科学とはなにか 新しい科学論、いま必要な三つの視点 (ブルーバックス) [Kindle]
- 講談社 (2020年12月17日発売)
- Amazon.co.jp ・電子書籍 (283ページ)
感想・レビュー・書評
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【印象に残った話】
・科学と技術の違いは以下の通り
・科学:自然界の成り立ちを知ること
・技術:人工物をつくること
・トランス・サイエンスとは、科学だけでは良し悪しを決められない問題や状態のことを指す
・福島第一原子力発電所の事故の際、専門家は一定の放射線量以下であれば「大きな健康被害リスクは少ない」と助言したが、日常生活における行動指針にはならなかった
・いわゆる「事故物件」を格安物件と考えるか、気持ち悪いと考えるかについて、「科学的には問題がない」が、個々人の感覚や価値観はまた別の問題である
【アクションプラン】
・トランス・サイエンスの他の事例を考える詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「科学とはなにか」というよりも、科学だけでなく技術含めた科学技術と社会の関係についての著者の経験談や考えに関する随筆を収集した著作
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大風呂敷を広げた書名で、これだけでは「科学の何を述べるのだろう」という印象を受けますが、著者が力点を置いているのは、「科学と社会の距離感をどう取るべきか」という点でした。
現代の科学の最前線は遺伝子を操る生命工学とか、核エネルギーとか、AIもそうですが使い方を間違うと人類の存亡にかかわる技術と直結しています。それを研究し、扱う科学者には「この技術(知見)がどう使われるかまでは興味なし。ただこの技術(知見)を突き詰めたい」などという姿勢は最早許されませんし、また社会を構成する一般の市民にも「最近の科学は難しくてサッパリわからない」という無関心な姿勢では立ち行かないという状況になっています。そこで、一般社会の市民が科学技術とどう関わり、また科学者が社会とどう関わるべきか、というお互いの距離感の取り方について述べた本です。
科学者が考える「科学的知識」と、日常生活における「日常的な知識」が必ずしも一致しないという構図が挙げられています。『美しい夕日を眺め「夕日が沈む」と感じたとき、科学的には”夕日が沈む”のではなくて”地球が自転している”というのが正解ですが、その科学的知識だけをシチュエーションも考えずに振りかざしていては生活が成り立たない』という例が挙げられています。
また、普段の生活では何かの科学的な判断が必要な時(例えば栄養の採り方とか)に、科学者でない限りは詳細な前提条件などはあまり考慮されませんが、科学者はあくまでもその知見が成立する条件に拘ったりします。
そのあたりの行き違いを、お互い歩み寄って理解を深めるべきというのが著者が一貫して主張している点です。ただ、テーマが大きすぎるためその具体的な方法論については、新しい視点や着想を得た印象は受けませんでしたが、本書が採り上げているのは非常に重要な論点だと思いますし、今後ますます重要になっていくテーマだと思うので、今後も誰もが関わっていく必要があると感じます。 -
科学技術と社会との関わりを歴史的に俯瞰しつつ、本邦における科学技術の飼い慣らし方について述べている。
本邦では、東北震災での原発事故、コロナ禍での専門家や擬似専門家の問題、日本学術会議の任命における問題など、科学技術研究の当事者と世間との不幸な関わり方が目立っていると思う。その様な中で筆者は、科学技術の研究当事者と世間との協調、それによる科学の社会化にについての意見を述べており、著者の縁側の議論については大いに賛成する。
社会学者の宮台真司氏は社会学や政治の分野で、政治社会における現象を大衆に解説し啓蒙していく『ミドル』の存在の必要性に言及しているけれども、科学技術においても同様の『ミドル』の存在が『縁側』として必要なのだと思う。
これからのグリーン化してく社会、パンデミックが繰り返されていく社会では、世間と医学を含む科学技術の専門家とのコミュニケーションやそれを通した社会の知識化なくしては上手くいくわけが無い。本書はそれに向けた道標となる一冊だと思う。 -
ユーモアのある文体。
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日本経済新聞で竹内薫さんが推薦していたので手に取ってみました。
現在の「科学の意味づけ」を論じた興味深い論考です。著者の佐倉統さんは私とほぼ同年齢なので、解説に登場する一般人向けのエピソードはとても親近感があり、それだけでも読みやすく感じました。
改めて「科学のあり方」についてあれこれ考えてみるには、手ごろなヒントが満載の著作でしたね。