砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 面白かった!
    違った角度から世界史を読みたいと思っていた時に出会った本。
    「岩波ジュニア新書」とは言うものの内容はかなり深く、ジュニア世代でこれを読んでもなかなか全てを理解するのは難しいだろうな、とは思う。

    自分もグーグルアースでマルティニクやハイチ、バルバドス等のカリブ海の島の位置や現在の街の様子を検索して、当時のイギリスとアフリカとカリブ海の三国貿易を想像しながら読んだ。

    砂糖が発明されてから現代に至るまでの歴史的変遷を辿るこの本は、大航海時代から近代革命を中心に広く世界史を紐解いてくれる。

    高級品、ステータスシンボルとして扱われた砂糖。
    それを利用して世界の頂点に上り詰めたイギリス。
    それを支えるために蔓延る奴隷制度。
    砂糖きびのプランテーションとして利用されたカリブ海の島々の行き着く先。

    砂糖から派生してカフェ文化、紅茶やお茶、チョコレートの変遷も詳しく書かれていて一層面白い。

    文化とは上流階級の人たちが好んだ嗜好品や娯楽だけでなく、一般庶民の人たちのそれらも注目することでより厚みが増すことが分かった。

  • 中学生か高校生のときに大人からすすめられ、アラフォーに突入した時分にようやく読了しました。
    言わずもがなの名著だけど、学生時代の自分がこの本を読んでその良さを理解出来たかどうかは自信がないです。

  • なかなか面白かったです。岩波ジュニア新書のシリーズは、難しいことを優しく解説してくれるので、時々読んでます。「空気を読んでも従わない」等など。

  • 最近ではダイエット者に敵視されることもあるが、それだけに誰もが好んで食する商品であることの証拠である「砂糖」。人類は砂糖を発見してから、どんな時代でも砂糖を求め、作り、味わい続けている。

    砂糖への欲望が人類を動かして作られた人類史を、コンパクトかつ学生向けにまとめたのが本書。

    一番の出来事とすれば、砂糖の大量生産のため、中世ヨーロッパ人が大西洋へ進出し、アメリカ大陸付近の島々を次々と植民地化したことだろう。そこの土地は砂糖を作ることだけに特化し、その労働力はアフリカ連れてこられた黒人奴隷。その結果、現在では、これらの島々の多くはアフリカ黒人が多くを占め、限られた農作物しか作れなくなった。

    人類が砂糖によって翻弄され、現在でも続く人種差別と地域格差を作ってしまったというバッドエンドな一例。しかし、人間の欲とそれに伴う行動力の象徴という意味では、これぞ歴史のダイナミズムであり、人間だけが歴史を作ることができた理由の一つだろう。

  • 読むのは3回目。やっぱりおもしろい。
    世界全体を一つの社会システムととらえる「世界システム論」の提唱者のイマニエル・ウォラーステインの訳書を何冊か出している。
    彼の世界観に沿って、「世界商品」となった砂糖を取り巻く歴史、文化、経済が、わかりやすく書かれている。
    これ見ると、ヨーロッパ史をもう一回勉強したくなるな。ほんとに面白い

  • 「砂糖の世界史」。岩波ジュニア新書。川北稔さん。

    衝撃的に面白かった!。



    砂糖というのは、例外はあるけれど、つまり「サトウキビ」を栽培しないと作れない。
    そして、「サトウキビ」というのは、熱帯ぢゃないと育たない。

    そして、その「砂糖」というものは、人類が発見してすぐに、トリコになってしまった。
    だけれども、大量に安定して作るのが難しい。



    そこで、大航海時代から、アメリカ大陸発見...という、「スペイン、ポルトガルの時代」から、産業革命以降の「イギリスの時代」にかけて。

    簡単に言うと、

    ●権力、武力、殺戮力に優れた欧州各国政府が、カリブ海あたりを「こりゃ、砂糖作れるんちゃうか」と目をつけて。

    ●とにかく勝手に上陸して、殺戮して、征服して。

    ●そこにアフリカから奴隷をばんばん運び込んで。

    ●もともとそこに自然植物として存在しなかったサトウキビを持ち込んで。

    ●殺戮とムチ、脅迫と暴力で、巨大プランテーションを作った。

    ●とにかく、砂糖を作ってヨーロッパに持ち込めば、うはうは状態に売れる。儲かる。

    ●そのため、プランテーション地域では、もう、とにかくあらゆる労働力をプランテーションに注ぎこみたい。

    ●そのため、サトウキビ・プランテーション以外に産業なんか要らない。

    ●そのため、農業工業全ては輸入に頼るようにして、住民奴隷たちはひたすらサトウキビ・プランテーションで酷使。

    ●サトウキビは、実は農地を徐々に荒廃させていく性質を持っている(最近は改善されているのでしょうが)。そのために、農業国家に戻れないくらい土地は荒廃していく。

    ●そして、何百年も強制的にそういう暮らしをさせられているから、他の産業は育たない。輸入依存になる。

    ●奴隷と帝国主義の時代が終わっても、経済は受け継がれていくから、そういう地域は「発展途上国」になり、貧しい国になる。

    ●そして、事情と歴史を知らない人たちから「国民性の問題」「民族性として怠け者」などと、ひどい中傷を言われる。もともと、そう言っている人たちの先祖が、虐殺して支配したからそうなっただけなのに。



    という、お話なんですね。

    砂糖、というのは、強烈にすごい産物だったんだなあ、と思いました。
    砂糖という魅力から、紅茶という話に発展したりします。
    今でいうと、車やパソコン、スマホがそうですが、砂糖や木綿というのは物凄く初期段階の、「世界中どこの国でも、かならず需要があって、売れる商品」だったんですね。



    ヨーロッパから、貴金属や銃器などをアフリカに輸出する。
    アフリカではその代りに、奴隷を仕入れる。それをアメリカ大陸・カリブ海に運ぶ。
    アメリカ・カリブで奴隷を売って、そこで、砂糖を仕入れる。ヨーロッパに運ぶ。
    ヨーロッパで砂糖が売れて、そこでまた貴金属や銃器を仕入れてアフリカへ...

    という、「大陸間三角貿易」の話などは、すごく面白かったです。



    判っては居たわけですが、中世から近代にかけて、欧州民族政府がアフリカ・アジア・アメリカ大陸に対して行ってきたことっていうのは、
    21世紀現在のモラルで言うと、悪魔・残虐・非道・そのほかどんな言葉を使っても表現できないほどひどいですね。
    それに比べると、現在、非難されている「悪魔的国家」「悪い国」なんていうのは、かわいいものです。
    (まあ、そういう歴史の物語にこそ、現在から未来にかけての不満やテロの原因があることを、せめて頭では理解したいものです)



    「面白い世界史の本を紹介します」みたいなコラムで、いつも紹介されていた本だったので、あまり期待もせずに読んでみたのですが、目からうろこのオモシロサ。
    それも、「岩波ジュニア新書」だから、簡潔で、優しい語り口。

    (しかし、これを読んで「ジュニア向きだなあ。こんなこと当たり前だから、もっと詳しく書いてくれないと不満だ」という人は、世界史研究者以外にいるんだろうか。)



    そして、全体的な風景として思ってしまったのは、

    「日本本土と、沖縄の関係に似ているなあ」

    ということでした。

    日本本土の人の多くは、どれだけ日本本土の犠牲に沖縄がいたぶられて、戦後復興も産業振興も取り上げられて来たのか、ということを知らずに沖縄人が怠慢である、というようなことを言います。
    (の、ような気が、僕はします)

    それは一方で、15年戦争後の経済復興が、日本民族の民族性素晴らしさによってのみ達成した偉業である、という、とんでもなく傲慢で単純に事実関係として間違った解釈を信じている精神と、常に裏表になっていることが多い気がします。

    この本のような、歴史の物語を読むことが。そういう恥ずかしいこと極まりない誤謬の芽を若い世代から摘んでくれることを、祈りたい気分です。

  • イギリス人って、労働者階級まで紅茶に砂糖たっぷりでいいご身分ねっ!ってずっと思ってた。
    実態はぜんぜん違った。働かせるための餌(文字どおりの食料としての餌)だった。
    同国人にも容赦のないエゲレス。
    奴隷云々もドン引きだけど、個人的にはこの産業革命のエピソードのほうが「エェ……」ってなった。

  • 世界食品の砂糖。紅茶のイギリスにおける庶民への浸透により、消費量が増加。
    多くの奴隷を必要とするプランテーションが植民地に作られることになった。
    それにより、奴隷がカリブ海やブラジルへ運ばれ、奴隷が廃止されると、中国や日本から移民がハワイや南米にサトウキビ畑の農夫として次々と移住した。
    サピエンス全史風に表現すると、甘い蜜を持つ植物が人間を使って世界中に広がり、人間を移動させたのだ。

  • 砂糖からはじまったプランテーション社会、プランテーション社会のための奴隷売買と三角貿易、三角貿易によるイギリスの繁栄と、繁栄によって成し遂げられた産業革命。

    砂糖への欲望によって変化した人々の社会と、変化に伴い変わる砂糖の意味。
    そして、砂糖に続くお茶とコーヒーとチョコレートの話。

    ほんの半世紀ほど前までは、砂糖の消費量で文化の水準が分かると言われていた。
    世界商品である砂糖の消費量こそが、国の豊かさの指針だったのだ。

    世界商品とは、世界中で必要とされる商品のこと。
    たとえば、毛織物は寒いヨーロッパでしか通用しない。しかし綿織物は暑い地域から寒い地域まで世界中で必要とされる。だから毛織物は世界商品とは言えないが、綿織物は世界商品と言える。

    砂糖はもっとも初期の世界商品だった。かつては砂糖の流通を握る者が世界を握った。人類の汚点である奴隷貿易も砂糖のためにはじまった。

    イスラム社会で、砂糖は最もよく使われた医薬品だった。イスラムに学んでいたヨーロッパでも砂糖の薬効が期待された時期は長かった。
    また、砂糖の純白さへの特別視、神聖視も根強かった。

    17世紀以降は、砂糖は一般の食品としてカロリー源となった。

    砂糖が登場する前、甘味は地方により様々だった。地域により様々な、どの甘味よりもサトウキビやサトウダイコンから作られる砂糖は甘く、大量生産も容易だった。

    サトウキビの原産地はインドネシアだったと言われている。
    日本では江戸時代に薩摩藩が生産を推進していた。

    アレクサンドロス大王の時代に兵士たちがサトウキビを発見したと伝えられている。
    しかし、砂糖が広く伝播したのはイスラム教徒によってだった。イスラム教徒は、8世紀まで砂糖の生産、流通を握った。

    11世紀から13世紀の十字軍の時代に、ヨーロッパは砂糖に気付いた。十字軍は蛮行であったと同時に、イスラム世界との交易、交流の基礎作りにもなった。十字軍が無く、ヨーロッパがイスラムと出会わなかったなら、ルネサンスもなかったと言われている。

    16〜17世紀、カリブ海のジャマイカはスペイン人によって壊滅状態に追いやられていた。
    当時は世界的に海賊の世で、バッカニアと呼ばれたカリブ海の海賊はジャマイカを隠れ家としていた。

    コロンブスがジャマイカにやってくる前に存在していた先住民は滅ぼされ、共同体は破壊しつくされていた。
    ところがこのジャマイカがサトウキビ栽培に適していることがわかり、サトウキビを作る体制がジャマイカに敷かれた。砂糖革命だ。

    少数の白人がアフリカからさらってきた多くの黒人奴隷を支配する、サトウキビを作るためだけに存在するプランテーション社会では、現地の食料さえ輸入頼りで、ひたすらサトウキビを作る。こうした単一栽培をモノカルチャーと言う。

    アフリカ人奴隷たちは家族から切り離され、プランテーションでも「あたりまえの家族」は持てなかった。それでも現在に繋がるアフロカリビアンの文化やブードゥー教などを作り上げた。アフリカ人奴隷たちはキリスト教に改宗させられたが、もともと持っていたアフリカの信仰と混ざりあってブードゥー教となった。

    ハイチもそうしたプランテーション社会の一つだったが、一番最初に黒人の国として独立した。
    しかし独立後は白人にとって危険だと思われたため、プランテーションが消滅し、独立前より貧困にあえぐことになった。

    プランテーション社会ではその土地の未来のための投資という発想はない。そのため砂糖革命の起きた国々は、現在も発展途上国として貧しい暮らしを余儀なくされている。

    生産するものはそれぞれでも、プランテーションには共通するキーワードがある。
    「大量の」
    「安い」
    「しばしば奴隷労働を伴う」
    「世界商品」

    アフリカ人奴隷にとって最も過酷だったのは、さらわれて船に繋がれてからの船旅だった。満足な飲み水も食べ物も無く、あらゆるものを奪われたアフリカ人たちは、この最初の船旅で命を落とす人も多かった。

    奴隷貿易を含む三角貿易によって、アフリカ、アメリカ、イギリスがはじめて結びついた。
    イギリスの産業革命すら奴隷貿易による富のおかげという説もある。

    イギリスに富をもたらした三角貿易は、アフリカの発展する力を大きく削いだ。
    現在もアフリカが発展途上国である理由は、この三角貿易にある。

    砂糖ははじめ、食品ではなく薬品だと考えられていた。
    砂糖が貴重品だったころは、万能薬であり富の象徴であり、その白さから神秘さを示すものだった。

    「砂糖を切らした薬屋のような」という言い回しは「絶望的な」という意味だ。こんな言い回しが生まれるほど、砂糖はなくてはならない薬品だった。
    慢性的な栄養不足のために短命だった昔の人々にとっては、手っ取り早くカロリーとエネルギーを得られる砂糖は薬効があると感じられたのかもしれない。
    18世紀以降、糖尿病の発見によって薬品としての砂糖に疑問を持たれるようになるまでは、砂糖はトマス・アクィナスのお墨付きである重要な薬品だった。

    砂糖によるデコレーションはイスラム由来の文化で、もともとは神への捧げものだった。
    その文化の名残は日本にもウェディングケーキの飾りとして伝わっていると言われている。

    三角貿易のために生産される砂糖、コーヒー、タバコはステータスシンボルでもあり、その全てが消費されるコーヒーハウスは一時期イギリスの政治が動く場となった。

    やがてコーヒーは紅茶に置き換わり、紅茶と砂糖。ふたつのステータスシンボルを組み合わせた砂糖入りの紅茶は、非の打ちどころのないステータスシンボルであり、上流、上品さを示すものとなった。
    砂糖のプランテーションで富を得た商人たちは、派手な消費生活を競争しあうようになった。

    お茶と砂糖への欲望から近代の世界システムは生まれた。お茶と砂糖のために世界はひとつに繋がり、この近代世界システムに最初に君臨したのはイギリスだった。

  • 義務教育で習うような歴史とは違った角度から歴史を知れる本。

    自分にとっては知らないことがたくさん書かれていて学びになった。砂糖というモノを中心に世界各地の時代時代を追っており、なんだか臨場感があっておもしろかった。

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著者プロフィール

1940年大阪市生まれ。京都大学文学部卒業、京都大学大学院文学研究科博士課程中退。大阪大学大学院文学研究科教授、名古屋外国語大学教授、京都産業大学教授、佛教大学教授などを経て、現在、大阪大学名誉教授。著書に『工業化の歴史的前提』(岩波書店)、『洒落者たちのイギリス史』(平凡社)、『民衆の大英帝国』(岩波書店)、『砂糖の世界史』(岩波書店)、『世界の歴史25 アジアと欧米世界』(共著、中央公論新社)、『イギリス近代史講義』(講談社)、訳書にウォーラーステイン著『史的システムとしての資本主義』(岩波書店)、コリー著『イギリス国民の誕生』(監訳、名古屋大学出版会)、イングリッシュ/ケニー著『経済衰退の歴史学』(ミネルヴァ書房)、ポメランツ著『大分岐』(監訳、名古屋大学出版会)他多数。

「2013年 『近代世界システムIV』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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