、一気に駆け抜けて夢中で読んだ。この凄まじい歴史の軸の上に建築学生である私も立っているのだと思うと、胸のドキドキがおさまらなくて、もうどうしようもない。
    もっともっと勉強して、素晴らしい建築をつくりたい。

  • 近代という概念は、歴史や芸術、思想、その他様々なカテゴリごとにそのはじまりが異なっている。

    ヨーロッパは、古代からキリスト教に染められることで自由な文化的発展が抑えつけられてきた。その転換がルネサンス(再生)として起こる。ギリシャ・ローマという時代を再評価し、例えば建築においても、規範としての古典というものがクローズアップされることになる。抑えられたきた科学や技術というものによって、古典から繋がる文化を再構築する。さらに、歴史に積み重ねられてきた実態を様式として整理し把握するようになることで、方法として建築を表現し、さらにはそれらの様式を足掛かりにすることで、改変し、逸脱し、ときにはまた否定したりすることで、さまざまな主義様式がまた生み出されるという循環が生まれた。しかし、様式という基準が建築をはじめに規定してしまうことで、それらの取捨選択、基準を更新するためのまた基準、基準からはじまる発想の転換と更新というだけの繰り返しに陥り、建築は停滞していく。廃退の雰囲気が忍び込んてくる。


    そこに、新たな次元を持ち込んだのが、産業革命だ。工業的革新によって、材料、方法、さらには建築の立つフィールドまでが一新されていく。鉄という材料の可能性の横溢。材料としての特性が限界を広げ、規格化と合わさることで、それこそ空間における次元を変えていく。このタームがユニークなのは、エンジニアリングの発展として、表現の方法が拡張し、建築と土木の境のない、大規模な建造物の実現によって、世界が変わり拡がっていったことだ。イギリスにかけられた鉄橋、エッフェル塔、展覧会場のクリスタル・パレス、フレシネーたちによるコンクリートという材料の革新と産業化。それまでの様式たちからまたたく間に、飛び越えるようにして可能性が拡張されてしまう。この過程によって齎された“発見”が、新しい概念としての「モダニズム」という潮流を生み出していくことになる。


    第一次世界大戦によって齎された、ヨーロッパの白紙状態。産業革命からの潮流に加えて、歴史性と比較性が断ち切られてしまった状態が到来して、モダニズムが立ち上がってくる。規範に囚われるのではなく、自立するしかない状況から、真っ更なところに生まれる新たな共通基準を建築のなかに構築しようとした。それは、ユニバーサルな諸元を求める行為のようでありながら、一方で、どこまでも極限的なことを許容してしまうような、無限性を含んでいた。

    ミース・ファン・デル・ローエのように、彼方まで行ってしまうことができる。終わりのない徹底的な追求が建築になる。マレーヴィチがシュプレマティズムを提唱する。何かを表現することが芸術になるのではなく、例えば、絵が絵としてだけに自立してしまう。造形や意図によって、建築も立ち上がらない。徹底的に突き放して、そしてまるで勝手に自立するように存在してしまう。

    ル・コルビュジエのように、モダニズム建築の要旨として「近代建築の5原則」を立てる。新たな空間概念を示す。シンプルな言葉で概念を形態にするための抽象化の方法を作り上げる。国際的な、普遍的な建築という意味を広告的に、シンボリック的に実現しながら、一方で、それを自ら壊してしまうようなロンシャン礼拝堂を作り出す。

    どこまでも行けるのだ。モダニズムにある制限のなさという世界観。極限を目指せてしまう、圧倒的な才能の存在によって、どこまでも拡がることが可能な世界。世界標準的というモダニズムの意味と正反対の価値がそこには含まれている。

  • 引用。

    モダニズム建築はいつ本格的に始まったと考えるべきなのでしょうか。それは第一次世界大戦(1914-1918)終結後の廃墟からなのだと考えるとしっくりきます。モダニズム建築の誕生の背景には、西洋建築が互いに爆撃し合って、物質的にも精神的にも空虚が生まれたこと、タブラ・ラサが起こってしまったことがあります。

    モダニズム建築の到来を告げたル・コルビュジエの〈ドミノ・システム〉(1914)が、実は大戦で被災した地区の復興住宅、つまりバラック建設のために提案されたことはその意味で極めて重要でしょう。

    アメリカとソ連の宇宙関係のデザインを比較すると、明らかにその思想が異なります。アメリカは流線型を採用しています。
    一方、ソ連の宇宙船を見てみましょう。それはまるでメカニックな蛸、もしくは串団子のようです。実はこれは構成主義の残滓なのではないでしょうか。

    マーガレット・フラー
    トランセンデンタリズム(超絶主義)
    オルコット、エマーソン
    自然や人間自身に神性が内在すると強調し、個人の独立と精神の修養を重んじていました。

    ここで注目したいのは、川添が《国会議事堂》を墓場と表現しているところです。
    実は《国会議事堂》の特徴ある上層部、いわゆる階段ピラミッドであるジクラットのモチーフの起源は「墓」だったのです。これは建築史家の鈴木博之が主張したことなのですが、議事堂のジクラットは、古代エジプトの墓であるマウソレウムの形式を様式として採用したものなのだそうです。

    当時の建築雑誌を見ると面白いのですが、丹下健三が建物を発表すると、それを模した建物がその後に数多く発表されます。彼の建築は典型力が強く、またわかりやすかったので、一気に広まったのです。とりわけ《香川県庁舎》の手法はとてもわかりやすいため、九段下や丸の内などのオフィスビルでいくつか似たような形の建築が建てられました。

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著者プロフィール

1965年生まれ。歴史工学家。早稲田大学理工学術院建築学科教授。

「2015年 『応答 漂うモダニズム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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