やまなし [Kindle]

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  • 2012年9月13日発売
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感想・レビュー・書評

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  • 先週、傍らに珈琲を。さんと、宮沢賢治「やまなし」のクラムボンの「正体」について交流しました。それは賢治の短編集で、「やまなし」については「(クラムボンは)アメンボという説もある」という注釈を書いていました。私は初めて聞いたので調べると、昭和の時代にその「説」は言われなくなったことが判明しました。という事で、興味を持って再読してみたのです。

    『クラムボンはわらったよ。』
    『クラムボンはかぷかぷわらったよ。』
    『クラムボンは跳ねてわらったよ。』
    『クラムボンはかぷかぷわらったよ。』 
    (略)『クラムボンはわらっていたよ。』
    『クラムボンはかぷかぷわらったよ。』
    『それならなぜクラムボンはわらったの。』
    『知らない。』
    (略)
    『クラムボンは死んだよ。』
    『クラムボンは殺されたよ。』
    『クラムボンは死んでしまったよ………。』
    『殺されたよ。』
    『それならなぜ殺された。』
    (略)『わからない。』
    魚がまたツウと戻って下流のほうへ行きました。
    『クラムボンはわらったよ。』
    『わらった。』

    これが「クラムボン」が出てくる全てです。作品概要自体は教科書に載ったこともあるし、青空文庫でホントにあっという間に読めるので省略しますが、沢蟹(?)が子供だった5月の時の兄弟の会話であり、12月では、クラムボンは会話の話題にも上りません。

    私はずっとクラムボンとは兄弟たちの出す「泡」のことだと思っていました。5月、地の文に泡は出て来ますが、会話は泡の描写に並行して語られていて、兄弟たちは自分たちから出た泡のことをクラムボンと呼んでいたのかもしれません(12月では、自分の出した泡のことをちゃんと「泡」と発言していますが、これは彼らが成長した証かもしれません)。ただ、引っかかっていたのは、どうして突然『死んでしまった』『殺された』という物騒な言葉が兄弟から出て来たのか?という事です。
    ‥‥つうと銀のいろの腹をひるがえして、一疋の魚が頭の上を過ぎて行きました。‥‥この描写の後に、『殺された』が出て来て、魚が去ってゆくと『わらった』に戻るのです。魚が、沢蟹たちを捕食する生き物であるのは明らかです。もしかしたら、クラムボンとは、「魚に喰われたお母さんの発する泡」のことだったのかもしれません。
    と、いうのもインターネットで調べた時に、なんと「正体」に現在9つも説があると書いていて、そのうちの一つが「蟹の母」説というものだったのです。「母」ではなく「母親の泡」だと、私は発想しました。あのクラムボンは現在見えているものではなくて、母親の泡の「思い出」なのかもしれません。だとすると、いろいろと腑に落ちるのです。

    「やまなし」のテーマは何か?と言えば、「日常の中に潜む死」と言えるのかもしれません。

    兄弟は「魚はとって(殺って?)いるんだよ」と認識していますし、その魚を、カワセミが獲って行って、兄弟がぶるぶる震えているのをみてお父さんが『大丈夫だ、安心しろ。おれたちはかまわないんだから。』とわざわざ言っています。この家族に悲しいことがあったに違いありません。
    でも、おそらく兄弟は魚が母親を殺したことはわかっていても、決して魚を恨もうとはしていません。何故なら、魚もカワセミによって殺されるのを目の当たりに見たからです。食物連鎖の因縁を理解しています。でも兎も角「こわいよ、お父さん」なのです。

    空から落ちてくるのは、カワセミだけではありません。12月には、やまなしという不思議なものが落ちて来ました。後二日もすれば、私たちのところにも近寄ってきって天上の食べものになってくれるようです。そうやって沢蟹は、不思議な「因縁」によって「生かされている」のです。そうでなければ、世界がこんなにも美しく見えるはずがありません。

    「やまなし」は1923年4月、岩手毎日新聞に掲載されました。その5ヶ月前に賢治は最愛の妹・トシを亡くしています。

    • 傍らに珈琲を。さん
      kumaさん、こんばんはー!

      またまた成る程ー!!
      レビューを拝読させて頂いて、腑に落ちた感じがしました。
      クラムボン=母蟹の泡もしくは母...
      kumaさん、こんばんはー!

      またまた成る程ー!!
      レビューを拝読させて頂いて、腑に落ちた感じがしました。
      クラムボン=母蟹の泡もしくは母蟹そのものかもしれないなぁと、早くも自身の考えが変わってきております。

      このお話のテーマは、やはり食物連鎖ですよね。
      12月が平和過ぎて一見あれれ?と思うのですが、子蟹も成長していますし、よく熟したやまなしも落ちてくる。
      植物や果物も、土から栄養を貰って成長しなければ、実りの秋を迎えられませんし。

      イサドって何処?問題も気になっているのですが、こちらも様々な説があって、
      賢治の他の作品も読まなければ予測不可能に思えたので、又の機会にしてしまいました 笑
      2023/12/13
    • kuma0504さん
      白いヤギと黒いヤギさん、
      私も、国語の教科書で答なんか出せないと思います。というか、未だ現役の教材なんですね!びっくりです。6年の教材だった...
      白いヤギと黒いヤギさん、
      私も、国語の教科書で答なんか出せないと思います。というか、未だ現役の教材なんですね!びっくりです。6年の教材だったのか!だとしたら、ホントに50年くらいだ。私は、50年間でやっと此処まで辿り着いたな、という感慨に浸っています。

      傍らに珈琲を。さん、
      共感いただけて嬉しいです。

      イサドの方は、全くわからない、というか、賢治もここまで多くの人々がああでもない、こうでもないと議論するとは絶対想像していなかったろうから、勢いで書いてしまったというのが正直なところなのかもしれません。
      2023/12/13
    • 傍らに珈琲を。さん
      イサド、謎ですよね~。
      童話なのにあれこれ考えすぎてプシュプシュ湯気がたってます。
      勢いで書いてしまった←笑
      そうかもしれません。
      イサド、謎ですよね~。
      童話なのにあれこれ考えすぎてプシュプシュ湯気がたってます。
      勢いで書いてしまった←笑
      そうかもしれません。
      2023/12/13
  • 【ネタバレ】久しぶりの聴き読書、宮沢賢治。そのタイトルから、山梨の昔話?と思って聴き始める。2匹の子蟹が平和そうに川で暮らしている。さらに、いきなりのクラムボン!何なんだ、クラムボン!次に2匹の子蟹の目の前でカワセミが魚を捕獲!2匹の子蟹は恐怖体験をする。次に2匹の子蟹は口から泡を吐き、大きさを比べっこする。と、そこに「やまなし」がトブンっと上から落ちてきた!なるほど!「やまなし」はいい匂いがする訳だ!そうか、クラムボンは「〇〇〇〇」だったんだね。ホンワカ系のお話しでした。情景を思いながら読めました。④

  • 日常の中で繰り返される何かしら。
    ストレートな表現があるが、全体を見るには抽象的で、掴みどころのない内容。
    小学校の教科書か何かで読んだのが最初。クラムボンってなに?響きが好きで、友人と擬人化して絵を書いていた記憶あり。

    水中の中から覗く外。そこからやってくるもの。水面の煌めき。蟹の親子の会話。恐れや期待が入り混じった短編。

    読了。

  • 読んだきっかけ:
    岩手に行くので、宮沢賢治読み返し。

    あらすじ:
    二疋の蟹の兄弟のはなし。

    感想:
    水底の描写がきれい。なんてきれいな話なんだろう。

  • 小学校の時、教科書に載っていたが、その時もよくわからなかった。宮澤賢治への苦手意識はその時からのような気がする。今読んでも(聞いても)やはりよくわからない。

  • クラムボンって何?
    直ぐ検索したけど、「これ」って、断定ナシ。

    3匹の蟹と、カワセミ、やまなし、クラムボン。
    ファンタジーな感じもする。
    けど、クラムボン同様、断定出来ない。
    童話なんだろうけど、違う気もする。
    食物連鎖的な感じもするが、それだけじゃない感じ。
    奥が深い。
    宮沢賢治の文章、色んな捉え方が出来る。
    今頃、気付く私。
    もっと文章、勉強せねばᕦ(ò_óˇ)ᕤ
    ‘22.08.31読了

  • 擬音が可愛らしかった。
    ちょっと理解が追いつかなかったので、また読み直したい。

  • クラムボンはわらったよ。という言葉が印象的だった。クラムボンってなに?蟹?蟹のぶくぶくした泡が水面にキラキラ光っているようなイメージを持っていた。今、読んでも水面に光があたり透明感あふれる色が感じられた。

  • クラムボンがかぷかぷわらった印象が強すぎて忘れがちだけど、そのあと殺されたり、かわせみだったり、こわい所へ行ったりする、なかなか厳しい話。タイトルがなぜ「やまなし」だったのかもつい忘れてしまうが、やまなしである。ぼかぼか流れて行く。

  • 小学校のころ、音読したなあ、といううっすらとした記憶の中よみました。

    クラムボンはかぷかぷわらった。
    お魚は・・・
    どうしたい。ぶるぶるふるえているじゃないか。

    セリフに覚えがあるところが何箇所かありました。

    が、今読読み返しても学校でなにを学んだのか思い出せません。
    クラムボンってなんなんでしょう。

    ただただ、蟹の兄弟と父親とのやり取り、情景描写がとても美しい作品です。

    春と修羅も並行して読んでいて、よくわからないなあと思っていたのですが
    やまなしの冒頭の
    『〜二枚の青い幻燈です。』
    『わたしの幻燈はこれでおしまいであります。』
    と春と修羅の冒頭の
    『わたくしといふ現象は
    仮定された有機交流電燈の
    ひとつの青い照明です』
    とが似通っていることに、何か意味があるのかしらと感じています。

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著者プロフィール

1896年(明治29年)岩手県生まれの詩人、童話作家。花巻農学校の教師をするかたわら、1924年(大正13年)詩集『春と修羅』、童話集『注文の多い料理店』を出版するが、生前は理解されることがなかった。また、生涯を通して熱心な仏教の信者でもあった。他に『オツベルと象』『グスグープドリの伝記』『風の又三郎』『銀河鉄道の夜』『セロ弾きのゴーシュ』など、たくさんの童話を書いた。

「2021年 『版画絵本 宮沢賢治 全6巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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