この作品を通読するのはたぶん10回目ぐらい。一部だけを読んだのは数知れず。古典的小説としては最高峰と思っている。歴史・時代小説としても最高傑作か。
とはいえしばらくご無沙汰していたのだが、今回古典新訳文庫として刊行されているので、どうなっているのか読んでみた。
作品としては若干時代を感じるようになったかも。現代の価値観と合わない部分が出てきている。たとえば女性の扱いとか。とはいえそれはやむを得ないことで、その辺を割り引いても作品の価値としてはそれほど変わらないと思われる。
さて新訳だが、若干の違和感。たぶんこちらが正しいのだろうがやや雰囲気に欠けるように感じた。女性の姓を女性形をとらず男性形で統一する(著者が挙げた例ではボルコンスカヤの語尾を変化させずボルコンスキーとする)というのもわかりやすさ重視とはいえ雰囲気は壊していると思う。デニーソフ(過去の訳ではジェニーソフ)のr発音に難のあるところも「ツキも俺(おえ)を見放しやがった。おい。茶をくえ!」となっているとかなり読みにくい。旧訳(たぶん中村白葉氏?)なら「おで」「茶をくで」になると思うのだが、そちらの方がはるかに読みやすく雰囲気が出ていると思う。トゥーシン大尉とアンドレイ公爵との対話もちょっとイメージが違ってしまっている。その他もろもろ、もちろん新訳の方が易しくはなっているし正確さも増していると思うので、新しい読者にはいいのだろうが、私のような古い読者には古い訳の方がなつかしく楽しく感じられる。
(以上、1巻を読んだ感想。以下は最後まで読んでから書くつもり)