蜜蜂と遠雷 (幻冬舎単行本) [Kindle]

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  • 幻冬舎
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感想・レビュー・書評

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  • 発売当初からずっと気になっていたのだが、やっと読めた。登場人物すべてに好感が持てて、読んでいる間中、うっすらと多幸感のようなものがあり、なんとなく機嫌がよかった気がする。思えばこの物語の雰囲気は表紙の色合いに似ているかも知れない。
    ピアノのコンクールという緊張感溢れる場が舞台だが、主役の3人が妙にのんびりしているというか、安定しているので、穏やかな気分で読めた。(もちろん、はらはらするシーンもある。時に三次予選の結果発表は緊張した。)加えてコンクールの結果発表は物語の最後にあり、当然読んでいる最中はその開催期間中にあたるのだが、もうそれが過去のものであり、それぞれのコンテスタントの未来が既に始まっているという印象を受ける。クライマックスに向けて盛り上がって行くというよりは、静かな高揚感を伴って始まりに臨む感じで、ドラマティックさよりも、ある種の気品を感じさせる。
    演奏シーンも素晴らしく、彼らの演奏が実際に聞こえるわけはないはずなのに、そこで聴衆が受けたのと同じ感動を得た気がする。本当に聴いているかのようにわくわくし、圧倒され、何より「もう一度聴きたい」と思わされた。今年が始まってまだあまり経っていないが、個人的に今年の5冊に入る予感がする。

  •  直木賞受賞作ということで読んでみた。ピアノコンクールに集うコンテスタント(コンクールの参加者のことをこういうことをこの小説で知った)たちの演奏に向けての心理の動きをテーマとした小説である。個々のコンテスタントの視点に同化しながら、コンクールをめぐる人間模様を描き出してく。人物ごとの音楽への思いや、おかれた境遇の違いなどを描き出しているのがこの小説の面白さだ。
     この手のモチーフの小説は、たいてい登場人物の数奇な人生や、得意な生活環境や、家族との葛藤など音楽以外の面に話が展開してしまうのが多いが、この作品はあくまでコンクールを主体にしたストーリー展開になっているのがよい。だから小説の舞台の大半は、ホールのステージ、舞台袖、客席などであり脇道にそれることは少ない。
     このような展開は小説としてとても難しい。なぜなら、小説には音はなくどんなに素晴らしい演奏が行われている描写を描いても文字としてしか再現できないからだ。そして、演奏のすばらしさはそれがオリジナルなものであればあるほど言葉にはならない。言葉にできない感動を受けたときの驚きと、それを言語化するまでの戸惑いが芸術的な感動なのだと思う。それを作品の中心に据えたのがこの小説である。
     もちろんエンターテインメントとしての筋運びが小説の趣旨であることには間違いない。養蜂業の息子でありながら天才的な能力を持つピアニストや、一度はその道を捨てながら復帰したもの、幼いころの約束を実現するために演奏家となったコンテスタントなど、人物設定にすでに仕掛けが見られる。だが、それがわざとらしくならないのはコンテストの描写をあくまで中心に置いたからだろう。
     ただ、やはり演奏そのものの描写はややあっさりしているといえる。天才的な演奏を描こうとすれば言葉が足りなくなるのは当然なことだ。でも演奏そのものの描写については多少物足りなさを感じたのも確かだ。
     音楽を扱った小説は多いが、演奏そのものを描写しようとしたことはこの作品の功績であり、今後ももっと表れてほしいジャンルである。

  • ありがちな天才ものストーリーかと思いきや,栄伝亜夜に激しく共感してしまって,途中何か訳も分からず涙が溢れてきてしまった。こんなことは初めて。音楽の描写がまた圧巻。言葉でこんな風に表現出来るのか,と脱帽。自分には絶対表現出来ないし,そもそもそんな風に感じることさえ出来ないだろう。(若干「神の雫」っぽい感じもするけど。) とにかく,久し振りに感動させてもらった。素晴らしい。

  • 2017/2/8

  • すごすぎて、レビューが書けない。けど書いてみる。音楽の表現の場面では、鳥肌立ちっぱなし。同じ曲を演奏する場面が結構出てくるのに、その表現に飽きたり、既視感があったりする、ということがなかった。著者の力なんだろうな。個人的には元天才ピアニストの彼女が、だんだん過去の自分を乗り越えていく過程が好きだった。風間塵が弾く場面は、自分も会場で聞いているかのようにわくわくした。最終審査のオケとの演奏なんて、もう私は会場にいました(笑)。読み終わるのがもったいなかった。
    直木賞、おめでとうございます。

  • とても良かった。妻と娘に読んでほしい作品かな。

  • 読後、優しく温かい感動に包まれる一冊。主人公それぞれの成長や音楽の表現力の素晴らしさ、そしてさり気ないけど、とても粋なラスト…流石です。

  • 直木賞候補作。ピアノコンクールが舞台の音楽小説。長編だが読み応えあり、一気に読ませる。音楽を言葉にしているのに、予選から本選まで聴いたような読後感。明石が演奏するシーンでは一緒に緊張しそして演奏後は感動で泣いてしまった。彼の音楽、聴いてみたい。

  • エンタメ作品が必ずしもミステリー仕立てである必要はないと思うけれど、本作については登場人物に関する何らかの謎がからみ、それが解き明かされるという要素があったほうがより面白かったと思う。勿論、誰がコンクールで勝つのか、という意味ではミステリー仕立てではあるのだけれど、さすがに音楽が思い浮かばない読者にはつらいものがある。

  • 若き天才ピアニストたちの
    コンクールを通じた群像劇。

    登場人物同士が感化しあって
    展開が白熱していくのが少年漫画っぽい。

    演奏から視えてくる情景や物語、
    果ては未来視(!)まで、
    トランス状態っぽい描写に対して
    これまでの作品で培ってきた上手さを感じる。
    (これまではガチのトリップ状態を
     描いた作品が多かったから…。)

    ミステリじゃないからなのか恩田陸なのにラストが発散してない!感動!
    コンクールという形式をとっているから、
    始めの時点で結末のタイミングが明確なのが
    比較的綺麗に締まった理由かもしれない。

    直木賞候補作。

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著者プロフィール

1964年宮城県生まれ。92年『六番目の小夜子』で、「日本ファンタジーノベル大賞」の最終候補作となり、デビュー。2005年『夜のピクニック』で「吉川英治文学新人賞」および「本屋大賞」、06年『ユージニア』で「日本推理作家協会賞」、07年『中庭の出来事』で「山本周五郎賞」、17年『蜜蜂と遠雷』で「直木賞」「本屋大賞」を受賞する。その他著書に、『ブラック・ベルベット』『なんとかしなくちゃ。青雲編』『鈍色幻視行』等がある。

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