- Amazon.co.jp ・電子書籍 (468ページ)
感想・レビュー・書評
-
オーディブルはシッダールタ・ムカジー『遺伝子 親密なる人類史 下巻』が今朝でおしまい。『がん』に続く傑作医療ノンフィクション。国家による強制が最悪の結果をもたらした優生学がいまは形を変え、個人の自由意志に基づく遺伝子選択の問題にすり替えられて、新優生学あるいはリベラル優生学となって人類に新たな難題を突きつける。進化は多様な組み合わせによってもたらされるのに、遺伝子プールの多様性を特定の方向に収斂させようという試みは、近い将来、手痛いしっぺ返しを人類にもたらすだろう。取り返しのつかないポイント・オブ・ノー・リターンを越えてしまう前に、人類はその過ちにブレーキをかけることはできるのか。暗澹たる気持ちになる。
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
理解が追いつかなかった。テーマかテーマなので、物語ふうより短い解説書のほうが良かったか。ページが長すぎて息切れ。その意味で最後の「解説」は良かった。
-
上巻ははムカジー氏自身の家族歴、つまり精神疾患を病んだ叔父の話から始まった。
進化論、メンデル「とかいう人」の顧みられなかった遺伝子の発見、そして優生学やバイオ産業の隆盛に、随所で双子でインド経済の変遷に翻弄された母姉妹のエピソードなど、個人歴もからめて語られた本書。
下巻を読み終えて、壮大かつ一人の人間によりそうような印象を持った。
遺伝の研究は、科学の最先端であると同時に、より身近な倫理や個人的なさまざまな問題と別には考えられない。
遺伝子治療の黎明期、熱に浮かされるようにこれで問題解決とばかりに多用された結果、ジェシー・ゲルシンガーという犠牲を出すことになる。それが90年代だったかな。
一時、厳しい視線にさらされるものの、その後、また遺伝子治療は少しずつ進んでいくようになる。
印象に残ったのは、著者が参加した学会で講演したというエリカという少女の話だ。
彼女は、遺伝子疾患を患い、遺伝子治療に希望をつないでいるという。
彼女の病気の苦しみについて語られるが、彼女自身はとても魅力的な人物だったという。
「エリカはとてもチャーミングな女の子だった。控えめで、思慮深く、まじめで、辛辣なユーモアのセンスの持ち主だった。」
「エリカの発表は、それ以外は楽天主義で染まった学会の目を覚まさせるような大きな影響力を持っていた。ゲノムを解読し、特定の変異による症状を和らげるための最適な薬を見つけるというのはむずかしく、こうしたまれな重症疾患に対処するための最も簡単な選択肢は依然として、出生前診断と妊娠中絶だった。だがそれらはまた、倫理的には最もむずかしい選択肢だった。「
エリカの希望は、もちろん「症状を和らげるための最適な薬を見つける」ことではあっただろう。でも、それは一足飛びには難しいのだろうね。
だからこそ、現実的な選択肢が重くのしかかってくる。
大学時代、授業でこのテーマのビデオをみせられたことがあったな。
障害児教育の授業だったと思う。
出生前診断について。
出生前に診断して、障害があるとわかったとき、その子を産むかどうかの判断は・・・ということを考えるビデオだった。
さまざまな親御さんにインタビューしていたとは思うんだけど、もう20年以上前のことだし、ほとんど覚えていない。
「胎児の全ゲノムを解読し、そのような重症の遺伝性疾患の原因となる変異が存在するとわかった場合には、両親が妊娠中絶を選択できるようにすべきなのだろうか?」
それはエリカのような人の出生を、否定してしまうことになる。
これは特殊な遺伝子疾患を持った人だけに限られる話ではない。
著者のムカジー氏自身が、繰り返される叔父のエピソードを踏まえて、自分にも精神疾患になる可能性は、他の人よりも数十倍になるということを言っている。
遺伝子をさかのぼれば、今いる全人類はミトコンドリア・イブと呼ばれる一人の女性まで遡られるという話は他でも読んだことがあった。
つまり、遺伝子がかかわる話は、全人類にかかわることなんだよね。
だからこそ、「親密なる人類史」という副題があるのだろう。
面白いと同時に、いろんなことを考えさせてくれる本だった。
また折にふれて、読み返そう。 -
上巻はダーウィン、メンデルから遺伝子組み換えや遺伝子クローニングまで、これまでの歴史を振り返っていたが、下巻は遺伝子診断、遺伝子治療の未来について展望を語る。
人間の特性のほとんどが、複数の遺伝子と環境の複雑な相互作用の結果であり、すべての遺伝性「疾患」はゲノムと環境のミスマッチによる。病気の解決のために遺伝子を変えるより、環境を変える方が簡単な場合が多い、という著者の主張に納得。