- Amazon.co.jp ・ゲーム (110ページ)
感想・レビュー・書評
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代表作「桜の下の満開の下」と同じく、坂口らしい「グロデスクなのに美しい」の真骨頂という感じの作品。
とある長者からの召集で、長者の一人娘「夜長姫」の護身仏づくりのために集められた奴隷にも等しい身分の仏師の一人で年若い「耳男」。
齢十三歳の夜長姫は絶世の美姫だったが、無邪気さと残忍さを併せ持つ彼女のせいで耳男は両耳を削ぎ落とされる悲劇に合う。
依頼された持仏完成の期限は姫が一六歳になる正月。
己の耳を奪った夜長姫への怨みと生来の反骨心から、耳男は姫が恐怖を抱くような仏像をつくってやろうと思い立つ。
彼は長者の敷地内の一角に粗末な小屋を建て、日夜手ずから腹を裂いた蛇の生き血を啜り、その余った血は姫に呪いをかけるように製作中の持仏にぶちまけ、その死骸は残らず天井に吊るしながら時を過ごす。
そして、護身仏披露によって、二人の縁は切れると思いきや、そんな安直な読者の読みはあっさりと裏切られて…。
仏を刻む最中、度々夜長姫の面影を瞼裏に浮かべ仄暗い復讐心を併せ持つ闘志を燃やす耳男の執念は、誰が観ても歪んだ恋。
そして、そんなことはつゆ知らず、耳男はじめ、周囲を振り回して無邪気に悪行を尽くしていた限りにみえていた夜長姫から発せられた、世の真理かもしれない最期の言葉。
グロが苦手な人間から見ても、意外と奥が深いつくりをしています。
いかにも日本美的な桜の散り際の狂気的な美を描いて共感の得やすい「桜の森の満開の下」よりは人を選ぶ癖の強い作品ですが、主要人物破滅型の作品に心惹かれる人は読んでもいいかもしれません。 -
当時にしてはエンターテインメントの色が強い作品ではないでしょうか。姫の底冷えするような末恐ろしい感じと、相反してこの世ならざる美しさが両方居座っており、読んでいる私自身も姫に圧倒されました。全体を通して読みやすかったです。また物語の重々しさやある種狂喜じみた展開も好みでした。結末もああこうなるのかと、いい意味ですんなりと落ちました。ただ、痛い話などが苦手な方にはおすすめしません。
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おそろしくも美しく。大量の汗をかきながら朦朧とした目眩の中見る夢幻のよう。「桜の森の満開の下」と同様、無音の中スローモーションで落ちていくような読後感がある。
「好きなものは呪うか殺すか争うかしなければならないのよ」というヒメの言葉はあらゆる創作に通じるようにも思える。 -
好きなものは咒うか殺すか争うかしなければならないのよ。
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桜の森の満開の下に続き。
すごく現代的な文を坂口安吾は書くんだなと思った。
このヒメを殺さなければ、チャチな人間世界はもたないのだとオレは思った。
サヨナラの挨拶をして、それから殺して下さるものよ。私もサヨナラの挨拶をして、胸を突き刺していただいたのに。
好きなものは呪うか殺すか争うかしなければならないのよ。お前のミロクがダメなのもそのせいだし、お前のバケモノがすばらしいのもそのためなのよ。いつも天井に蛇を吊るして、いま私を殺したように立派な仕事をして、、、、
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極彩色の悪夢のようです。耳男が坂口安吾で夜長姫がミューズでしょうか。とすると、姫の最期の言葉は芸術至上主義的なメッセージであり、彼は神に愛されているということでしょう。ならば、「姫を殺さなければ、チャチな人間世界はもたない」と考える理由がわかりません。読解力に乏しく、傑作とされる所以が知りたいと思いました。
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坂口安吾といえば「堕落論」くらいしか読んでいな買ったのだが、こういうすごい小説をものしている作家だったとは知らなかった。人間の持つ残酷さを具現化した夜長姫と、それを写し取ろうと四苦八苦する仏師耳男の物語。読むのに1時間もかからないくらいの中編だが、鬼気迫る緊迫感のせいで倍にも3倍にも感じる。
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サイコパスな姫を怖がりながらも従い続ける主人公、耳男の物語
NHKにほんごであそぼで少し紹介されているのを見て読んでみた。
どの場面でも次の展開が気になる面白い作品。でも、何だこれ?というところもあり星2。
好きなものは咒うか殺すか争うかしないといけない、という姫の最後のセリフ。それだけの熱量をもって執着しないと素晴らしいものは生み出せないということだろうか。