- Amazon.co.jp ・電子書籍 (204ページ)
感想・レビュー・書評
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人種とレイシズムについて説明する本。分かりやすく読みやすい文体でおすすめ。後半部分(③)からは、より良い社会を築くための筆者の想いも感じられる。
本書では、
①人種とは何か
②レイシズムとは何か
③レイシズムにどう対抗するか
が述べられる。
①人種とは何か
人種とは、遺伝的に獲得する形質の分類法の一つ。
ポイントは、形質の違いはグラデーション的に存在し、それゆえの分類の仕方は恣意的になるということ。
また、形質の差は個体間においてさほど大きな問題・差にはならない。どちらかと言えば後天的に獲得する文化による影響の方が大きい。その意味で(いつからでも、新たに)文化を獲得できる、つまり「変わりうる」ことが人間の強みとも言える。
②レイシズムとは何か
レイシズムとは、人種間で優劣や序列をつけること、またそれに基づいて差別することを言う。上記記したように、人種主義や人種差別に科学的な妥当性はない。
③レイシズムにどう対抗するか
人種主義や人種差別は、集団間の利害が対立した(もしくは対立が予見され集団内に不安が醸成された)時に、相手を攻撃する根拠として”捏造”される。古くは、(同胞に対する)野蛮人、(信徒に対する)異教徒、(アーリア人に対する)ユダヤ人、など?
(※ 集団間の利害対立以外にも、発生要因はありそう。奴隷貿易のケースとか)
人種差別を無くすためには、そもそもそれを産む土壌である対立自体を無くす必要がある。対立を無くすためには、
・人々が共同の利益のために共働すること
・共働を実現するために社会における不平等を解消すること
が重要である。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
日本文化を紹介した『菊と刀』の著者であるルース・ベネディクトが、レイシズムの誤りを糾弾するために書いた本。1940年、ナチス・ドイツが人種差別政策を進めているまさにその時に発表された著作であり、憤りをも言える強い意志を感じさせる。
第一部では人種の概念について解説する。科学を装っているレイシズムの主張の多くについて、非科学的であることや事実に反していることを示していく。人種と文化は別物であること。肌の色や体格では人種を定義できないこと。人種の混交は有史以前から起き続けており、それが悪い結果をもたらすことなどないこと。獲得形質は遺伝しないので、先人の業績は遺伝しないこと。等々。
ここで繰り返し強調されるのは、「人種によって身体的特徴の“相違”はあるが、それは“優劣”ではない」という点と、「純粋な人種によって構成された国家や文化というものは存在しない」という点だ。
第二部ではレイシズムの歴史をたどり、対処法を探る。ここで挙げられる例は実に滑稽だ。レイシストは自分の属する人種や民族(あるいは階級や国籍)が他より優秀であると主張するが、政治的な同盟相手も同様に扱う必要に迫られる。ソ連と対立するドイツがスラブ民族を下等と貶めつつ、日本人がドイツ人と同様な特性を持っているなどと言うのだ。
レイシズムは新しい動きではなく、歴史上何度も繰り返し現れてきた。しかし民族や宗教といった表向きの差異は真の理由ではなく、経済的あるいは政治的な勢力争いが本質だった。だから社会的格差をなくし平等公平な仕組みにすることがレイシズム防止に有効であると筆者は主張する。
その分析と指摘の説得力は圧倒的だ。しかし本書が80年も前に書かれていることに愕然とする。80年前にここまで完全否定された主張が今でも消えることなく手を変え品を変え現れてくるのは何故なのだろう。この80年、人類はまるで進歩していないのではないか。この先レイシズムが消える日は来るのだろうか。正直、あまり明るい未来は思い描けない。 -
「人種間に根本的な優劣の差異があり、優等人種が劣等人種を支配するのは当然である」ものと定義されるレイシズムを否定する著書です。そのため、人種とは何かという問題が最大のテーマとなっており、これを当時の研究やデータをもとに解説する内容が大部分を占めています。
著者は、単一の人種によって高度な文明が生まれた例はなく、むしろ民族同士の盛んな交流と混交があったからこそ文明が発展したとしています。さらに知能検査の結果から得られるのは人種間の優劣ではなく、例えばアメリカでいえばそれは南北の地域格差によるものであり、それはあくまで教育を受ける結果が反映されたものであるところから、人間は遺伝よりも環境によって決定されると結論づけます。そのうえで、人種そのものは存在しても生物学的根拠は薄く、もっぱら概念上の問題であり、レイシズムの幹となっているのは科学ではなく政治であると指摘しています。
本書は、当時ナチス・ドイツと対立関係にあったアメリカにおいて、国民総動員に向けたプロパガンダとしての役割を果たすための書物でもあって、矛先は明確にナチス・ドイツに向いており、終盤においてはその方針もより明確になります。そのため、「ドイツ東部の多くの街がロシアよりもよほどスラヴ的である」という皮肉や、ユダヤ人の迫害については「ドイツ政府内の政策は似非歴史学に基づいている」といった非難など、ナチス・ドイツに対する直接的な糾弾が随所に散見されます。元来、移民によって形成された国家においては、単一民族の優位を説くナチス・ドイツへの反発心の喚起は、取り組みやすい試みだったかもしれません。新訳も手伝ってか、読みやすい一冊でした。 -
目に見える差異だけが差別の要因ではない。むしろその裏にある「自分は他よりも優れてあって欲しい」という普遍的な考えが卑劣な差別を生む。
レイシズムとナショナリズムの間に何処となく存在する関係性が恐ろしい。政治家こそ差別を飛び道具のように使っていたのか。それが一番楽なんだろうし。
日本の国民性的なのを客観的に解説してくれるので面白かった。 -
人種ごとに優劣があると決めつける「レイシズム」。その背後にあるものとは何か?文化人類学者がレイシズムの歴史をひもとき、この問題に終止符を打つための方策を提示する書籍。
人種間に「差異があること」と「優劣があること」は違う。だが、それを理解できない人は多い。差異は科学の対象だが、生物学的に優劣があるなどというのは、根拠のない偏見である。
西欧文明は、数々の人種が共に作り上げてきたものである。世界史の中で、人種が混交することなく築かれた文明などこれまで1つとしてない。
人類学は、世界各地の先住民などを研究してきたが、人種間に優劣があることを裏付けるものはなかった。にもかかわらず、人々は、脳の大きさの違いや誤った歴史認識などに基づいて、人種ごとに優劣を決定しようとしてきた。
レイシズムが生まれたのは近代以降だが、それ以前から少数者への迫害は繰り返されてきた。その背後にあるのは、自分たちの力が衰えたら、価値あるものがすべて滅びてしまうという強迫観念だ。多数派は、自分たちには特別な価値と正当性があり、少数者を迫害することは聖なる使命だとした。
人種差別を最小化するには、差別につながる社会状況を最小化しなくてはならない。生活する権利や社会参加の機会を奪われた人々の生活を保障し、失業対策や最低生活水準の引き上げなどを行う。そうすれば、どんな国であれ人種差別をなくす方向に一歩進むことになる。
家畜小屋の鶏は、自分より弱いものを攻撃する。人間の性質はこの鶏と変わらない。社会的な「序列」に沿って、強い人間が弱い人間を、弱い人間がさらに弱い人間を迫害する。そして最後に犠牲になるのは、最も弱い立場にある人間だ。 -
今もこの本が読まれ。新約が出ていることが全てを物語っているのか、、、
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2021年8月号