あの本は読まれているか [Kindle]

  • 東京創元社
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感想・レビュー・書評

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  • 女性たちのスパイもの、本を媒介する、ってくらいしか内容を知らなくて、でもおもしろそう!とは思っていて、しかもなんだか前評判がすごくよかったので、すごく期待して読んだら、おもしろかったけど少々期待しすぎたような気も。。。

    反体制とみなされた「ドクトル・ジバゴ」はソ連で出版されず、それをアメリカのCIAがこっそりイタリアで出版して、それをソ連国民に渡してソ連の現状を知らせた、っていうのは知らなかった! だからまずその事実にもとづいた話が興味深かった。
    もっとサスペンスフルなスパイものを期待していたんだけど、本の受け渡しみたいな、映画だと盛り上がりそうなところもわりに地味だった感じが。。。全体的にスパイ話より、「ドクトル・ジバゴ」作者ボリスとその愛人の話がメインな感じで。わたしは「ドクトル・ジバゴ」読んだことあるかないか忘れてるくらいなので、思い入れがないからあんまり感動とかしなかったのかも。。。

    CIAでタイピストとして働く女性たちの話がいちばんおもしろかった。そのなかでスパイになる女性もいて、そのあたりもおもしろかったけど、スパイ話っていうより、途中から「キャロル」みたいなロマンスになって、いまひとつノレなかったような。単純に、わたしはもっとスパイスパイした話が読みたかったのだ。。。。読みながら、やっぱりドラマ「The Americans」はおもしろかったなあーーとか、またル・カレ読もうかな、とか考えていた。。。

    あと、結局、「ドクトル・ジバゴ」をCIAがこっそり出版したのも、文学で世界を変える!みたいな高い志とか情熱があったっていうより、結局はCIAの力の宣伝?、みたいにもちょっと思えたりもして。。。わたしの読み方がおかしいのかもしれないけど。。。

    ちょっと考えたのは、ソ連国民は、体制批判している自国の小説を外国から回してもらって読まないと自分の国の現状がわからない、っていうのは怖い、ということ。言論統制されたらそうされてるのもわからないってことか。。。日本もそうならないとは言えないし。。。

  • 先日、とある読書イベントに関わる機会があり、えいやとばかりに手に取った。

    ボリス・パステルナーク『ドクトル・ジバゴ』出版をめぐる旧東側・西側の攻防(実話)を題材に、ソ連のパステルナーク側、アメリカのCIA側の動き、それを担ったとされる女性たちを描いた歴史ミステリー、あるいはサスペンス。

    アメリカ側の舞台となるのは、CIAのタイピング担当部署。当時タイピストは女性の技術職であるが、CIAという職場であってもあくまでも「プロフェッショナル男性の事務補助をする、その他大勢の女の子」なので、名前のある人間とは扱われない。いっぽうで、タイピストの身分を隠れ蓑にして特殊な任務を任せるには、その名前のなさが功を奏する場合もある。他のタイピストたちとそういう情報が積極的に共有されているわけではなく、タイプを依頼された書類に名前が出てくることで「どうもそうらしい」とうっすら気づく。でもことさらお茶のネタにはしない。事務職としての名前のなさと、隠密としての名前のなさのバランスが、「まあそんなもんだろう」とも思いつつ、不安定で不気味に思えるところが面白い。このあたりの主語が曖昧な形でコントロールされていることについても、訳者さんから伺ったお話が興味深かった。

    イベントの企画段階か何か(失念)でちらっと聞いたところによれば、著者はもともとロマンス小説志向だったところに、ミステリーを加味した作品として本作を書いたそうで、なるほど、物語の枠組みと、男女のやりとり(特にパステルナーク側)の細部がロマンス小説そのもの。小さな匂わせ要素をばらまいたり、積み重ねたり、ほころびを見せたりして緊張感を高め、最後に一気にまとめ上げる、一般的な推理小説とは異なるスイートな感じもあるので、お好きなかたとそうでない方はすぱっと分かれると思う。私もハイスミス『キャロル』に似ているな、と思いながら読み進めた。

    旧西側への文化流出やそこからの文化流入についてどれだけ旧東側がピリピリしていたかということについては、リアルタイムで知っている人間はどんどん減っているが、その緊張感と、国際社会で有利に立つために文化を利用する戦略の一端を読める、とても面白い作品だった。『ドクトル・ジバゴ』の翻訳については日本でもすったもんだがあったので、そちらも読むとさらに面白いかと。

  • 米ソ冷戦時代の最中、言論統制や検閲で弾圧するソ連邦の実態を世界に知らしめ、政治批判の芽を植えつけようとしたCIAによる “ドクトル・ジバゴ諜報作戦” を題材にした長編小説です。ソ連当局から反体制作家として睨まれたボリス・パステルナ-クと愛するオリガの苦難の生涯は、ロシア革命に翻弄された“ジバゴとラ-ラ”の愛の物語に投影され、実話とフィクションが融合した迫力のエンタテイメント作品です。ノ-ベル文学賞辞退という苦悩の選択を強いる国家権力の醜悪さは、自由主義陣営から痛烈な批判をあびたのも無理からぬことでした。

  • アメリカ本国で出版契約金200万ドル(約2億円)のデビュー作として話題になったラーラ・プレスコットの作品。舞台は冷戦下の米ソ、CIAの女性たちが共産圏で発禁となっているボリス・パステルナークの小説「ドクトル・ジバゴ」をソ連国民の手に渡し、「本の力」でソ連の現状を知らしめる。スパイ小説・お仕事小説と思わせて、恋愛要素や差別等のさまざまな要素も含めた作品で、内容奥深くドラマチックで非常に面白かった。

  • 読み応えあり。たまたま最近『戦場のアリス』を読んだので女性スパイ物が続くことになった。女性スパイ物というだけでなく、"本の力、小説の力" 物でもある。瑣末なことながら”フローべール”に注記は要らないのでは?と気になった。この作家、今後も読みたい。

  • パステルナークが情けなさ過ぎる(結局どちらとも別れない)が実際こんなものだったのかも。
    オリガも清廉な人物ではない。パステルナークの家族からすれば略奪者だ。

    戦争中に活躍し”祖国に貢献”した女性が戦後は男性たちにその活躍の場を明け渡し、忘れ去られ、どうかすると嘲笑や中傷の的になったりする様子は、例えばラリーサ・シェピチコの名品「翼」で切なく描かれ、スヴェトラーナ・アレクシェーヴィチも『戦争は女の顔をしていない』で容赦なく綴ったものだけれど、この本ではアメリカでも戦中にスパイとして活躍した女性をしれっとないがしろにするような、あるいは女性の提言を男性が自身の手柄として掠め取るような今でもしばしばあるあるあるの場面があり、女性蔑視の世相が描かれていて、タイピストたちの登場場面は生き生きとしているけれど思い当たる様々なことどもがなかなか辛い。

    マイノリティーの問題、有能ならいいんじゃないかと感じるのはおそらく現代の感覚であって、当時全くそれを許さない社会だったのか(露見したら即追われてしまいう)と改めて思う。『四人の交差点』を思い出すなど。ストーリーはそっちの方にいっちゃうんだ…という風には感じちゃったけれど。

  • 『ドクトルジバコ』の著者とその恋人の物語。
    だそうだけれど、ひと言で表現すればスパイ小説。ソ連アメリカの冷静時代、そこで活躍する、女性スパイ。スターリン時代のソ連の厳しい弾圧や抵抗勢力。それにしても、ワシントンの優秀な女性たちがタイピストとしてのみの活かされ方でも日々、華やかに暮らしていたその描写と、ソ連の収容所での生活のその落差。

  • 巧いなぁと感心したのが、イリーナの登場シーン。
    CIAのタイピストの職を得るべく面接に向かう彼女を追うことで、読者はどんな女性かを容易に想像できる。
    季節外れの暑さなのに厚着をして出掛けたことを後悔し、背中に汗染みができていないかと、店のウィンドウでさりげなく確認するが何も見えず、メガネを忘れたことに気づく。
    そこから彼女の世界像や自己像、この仕事が必要な理由と流れるように展開する。

    ただ技巧に走りすぎたと感じるのは、複数の登場人物を一人称視点で描いているところで、後半なのにまだ人物紹介が続く所は少しゲンナリ。
    章立てのタイトルが、打ち消し線を使って役割の変遷を表現しているのも、この実験に関連しているのだろうが、読者はもう少し壮大な仕掛けを期待するのではないか。

    心に残るシーンが多いのも魅力。
    「彼が死んだ。終わった」と『ドクトル・ジバゴ』の完成を告げるボーリャ。
    「世界はあたしに借りがある」と男社会の中で危険なまで野心をたぎらせるサリー。
    「母の秘密は、あまりにも寛大すぎたことだった」と偲ぶイリーナ。
    自分たちが怖がらないようにつく母の嘘を、震える手や目の下の隈から真実を読み取るイーラとミーチャ。
    ベッドの中でお互いの艶を失った肌を見て「凍える川に飛び込んだ」ように絶望するオリガ。
    ボーリャとオリガの最後のシーンは、胸が締め付けられるほど切なくなる。

    「自分の本当の望みは実現しないとわかっていた。それでも、やはりそれがほしかった。興奮、居場所、冒険、予期しないものを。わたしはあらゆる矛盾、あらゆる対極がほしかった。そういったものすべてを、いっぺんにほしかった。現実が自分の欲望に追いつくのを待てなかった。その欲求はいつも自分のなかにあり、内に秘めた心の状態として、わたしのあらゆる反応を過剰に分析させ、あらゆる決断を疑わせていた」。
    なかなか印象的な文章で感じ入るが、これが面接に向かう途中で慌ててドタバタしていたドジっ子イリーナの独白かと思うと味わい深い。

  • 実話を基にした小説。日本語のタイトルは100%、本書の中身を表わしていない。読み進めるうちに、原題「The Secrets We Kept」の意味するところがわかってくるだろう。
    この物語の主役は一冊の本「ドクトル・ジバゴ」だが、主役となる人物は複数人いる。「ドクトル・ジバゴ」の著者ボリス、その愛人オリガ、CIAのタイピストであるイリーナ、イリーナの同僚のサリー。本を出版させるためのスリルはもちろんこの物語の中で最もハラハラさせられる部分だったけど、「私たち」が隠していた秘密を通してソ連の業に向き合うのみならず、当時のアメリカ社会の汚点(と筆者が思っているであろうもの)にも向きあうそのプロセスもまた悲しみに満ちた、読んでいて胸にぐっとくるものでした。

  • 【変化は内面から始まる】(文中より引用)

    冷戦期にCIAによって行われた『ドクトル・ジバゴ』作戦を基にした長編小説。ソ連において発禁処分を受けた作品を逆輸入しようと試みる女性たちの活躍を描いた作品です。著者は、デビュー作である本書が高く評価されたラーラ・プレスコット。訳者は、英米文学翻訳家として活躍する吉澤康子。原題は、『The Secrets We Kept』。

    スパイスリラーと文学という意外かつ不思議な組み合わせが、どこまでも魅力的な一冊でした。まさかここ1週間ほどでこんなにもタイムリーな内容になるとは思いが及びませんでしたが、思考をめぐる駆け引きが奥深い味わいを生んでいる作品です。

    読みやすい訳も☆5つ

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