わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 日系人のノーベル文学賞受賞者というだけで、ずっと気になっていた本。「提供」という奇妙な言葉から物語が始まり、徐々にその謎が溶けていく。人間、環境に慣れると周囲のことや常識に何も疑わず、みすみす時を過ごしてしまう。外の世界を知って、後の祭りとならないように、行動していきたい

  • 「提供」という言葉で、核心的な要素をかなり早い段階で読者に伝えているが、結局ストレートな答えは最後まで書かれず、その分説明過多にならないことで読者の妄想がふくらむ。特殊な人たちだが、描かれる友人、恋人などとの人間模様は普通の人のそれと変わらないように見える。それが最終盤、普通の人間のふるまいの底辺にあったのが「自分だけは普通への仲間入りが可能かもしれない」であり、悲しさが増幅される。

  • 謎(というかほぼ前提の設定に近い)は早々に明かされるが、文体の軽やかさと心情描写、対話描写の多さで最後までスラスラの読めてしまった。残酷な世界観の中で、ぶつかり合いながらも愛し合う3人が感動的で、涙が出そうな衝撃があった。また手に取りたい。
    あとがきも面白かった。柴田元幸氏の、遺伝子工学へのテクストにも、イギリスの90年台の理想主義の消滅を表す資料ともなるという話。
    訳者のあとがきはユーモラスだが、最後の疑問に関しては考えさせられる。僕は、(初回読了時には)使うと思った。

  • 作品主義的評価社会が著者の心から求めている社会の態度なんだろうなと感じる作品でした。
    ヘールシャム内のあの、「作品」で評価される環境こそ健康な評価構造。
    ただ、どれだけそれを理解した賢い人たちが「作品」を作って優秀な「個」となっても、ヘールシャムの生徒たちのように、通常社会に組み込まれると、「提供者」や「介護人」などの使命を果たすだけで、生涯を終えてしまう。
    キャシーとトミーがそこに反逆し、「提供の猶予」、いわゆる予定調和的結末を回避しようと行動したが、結局はそれが不可能であることがわかり、元々定められた結末の本流へ吸い戻されていく。
    ここで、反逆し続けないと「予定調和的本流」に引き寄せられてしまう。キャシーとトミーは、あとほんのちょっとで定められた運命から逃れることができたはず。
    ただ、この状況の明白化→そこから脱する希望→希望の消失→予定調和的結末の構成は、作品自体に退廃的・悲観的な雰囲気を纏わせる。
    この雰囲気は、大江の短編(死者の奢り・飼育・性的人間等)の雰囲気と似ているため、自分好みだった。
    作品主義的世界に意図的に没頭できるように頑張ります。

  • 先に映画を見ているので大筋は知ってた。映画はなかなか原作に忠実。映画のイイところのほとんどが原作そのまま。長編小説を100分でまとめたことによる映像での表現を文章で味わうのはやはり段違いにいい。読んでいてアトウッド「侍女の物語」を思い出した。どちらもSFディストピアのドラマなのに、現実世界を表現しているように感じられる。元首相が義務教育は小学生までで十分とか発言していたけど、一般市民は上を支えるために生きていればいいと、同じ人間とは思わない富裕層はリアルにあるわけで、ここまでわかりやすくはなくても弱肉強食の世界はリアルに存在しているから、ヘイルシャムの運動もしかり、様々な面がフィクションに思えない。 自分の運命を受け入れることや、運命を見ずに希望にすがることなど、人物たちの細かい行動や思考も身近に迫る生生しさがある。オチは知っているのに切なかった。淡々と冷静な語り口がゆえにむちゃくちゃ響いた。 序盤は冗長的だなと感じる部分はあったけど後半くらいからはノンストップで読み終えた。 知っててなお響くし面白い小説だった。

  • 淡々と、モノクロの施設生活を振り返っていくと、徐々に色を宿しながら時間が現在へと近づいていき、最後に大きな嵐がキャシーとトミー、読者を襲うような小説。

    「Never let me go」を聞いていると、母親の腕に抱かれているような温もりを感じて切なくなる。
    結果的にキャシーは提供者で終わるのだけど、彼女が辛い現実に向き合っていくだけの希望という名の思い出を持てたのかなと思う。
    ヘームシャルは彼女にとっての希望であると同時に、クローンを育てるという非人道的な行いの中での道徳的なものという一縷の希望であって、その儚さに悲しみを感じると共に美しささえ感じる。

  • 主人公のキャシーが語り手のような書き方をしていて、外界と隔てられた施設で育った少年と少女の生活を振り返る形で淡々と語られていた。
    この話で強く印象に残ったのは、出てくる登場人物たちが暮らしていた施設での残酷な真実を知り抵抗をしようとするが、それはわずかな猶予を得るという根本的な解決にはならないことであり、無意識のうちに抗えなくなっているという恐ろしさが存在していた。
    読んだ後に単純な満足感だけでなく何か心にのしかかるようなものを感じる作品だった。

  • とても残酷な、でもこの先の未来、本当になりそうなお話。
    確かにこちら側の私達は、いざ自分の身に何かあると、「世間はなんとかあなた方のことを考えまいとしました。どうしても考えざるをえないときは、自分たちとは違うのだと思い込もうとしました。完全な人間ではない、だから問題にしなくていい…」と考えてしまう。
    でも、キャシー達にもなんら変わらない、心がある。友情も恋愛も未来への希望も。
    提供者、悲しい響きのある言葉だけれど、いざ自分の身内がそれを必要としたならば…と考えると…。

  • 冒頭から女性の語りで展開されるのだけれど、どういう話か? ってのがなかなかつかめない。読み手にずっと不安感を抱かせるような書きぶりがうまいとは思う。ただ秘密の部分がわかってもすっきりした気分にはなれなかった。

  • や〜、名作だと思う。解説にあった「細部まで抑制が効いた(表現曖昧)」と言うのが言い得て妙。激しく残酷な運命なのに淡々と「使命を全うする」まで生きる彼らの描写が秀逸。静かに描かれているからこそ、際立つものがあった。この原作(翻訳版だけど)がもつ空気感や雰囲気は映像化は難しいと思う。ぜひ原作を!

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著者プロフィール

カズオ・イシグロ
1954年11月8日、長崎県長崎市生まれ。5歳のときに父の仕事の関係で日本を離れて帰化、現在は日系イギリス人としてロンドンに住む(日本語は聴き取ることはある程度可能だが、ほとんど話すことができない)。
ケント大学卒業後、イースト・アングリア大学大学院創作学科に進学。批評家・作家のマルカム・ブラッドリの指導を受ける。
1982年のデビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年『浮世の画家』でウィットブレッド賞、1989年『日の名残り』でブッカー賞を受賞し、これが代表作に挙げられる。映画化もされたもう一つの代表作、2005年『わたしを離さないで』は、Time誌において文学史上のオールタイムベスト100に選ばれ、日本では「キノベス!」1位を受賞。2015年発行の『忘れられた巨人』が最新作。
2017年、ノーベル文学賞を受賞。受賞理由は、「偉大な感情の力をもつ諸小説作において、世界と繋がっているわたしたちの感覚が幻想的なものでしかないという、その奥底を明らかにした」。

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