荘園 墾田永年私財法から応仁の乱まで (中公新書) [Kindle]

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  • 中央公論新社
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感想・レビュー・書評

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  • 日本の中世の歴史で、大きな目玉の一つであるにも関わらず、なんとなく分かった気で流してしまいがちな要素かと思います。「荘園」とありますが、土地の所有に関して、それがどのような移り変わりをしていったのかが、どこでどのような変化があったのかが、ここで霧が晴れるように分かりました。古代律令制の始めの頃には、日本の土地は全て政府のもので、それが墾田永年私財法で変わり、荘園が出来ていくところまでは分かるのですが、武士の出現とともにその差配の権利者が武家の棟梁になったと。これがいつどのようにしてという部分のブラックボックスがこれで解明されたと思います。歴史の表の政治や戦争に対して、裏とでもいう実務の部分を知ることで、なぜ彼らが争ったのかが腑に落ちるものがありました。
    ちょっと難解な部分もあり、中世の紛争(観応の擾乱、応仁の乱)についての前知識が必要かもしれません。

  •  抑揚やカタルシスはまるでない。しかし律令制から戦国時代まで(さらには区画整理前の現代にいたるまで)の権威、権力、富の階層構造の変化と流動と相互に影響しあっていた荘園。細かく訴訟や徴税の資料にあたりながらその歴史を紐解いていくのは大変満足のいく内容だった。また、気候変動という地球大(氷河期、間氷期という変動や火山の噴火)の動きがいかに人々の暮らしと歴史を動かしていったかも荘園の変遷を通じてわかる。
     
     荘園の存在だけをみても、学校で習う歴史では、墾田永年私財法から始まり、摂関政治と院政で絶頂期を迎えて鎌倉府の台頭により消えていったという印象をもっていた。実際にはそんなことはなく、守護・地頭の権力闘争の原因であり続け、室町時代にも守護大名と守護代を悩ませ、戦国時代へと導くことになる。
     また、荘園からの物資は時には壮麗な寺社仏閣の建立(興福寺)を支え、時には日本国内の貿易網(例えば北廻船)を形成させ、さらには金銭による経済圏(宋銭)をつくっていった。

  •  荘園は日本の国土を形作ってきたと言えるだろう。奈良時代から戦国時代に入るところまで、その長い期間において荘園のあり方は様々に変化してきたことを、時系列でわかりやすく、政治や経済の移り変わりと合わせて解きほぐしていく、新書にあってこれまでなかなか書かれなかった内容ではないかと思う。
     特に鎌倉時代中期以降の荘園の仕組みがよくわかるものになっており、たくさんの疑問点を解決してくれた。武士の力が強くなったところで過去からの荘園の支配体系が急に弱くなってしまったわけではない。武士はその仕組みを上手に利用しながら自らの影響範囲を広げていったのである。
     土地の記憶というのは簡単にはなくならない。戦国時代から近世へ。次は荘園と近世との連続性や非連続性を考える材料になるような一冊があると興味が尽きないだろう。

  • 『国衙』を絡めた『荘園』の通史です。実力をつけた在庁官人は在地領主として、院政期には『知行国制』知行国主ー国司ー郡司職/郷司職『領域型荘園』本家ー領家ー下司職の所職になります。治承・寿永の乱で所職の没収/任命が認められ地頭職となり、平家没官領の取得や承久の乱により鎌倉幕府は権門として『荘園制』は安定、在庁官人の大半が御家人になります。鎌倉後期は悪党が横行、南北朝期は半済令からの横領と守護の国衙吸収で荒れますが守護在京制の維持期間は安定します。応仁の乱後、在地領主は国人化、惣村発展で解体します(2021年)

  • 荘園の形態の変遷がよく分かる一冊。具体例が豊富で、形態の変化の原因もよく書かれてあり面白い。個人的に石母田正の中世的世界の形成と突き合わせて読みたいと感じた。

  • 風呂読書。一月近くかかってしまったがとてもおもしろかった。開墾したり生産したりっていうのがどういう感じか、っていうのはもうすこし知りたかったが、それはまた別の学者先生たちの仕事よね。あとがきもいい感じ。

  • 現在の風呂読書。なるほど、おもしろい。開墾という作業がどれくらいの労力や時間がかかるのか教えてほしい。

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著者プロフィール

伊藤俊一税理士事務所代表・税理士
愛知県生まれ。愛知県立旭丘高校卒業、慶應義塾大学文学部入学。一橋大学大学院国際企業戦略研究科経営法務専攻修士、同博士課程満期退学。事業承継・少数株主からの株式集約(中小企業の資本政策)・相続税・地主様の土地有効活用コンサルティングについて累積数百件のスキーム立案実行、税理士・公認会計士・弁護士・司法書士等からの相談業務、会計事務所、税理士法人の顧問業務、租税法鑑定意見書、各種FAS 業務鑑定意見書作成等々を主力業務としている。
【主な著書】
非上場株式評価チェックシート(2023年)
新版 Q&A 非上場株式の評価と戦略的活用手法のすべて(2022年)
新版Q&A みなし贈与のすべて(2022年)
ほか
(以上、ロギカ書房)
税務署を納得させるエビデンス―決定的証拠の集め方―1 個人編
税務署を納得させるエビデンス―決定的証拠の集め方―2 法人編
税務署を納得させるエビデンス―決定的証拠の集め方―3 相続編
(2023年)(以上、ぎょうせい)

「2023年 『[Q&A] 同族法人をめぐる オーナー社長の貸付金・借入金 消去の税務』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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