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感想・レビュー・書評
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『楡の家』に登場する母親の娘が主人公。平凡な男と結婚したことに後悔し始めた頃、結核を発症し、療養のために入ったサナタリウムでの日々が綴られるという体裁の一冊。心の内面や自然の描写は他の著作同様とても細やかで、言葉にうまく言い表せないはずの気持ちが、こちらへ伝染してくるほどに巧み。他著との連動もあって、サナタリウムでの描写には「風立ちぬ」の節子とその恋人らしき人が少し登場したりもする。
そんないくつかのエピソードの中で、ある時、菜穂子が衝動的に一人で病院を抜け出し、東京へ帰って来る、という場面がある。マザコン気味の夫、黒川圭介は一緒に暮らそうなどと言うはずもなく、菜穂子はそのまま翌朝、一人で八ヶ岳の病院へ帰ることになるのだが、宮崎駿監督の映画との違いが顕著で面白い。
堀作品におけるこのシーンの意味合いと映画のそれとは異なるが、監督はもちろん、このストーリーを踏まえて映画の登場人物に命名したはずだと思うと、本家の「菜穂子」よりも幸せそうな映画の彼女の描き方に、ちょっとあたたかい気持ちになった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
宮崎駿の「風立ちぬ」で高原療養所に入った菜穂子が二郎に会いに来るシーンのモチーフになっている。二郎と菜穂子が軽井沢のようなところで再会するところは著者の小説「風立ちぬ」の方がモチーフになっている。
映画と違って、この小説では菜穂子が高原療養所を抜け出して東京に戻ってきたのに、夫は母親との静かな生活を乱されたくなくて家に連れて帰らずホテルに泊める、勝ち気な菜穂子はなぜ自分が東京に戻ってきてしまったのか自分でも分からないし、夫の迷惑そうな態度にも「雪に心が躍ってつい帰ってしまっただけ。明日すぐ帰る」と気丈な態度をとる、とロマンチックなストーリーではない。とにかく勝ち気。不治の病である結核に冒されつつも、やっと手に入れた不自由な自由を楽しめる勝ち気。もちろんその勝ち気さは卵の白身みたいなもので、黄身の部分に包まれたか弱さ、寂しさ、純粋さが見え隠れする。
ところでこの小説は三部構成と言っていいと思う。第一部は菜穂子の母親の日記に綴られた菜穂子、第二部は菜穂子の別荘の近所に住んでいた幼馴染の都築明の視点で描かれた菜穂子、そして第三部は菜穂子自身の視点で描かれた菜穂子である。残念ながら第一部と第二部は消化不良だった。 -
随分昔、十代の頃に親の本棚にあったものを読んで以来の再読。まったく記憶がなかったが、15年戦争のさなかでは、この程度かなという印象しか残らない。
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物語の女 20160303
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難しい。なんとなく外国の近代文学を読んでいるような、その時代と価値観がわからないと楽しめない雰囲気を感じた。
星の王子様では大人になってしまった感を嘆くが、本書は逆に、大人になりきれてないことで楽しめない類の小説のように感じた。
難しい。感受性の欠如を痛感した。 -
前半の母親編が面白かった。
描写の細やかさには溜息が出ました。 -
星四つ
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宮崎駿の「風立ちぬ」の基になっていると聞いたので手に取ってみた。先日読んだ同作者の「風立ちぬ」よりこちらのが動きがありまだ楽しめた。ただ、アニメの「風立ちぬ」の基になったというにはテーマ性から何から違うところが多かった。登場人物の名前は本作から多く使われているようには思ったけど…。