雪国(新潮文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 初読でした。
    率直に言えば難解で読みにくく、残念ながら私には魅力が伝わらない作品でした。
    島村と駒子、葉子の三者三様の生き方、苦しみが描かれています。島村の目線でストーリーが展開しており、そこでこの作者独特の手法ですが、当事者でありながら傍観者のような描写のため、それぞれの心情が分かりにくい。

    最後は唐突に終わりを迎えてしまうので、ストーリーというよりは自然描写の美しさ、雪国での人々の暮らしに思いを巡らせていました。

  • 川端康成代表作。
    そして、自分にとって初めての川端作品。
    先ず以って、川端の表現力に驚嘆する。
    独特でもある。
    「抒情的」と表現される所以を理解できる。
    日本語のもつ深みを最大限活かしている、といってもよい。
    こんな言葉で形容できるんだ、という驚きと、それを読んだ時には想像力を働かせて、映像としてそのイメージ化を試みる。
    そこが面白いところだし、多くの小説をこれまで読む中でも、このような感覚はいままでなかったような気がする。

    ちなみに、川端の小説を英訳しノーベール賞に導いた訳者も素晴らしいと思う。そのニュアンスを理解し、他言語で表現できたのだろうから。

    また、独特に感じるひとつの理由は、この小説には主人公がいない、という感覚からくる。
    島村は、駒子と葉子の映す鏡のようであり、存在感がない。生きている、という感じがない。

    そして、駒子と葉子の心の深層がベールに隠されたようにストーリーが進展し、読者の想像性をかき立てる。
    表面的には接点が薄い駒子と葉子が、どこかで深い絆で繋がっている感が、このストーリーの深みを持たせている。

  • 再読。
    日本で第一人目のノーベル文学賞受賞者の受賞理由となった本書。面白いと言う理由しか揃っていないといえるほど、輝かしい歴史を伴っている。
    しかしどうしたものか。
    読みにくいと言わざるをえない。そしてそれはおそらく現代の人の多くに言えるだろうと想像する。特に駒子という女の立場や仕事、話し方、物語が展開する場所はいまの日本ではほとんど見られなくなってしまっている。
     川端康成の小説によく言える(本人もときには言っている)ことだが、本書はどこで切ってもいいと思えるフラットな物語なのだ。それもフラットの中でもフラットである。何か物足りなさを感じるのは私の感受性のなさだろうか。
     ただこれだけ読みにくいと感じた作品でありながら、私のなかにはっきりと現れ出た寂しさと羨ましさはどこからきたのだろう。それは疑いなく、本書がもう日本のどんな場所にも残っていないであろうありし日の日本の風景を私に想像させたからに違いない。
    今の日本に「国境のトンネル」があるだろうか。
    鉄道の窓を下ろし、白い息を吐きながら「駅長さぁーん」と叫ぶ女性はいるだろうか。雪に覆われた山に佇む宿屋の畳の間に火鉢があって、そこで男と芸者がひとつの時間をつくることが日本のどこかにあるだろうか。
     日本はいっそう近代化し、川端が描いたような風景は失われ、また彼の小説からどうしても感じられる男尊女卑の構造はいまや大っぴらにはできなくなっている。社会の流れが、我々に彼の小説を読みにくくしているのことは間違いない。
    だとしてもこの小説が持つ"機能"は私たちにとって不変の価値を持ち、重要であり続け、それはときが経つほどに強まっていくことは疑いがない。

  • 知人と川端康成の話になったのをきっかけに再読。本屋で購入。
    初めて読んだのは確か高校生の頃。
    冒頭の超有名な書き出しだけしか覚えていなかったので、ほぼ初読。

    雪深い里の美しい描写には心洗われたものの、何しろ島村と駒子、葉子の人間関係によく馴染めない。特に女性の描写には何かねっとりとした作者の視線を感じないでもない。これなら谷崎潤一郎の耽美的な描写の方がまだすっきりとしていると思ってしまった。

    合う、合わないで言うと私には合わない小説だなと思った。

  • この小説は私にこのようなことを空想させた。
    島村にとって、トンネルを越えた向こうの世界は、異界、こちら側は浮世である。列車の窓に映る窓の向こう側の灯りと、こちら側の女、葉子の顔が重なって、それがまた、別の何かに見える。それは妖しく美しい。異界へは、気に入った女、駒子に会いに行く。島村は駒子からは好かれ、島村も駒子を好いている。駒子は、その気分で、島村の所にやってきて、気 ままに過ごし、帰っていく。そのことや、駒子の気遣いは、島村にとってとても心地よい。この異界は島村にとってのおとぎの国、浮世から逃避する空想が作り出した島村の頭の中 にだけにしかない世界ではないのか。駒子は葉子がやがて気が違うという。繭蔵の火事でそこにいた葉子は気を失って蔵から落ちる。駒子は葉子を抱き上げ、また、葉子が気が違うと言う。繭蔵にいた葉子は蚕に重なる。そして、気が違うとは、成虫になること、つまり、島村と好き好かれの仲になることではないか。とすると、駒子は既に、気が違っていることになる。島村のおとぎの国は、一段階エスカレートして、続いていくことになる。

  • わかりやすい話ではないです。
    雪や縮などの描写はとても繊細で、どのページから読み直しても引き込まれるような文章です。

    ー国境の長いトンネルを抜けると、そこは北国であったー

    有名な出だしですが、主人公島村にとっては北国は旅先であって、帰るところではありません。
    美しい北国は、あくまでトンネルの向こう側であり、こちら側ではないのです。
    作品の中では、島村に惚れてしまった駒子の悲しいまでに美しい様を描いています。
    駒子は、無邪気なように、またとても愛らしい女性のように描かれています。1日に何度も島村の部屋を訪れ、帰るといいつつなかなか帰らなかったり、島村の乗る車に飛び乗ってきたり。駒子のひたむきな、素朴な愛は朴訥な絵画のように描かれています。
    ただ、彼女の愛は結実することはなく…
    終盤の火事、二人を濾過するような天の川の情景は、なにを暗示しているのでしょうね。

    ーその火の子は天の河の中に広がり散って、島村はまた天の河へ掬い上げられてゆくようだったー

  • 文章が美しいだけの、風景画のような作品だと感じた。

  • 日本文化や雪深い田舎の描写は美しいなと思ったけれども、少なくとも今の私には良さがよくわからなかった。
    島村は駒子や葉子を芸術作品のように鑑賞していて、あまり好きになれない。
    彼は、駒子らに代表されるトンネルの向こう側の世界に生きる人を、いわば物語の登場人物かのように見ていて、味わって消費することはしても、自分と同列には見ていない。その目線に都会の教養人のナルシシズムを感じてしまうのは、穿った見方をしすぎだろうか…。外国人ウケしそうだな、とは思う。

    冷たく澄んだ空気感と重なるからか、葉子の声の美しさ、眼差しの鋭さは印象的だった。なんとなく『DESIRE』の和服衣装を着た中森明菜をイメージしながら読んだ。
    あまり語られなかったけれど、葉子は結局何を考えていたのだろう?
    なんでもかんでも明らかにせず想像の余地を残しておく、そんな奥ゆかしさも含めて、古き良き日本的な美を描いたということなんだろうか…。

  • 駒子の気持ちが分かるような気がする。
    まあ恋愛なんて碌にしたことない人間だけど。
    別れるのがつらい、いつ会えるかも分からない、しかも昔ならラインなんかないし、もちろん電話すらもない。
    手紙さえ寄越してくれずに気が向いた時だけふらっとくる人。
    駒子の情緒不安定、わかるよ。そりゃそうなる。
    それがつらいから私も彼氏なんかいらないって思った。

    葉子に関しては正直羨ましい反面苦手な女って感じかな。たぶん駒子もそう思ってたんじゃないかな。
    いるよね。どんなに憎くても嫌いでも、助けてあげたいって気持ちにさせる子。
    そこまでひたむきに恋できる葉子がうらやましい。
    純粋というか。
    駒子が息子さんのことを好きだったか分かんないけど、ああこの子には勝てないんだって思ってしまう、そういうある意味狂ってしまうほどのひたむきさが葉子にはある。
    自分と同じ辛い目にはあってほしくない、でも憎い、うらやましい。
    色んな感情がごちゃまぜになって、葉子と接するのがつらい。
    まして主人公が葉子に気があるそぶりなんかしたらね。

    駒子の揺れる気持ち、すごい分かるんだけど、ネットの解説?感想?みたいの漁ってたら、駒子は訳分からん、葉子は分かりやすいみたいなの書いてあって、はあ?

    なんでわからんねん!
    男の人が書いたレビューみたいだから、やっぱわかんないのかなあその辺の機微が。

    作品としては全体的に読みやすい文章で、景色とか状況が想像しやすかった。なるほど名作なわけだ。
    一気読みした。

  • 初めて川端作品を読みました。お風呂に持ち込んだ時に表紙がお湯浸しになって新品の本が一気に老けましたが笑

    なんかもう、さすが新感覚派というか。
    電車にうつる女性と外の景色(山々)の映像的融合から見い出す美について考えるだけでご飯三杯行けます!(by川端)てくらい詳細で繊細で文学的で奥ゆかしくて綺麗でそれでいてどこか冷めている、(と私は感じたのですが)とにかく全体的に、研ぎ澄まされた第三者的な視点を感じました

    駒子という芸者の気持ちが分かる気がして切なくなる!情熱的なのにそれを隠そうとしているのが逆に味わい深かった

    終わり方、何を期待していたわけでもないけれど、突然終わってしまったような…。ストーリーよりも表現を楽しませてもらいました

    一番好きなのは最後の方の天の川の描写が畳み掛けるように続くところ。わからないけれど、別れの暗示が読み取れる気がして、美!

    こういう感覚に特化した作品って、そうそう現代にはないよな~。少なくとも私はこんな本初めて読んだので…・ω・
    そして真似出来そうにない種類の書き方だと思う雪

    一年前に手に入れたのに本棚でおほとのごもり中の伊豆の踊り子も、いずれ読もう。

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著者プロフィール

一八九九(明治三十二)年、大阪生まれ。幼くして父母を失い、十五歳で祖父も失って孤児となり、叔父に引き取られる。東京帝国大学国文学科卒業。東大在学中に同人誌「新思潮」の第六次を発刊し、菊池寛らの好評を得て文壇に登場する。一九二六(大正十五・昭和元)年に発表した『伊豆の踊子』以来、昭和文壇の第一人者として『雪国』『千羽鶴』『山の音』『眠れる美女』などを発表。六八(昭和四十三)年、日本人初のノーベル文学賞を受賞。七二(昭和四十七)年四月、自殺。

「2022年 『川端康成異相短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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