解錠師 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) [Kindle]

  • 早川書房
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感想・レビュー・書評

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  • 閉じ込められた声を抱えながら何もかも開け放してしまう指先を持ってしまった少年が、青年期を迎えてどう生きていくかを選択した物語。

    彼がうしなったもの、得たもの、生きるためにやるしかなかったこと。
    描いたこと、恋したこと、語り尽くしたかったこと。

    時系列が飛ぶので一気読みがおすすめ。
    後半は特に目が離せない。

  • スピーディーに読めるミステリーだった。
    内向的な主人公の気持ちが分かりやすくてよい。
    主人公が話ができないゆえに、主人公に対する信頼感のようなものを感じるようになるのが不思議な感じだった。
    大きく2つの時間軸で話が進んでゆくが、どうして2つのストーリーにズレができたのか知りたくなり、どんどん読み進めてしまった。
    エンターテイメントミステリーとして、とても楽しめる一冊だった。

  •  天才的な解錠の技術を身に着けてしまった少年のピカレスクロマン。状況に流されているようで、自らの意思で判断し、ぬかるみにハマっていく。見ていてつらい気持ちになる。ピカレスクロマンでもドードマンダーのような明るい結末が待っているならいいが、不幸に終わるのは勘弁してほしい。面白くないから読めないのではなく、つらくなるのが嫌で読み続けるのを断念しようかと思った。しかし、巻末の解説にあるように後半から目が離せなくなり最後の方は悲劇を覚悟で一気に読んだ。
     そう、青春小説でもある。世の中に流されているような、流れに逆らうような、ふらふらした少年の成長。良い見本なのか悪い見本なのか。解説によると、ヤングアダルトへの推薦本に与えられる全米図書館協会の賞を獲っているらしい。読んでいる途中で『魔の山』か『車輪の下』を読みたいと頭に浮かんだのもうなずける。

  • ストーリー的には可もなく不可もなく、ってところで
    こりゃスゲエ部分もなく、ただ淡々と語られる
    プロの金庫破りの生い立ちのお話。

    読み易くスラスラ読めて、後味は悪くないので
    読む本がないときには読んでもいい鴨。

  • 子供の頃に、ある事件に巻き込まれた主人公マイクルは、精神的ショックから口がきけなくなる。そんなマイクルには、特技があった。解錠だ。
    解錠師として犯罪組織から依頼された仕事をこなしていく日々と、子供の頃の事件後、叔父に引き取られ解錠の魅力に取りつかれるまでの日々を、マイクルが回想するという形で描かれていく。
    何と言ってもスリリングなのは、解錠の場面。ドアの解錠から始まり、解錠師となるまでの修業、そして金庫破り。鍵と指先の感覚との対決。
    そして、スリリングなだけではなく、アメリアとの出会いと愛を育んでいく物語が、切なく、歯がゆい。マイクルが解錠師となり犯罪に手を染めたのは、アメリアを守るため。
    ここまで人を愛せるだろうか?

    ★★★★★どころか、10個星をつけても良いくらい。

  • 話題だった本をかなり遅れて読んだ。

    意外と柔らかい内容だったので驚く。

    主人公と恋人との交換漫画のシーンが一番楽しかった。

    親友だというグリフィンの描写、非常に残念感。

    主人公を最初に窮地におとしいれたのも、グリフィンの不用意な言葉により、特技を披露するはめになったからだし、突然主人公の人生から姿を消すのも納得がいかない。

  • 久々にすっごくおもしろい小説を読んだ

  •  主人公は、十代の若者で、少年を思わせる素直な性格が好ましい。子供時代の犯罪の被害者故のトラウマを持つ。絵画と解錠に興味を持ち、独自に完成された域にたどり着く。物語は、時間を行きつ戻りつして、あたかも回転錠を開くことを求めるかのよう。いくら好ましい性格でも、たどり着いた結果は最悪なのだ。困難な物語の解錠の後、救いは描かれるが、納得できるだろうか迷うところです。

  • 思いがけずピュアな少年に出会ってしまった!
    なんだか拾い物をしたような気分だ!

    華麗なる錠前破り。
    静寂の中に鍵の合わさる音だけが聞こえる。
    愛を欲する人が人を愛するように。
    与えてほしい人が与えるように。
    彼は鍵を開ける。

    ミステリーというよりも、ミステリアスな青春小説だの。映画見ているみたいな感じで読んでもうた。
    やー、久々超おすすめ本だー。

  • 「解錠師」。アメリカで書かれた小説ですね。原題が "The Lock Artist" だそうなので、まあほぼ直訳そのまんまのタイトルですね。「鍵師」とかより、雰囲気あると思います。
    スティーブ・ハミルトンさんという、IBMの社員でもある方だそうですね。作者さんです。兼業なんですね。ネットの情報ですが。越前敏弥さん、という方が翻訳。
    この小説は2011年にアメリカ国内で色々賞を取っているそうなので、まあたぶんその年に出版されたんでしょうね。2年くらい前の小説、ということです。
    電子書籍、スマートフォンで読了。

    面白かったです。いやあ、よくできてるな、と。
    なんだか、ハリウッドの脚本家が作ったんじゃないかっていう感じの面白さ。娯楽性。
    なんだけど、ハヤカワ・ミステリですからね。その、なんていうか、多分ですけど、男性向けの面白さ。
    うーん、なんていうか、フィリップ・マーロウが好きな人は、多分みんな、この小説は嫌いじゃないでしょう。
    でもこの小説は美少年モノと考えれば女性読者にも魅力がある気がしますが。

    大まかなんなのかというと。
    天賦の才があってプロの金庫破り=解錠師として犯罪の世界で生きる、主人公マイクルの物語です。
    運びとしては。

    ①<18歳か19歳くらいのマイクル。身寄りのない孤独な若者。しかし凄腕の解錠師として、さまざまな犯罪者たちに雇われてはスリリングな犯罪に関わるという物語>

    ②<16歳から17歳くらいのマイクル。両親を亡くして伯父と暮らす暗い高校生。運命の恋人アメリアとの出会い。そして解錠師という才能の開花。アメリアを救う為に闇社会に落ちるまでの物語>

    という、二つの年代の主人公マイクルのお話が、交互に語られます。
    語り手は、マイクル。一人称。
    で、この主人公は。

    口が利けない。しゃべれない。

    んですね。
    別に生まれながらに機能的にダメ、という訳ではなくて。

    <子供の頃にマイクルに起こった、とある事件の後遺症?心因的に?とにかく、しゃべれない>

    のです。

    という訳で、上記の①と②が交互に語られます。そこで、
    <こーやって犯罪すんのか・・・上手くいくのか?> という興味と、
    <で、いったい何でこの子は解錠師になったの?> という興味が交互に満たされて行き。
    <で、いったい何が子供の頃にあって、しゃべれなくなったの?> という興味に収斂していく、という作りですね。

    こういう、時制のずらしでネタを隠していく、というのはもちろん作為的なことです。それに、語りが主人公の一人称な訳なんで。
    「もったいつけずにサッサと言えよ!」 と思うこともあるんですけどね。でも、面白いから、許せます。
    どうして、どこか面白かったかと言いますと。
    まあ基本は「過酷な運命の下で生きる主人公が、必死にしかし淡々と、純粋な恋愛のために、ほぼほぼ運命に翻弄されながらも、ささやかに戦い、とにかく耐えていく」
    という感じなんですが、その翻弄のされかたが、キチンとハードボイルド。甘くない。
    そして、ささやかに戦い、とにかく耐えていくさまは、とても痛くてグっときます。
    そして、高校生編で徐々に明らかになっていく、純愛物語が、犯罪者編の非情さの対称に、とってもなんていうか、リリカルで、僕は素敵だと思いました。
    そして、何よりも、主人公が解錠師としての技術を身につけていく成り行き。そして解錠するという技術に全てを託して、そこに賭ける静かな情熱。
    そのへんの感じが、とってもワクワクなんですね。冒険娯楽小説でもあるんですね。

    だからまあ・・・、系統としては。
    中村文則さんの「掏摸」。
    引いては、ブレッソンの映画「スリ」。
    そしてドストエフスキーの「罪と罰」。
    ・・・と、似てる部分が多いと思います。
    あとまあ、クリント・イーストウッドの映画「ミスティック・リバー」「グラン・トリノ」とかとも似てますね。肌触りっていうか。アメリカの田舎町の先細る辛さ。暗さ。暴力と非寛容の支配。すりつぶされていくような、ささやかな青春。

    でもまあ、最後はちょこっと希望があるんですけどね。この小説は。
    そのへん、挙げてみた諸作品への好みであるとか。そのへんの物語に出てくる女性像がなっとくいくのか。そういったところで好みが分かれるんでしょうね。
    僕は、かなり好きでした。
    もともとは、確か丸谷才一さんの「快楽としてのミステリー」という本で触れられていて、それで気になったのがきっかけだったはずです。
    丸谷さん、ありがとうございます。合掌。

    #######################以下、備忘録#####################
    時系列的に備忘録しておくと。

    A:マイクルが7歳だか9歳だかのとき。どうやらDV男だった父、と、母は別れ。母は工場で働き。上司と情事を重ね。そこに父が乱入、上司を殺害、母をレイプ&殺害。恐れた少年マイクルは金庫に自分を閉じ込める。父がトチ狂ってそれを川に。水が侵入。死にかけたところを救出され、地元マスコミで「奇跡の子」とか話題に。それをきっかけに口が利けなくなる。

    B:マイクルは伯父に引き取られる。近辺のやはり田舎町で酒屋を営む伯父。警察関係者や医療関係者のように、マイクルの心を開かせようと迫るのではなく、どこかニヒルで諦め気味で、ほっておいてくれる。絵を書くこと、そして簡単な錠前を開けることを趣味として、学校で鬱々と過ごす。

    C:高校生。美術の腕が認められる。美術クラスで初めて友人と呼べる1年上の男子との友情。

    D:解錠の腕を買われ。不良たちの無茶に巻き込まれ。とあるワケアリの経営者一家と関わることに。そこの娘アメリアとの出会い。ビビっと恋愛。

    E:アメリアも色々不幸なワケありで、共感していくふたり。両思いに。男女の仲に。

    F:ところがアメリアの父は。隠しているけど、ヤバイ大借金をしていて。犯罪者たちに首根っこを抑えられて、破滅寸前。主人公は解錠の腕を見込まれ、父に頼まれる。プロの犯罪者・解錠師になってくれ、と。そうじゃないと、借金が払えない。アメリアも不幸のどん底に落ちることになる。

    G:「ゴースト」と呼ばれる老解錠師の下での修行。アメリアにいろんなことが露見する。だがもう戻れない。彼女を救うためには戻れない。街を出る。別れて、犯罪社会の特殊アーティスト、解錠師になっていく。

    H:片時もアメリアのことは忘れられず、自分の人生の先行きには絶望しながらも。一個一個の依頼をこなしていく。あと一歩で捕まりそうになったり。儲かったり。だが、いずれ、ボスである犯罪者に逆らえない、ある種の奴隷技術者の身、なのである。

    I:ひょんなことで1年ぶりくらいで故郷の街に戻り、たまらずアメリアと会っちゃう。なじられる。しゃべれないきっかけになった事件のことなど話す。「なんとかカタギに戻りたい」と思う。辛い。

    J:ひょんなことでかかわってヤバイ線を踏んだ仕事で、自分のご主人であるボスが死ぬ。「自由になれる!」ところが仲間割れで危機一髪殺されかかるところを警察に助けられる。

    K:というわけで懲役中。10年から20年くらいの懲役、という判決で牢屋に入ったのが10年前。アメリアとは文通が続いている。希望はある。

    という流れのお話です。

    項目Aが読者に明かされるのは、ほんとに後半、項目Iのあたりでやっとです。
    ほかも、項目H、が詳細に語られながら、その合間合間に項目B~G、が、ざくざく挿入されていく感じです。
    そういうのが、意図的で作為的なんだけど、面白かったです。
    ##############################################################

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著者プロフィール

1961年、ミシガン州デトロイト生まれ。98年のデビュー作『氷の闇を越えて』は、アメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞、アメリカ私立探偵作家クラブ(PWA)賞の最優秀新人賞などを受賞。以後、『ウルフ・ムーンの夜』『狩りの風よ吹け』と、「探偵アレックス・マクナイト」シリーズを発表している。2009年の『解錠師』では、MWA賞最優秀長編賞、英国推理作家協会(CWA)賞スティール・ダガー賞、バリー賞、全米図書館協会のアレックス賞に輝いた。現在ニューヨーク州に在住。

「2016年 『ニック・メイソンの第二の人生』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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