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感想・レビュー・書評
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「実力も運のうち 能力主義は正義か?」(マイケル・サンデル : 鬼澤 忍 訳)を読んだ。
あー面白かった。
マーカーだらけだよ。
書かれていることは確かにその通りだとは思う。
だけどまあ「そうは言ってもなぁ」である。
現状を突き崩すのは容易ではないよね。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「運も実力のうち」の反対「実力も運のうち」
能力主義の萌芽をプロテスタントに求めていて、「勤勉に働くことができるのなら、それは神の恩寵を受けられるというしるしである」という倒錯的考え方にあるという。
当時の人々は、自分が恩寵を受けられるかわからないという不安から逃れるために、思考を倒錯した。
自らの行為により、因果のないものに因果を見出す論理が資本主義を用意したのかもしれない。
自己補強的な信仰は資本主義の自己増殖とも似ており、最近ではリクルートの社説(今は変わったらしいけ)にも通じるものがある。
能力主義の問題として、私の印象に残ったのは
①機会平等を勧めるほど、個人のアイデンティティを仕分けすることになり、その過程は残酷だという問題
②機会平等が実現しても、結果としての不平等は温存することになり、さらにその不平等は社会に受け入れられてしまうこと。
③機会平等により自由が拡大したら(梯子を登れる人は僅かなので)努力しなかったと思わされる不幸な人が増えることになる。
このあたり。
アメリカの統計データからみると、格差はむしろ拡大してるようなので、能力主義とは格差や不平等の是正には寄与していないようである。
なので、能力主義とは民主主義みたいなのもで、ベストではないにしろベター、社会という概念を維持するための建て付けのように感じる。 -
今年の9冊目。
面白かったです。日本語訳のタイトルはもう少しひねりがあってもいいのではと思います。内容は、読みにくい部分もありましたが、総じて理解しやすかったです。 -
毎日新聞202158掲載
産経新聞2021523掲載
日経新聞202165掲載 評者: 宇野重規(東京大学教授
朝日新聞2021619掲載 評者: 荻上チキ(評論家
日経新聞2021925掲載 評者: 森本あんり(神学者) -
◆内容サマリ
現代社会では、難関大学への入学をはじめとする”自分の実力”で勝ち取った功績は、本人の努力によるものであり、その経済的・社会的な成功は本人の美徳と結びついていると広く信じられている。
その結果、社会的に高い立場にあるものは「自分はここまで自分の実力での仕上がってきた。低所得な人は自分よりも努力をしなかった怠け者である。つまり、彼らは見下すに値する。」と信じており、オバマ大統領をはじめとする民主党・イギリスの労働党のリベラルな人々もその説を補強する。
逆にいうと、低所得・低い社会的な地位に甘んじている層は、「自分は機会の平等は与えられていたのに、活かすことができなかった。自分が苦しんでいるのは自分のせいである」と信じており、自らを誇りに思うことが困難である。
しかし、難関大学の合格者の親の収入を見てみると、上位1%の生徒の方が、下位20%の生徒よりも多い。言い換えると、難関大学に入学するためには、「本人の能力」よりも「親の経済力(裕福な経済力に支えられた豊かな学習環境)」の方が重要なのだ。
つまり、今の社会で前提となっている「自分が経済的に豊かで社会的に認められているのは、自分が”自分の実力”で勝ち取ったものだから、それ以外の人を差別してもいいのだ」というエリートの奢りを否定し、我々の社会が共通善を目指すためにはどうすればいいのか?ということを圧倒的な筆力で語っている。
『われわれがどれほど頑張ったにしても、自分の力だけで身を立て、生きているのではないこと、才能を認めてくれる社会に生まれたのは幸運のおかげで、自分の手柄ではないことを認めなくてはならない。』
◆感想
相変わらず難しかったけれど、面白かった!筆力が圧倒的すぎて読みながら倒れそうになったけど、言いたいことのエッセンスはわかった気がします、サンデル先生!
比較的エリートに分類されるであろう自分は、差別をしている気はなくても、「でも、高校時代に努力してなかったから大学いいところ行けなかったんでしょ?」「ショップ店員になるって、自分で決めたんでしょ?大学入学じゃなくて」「私が勉強していたあの時、あなたは彼氏とぱやぱやしてたじゃない」と思っている節は否定できない。つーかめっちゃ思ってます。
サンデル教授の言う「共通善」ってものがなんなのかが正直つかみかねているところがあるものの、最終章で語っている『出世できない人もしかるべき場所で活躍し、自らを共同事業の参加者とみなせる』ようにする必要がある、という論から推測すると、この社会に生きる人全てが「自分は生きている価値があり、自分らしい貢献をすることで、共同体に尽くし、対価を得ることができる。自分の能力は隣の人とは異なるものであるけれど、どちらも等しく重要であり、尊重されるべきだ」と相互に考えられる社会だと思う。
そんな社会、いいなあ。 -
原題である「The Tyranny of the Meritocracy」が示すように、メリトクラシーに対する痛烈な批判が込められている。
「能力主義」の台頭は、能力のあるもの、功績を上げたものはその対価を得るのに「値する」人間である、という価値観を強固なものにしていった。
これは「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」でも描かれているように、宗教的バックグラウンドと無縁の動きではないだろう。
しかし、キリスト教がメジャー宗教であるとはいえないこの日本においてもメリトクラシー信仰は根深いものになっている。
不公平を打破するために台頭したメリトクラシーは、結局のところ平等をもたらすものではなかったのだ。
サンデル氏が提唱する対案が、果たしてよりよい社会に繋がるものなのかはなんともいえない。しかし、進んで現代の哲学書を読むような向きが本書を手にとり、自らを省みる機会を得るというのは大変に意義深いことだ。