黄色い家 [Kindle]

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  • 中央公論新社
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感想・レビュー・書評

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  • 90年代の東京を舞台にひとりの少女がカネに翻弄され悪に手を染めていく姿を描いたノワール小説。

    「金は年をとらないし、死なないからね」
    「金の量は決まっているんだよ…金をもってるやつが、金を持ってるやつのためにルールを作って、貧乏人はそのルールのなかでどんどん搾り取られていく」

    エンさんが、映水が、ヴィヴがカネについての哲学めいたものを語る。あの「罪と罰」を彷彿とさせるかのように。映水にいたっては家族や生まれた場所、血についてまで及ぶ。

    「レモン」が焼失してからの疑似家族4人の歪んでいく関係…しかし、安易なエンタメ小説のように決定的な破滅に向かうこともなく、主人公の花はその後の人生を歩んでゆく。そして、新聞記事で再び黄美子さんの名前を見つけ…

    読み終わった日の夜はなかなか寝付けなかった。量も内容もボリュームたっぷりの一冊。

  • 初の川上作品。著者の意図がどこにあるのか?601ページにぎっしりと文字が詰まった読み応えのある作品。
    あるひとつの「取り返しのつかない何か」にジリジリと向かっていく様を傍観しているはずなのに、いつの間にか自分自身も物語の中に引きずり込まれています。戻る為に神経を衰弱するので一度に沢山読めません。
    所持してるだけで「鬱」になりそうなくらい存在感のある本です。

  • 引き込まれて一気に読みました。
    90年代にこのようなことが本当にあったのかもと思ってしまう勢いがありました。
    みんな、今の現状をなんとかしたかっただけ。幸せになりたかっただけ。普通に生きたかっただけ。
    ただ、現状をなんとかするための手段や選択肢は少ない。そしてそのためにはお金が必要。
    幸せになりたいけど、目の前の現実が過酷すぎて何が幸せかがあやふやになってしまう。そしてそのためにはお金が必要。
    普通に生きたくても子どもの頃の環境の影響などで普通がわからない。そしてそのためにはお金が必要。
    登場人物は全員めちゃくちゃなのですが、生きることに懸命で悲しく、嫌いになれない。どこか「あぁ。そうだよね」と共感してしまう。反面、それぞれになにかスッキリしないドロッとしたものを感じてしまう。
    でも、読後にはなぜかみんな愛おしいと思ってしまう。
    この話を登場人物それぞれの視点で読んでみたいです。

  • 金に狂い、罪を犯すお話。

    黄美子さん、どうやって悪い人になるんだよ。
    と思いながら読み進めたけれど、やっぱり優しい人だった。
    トイレを綺麗にする人に悪い人はいないってことか。
    けれど、黄美子さん、やっぱり狂っている。

    この小説にのめりこんだのは、私が花たちと全く同年代だから。ルーズソックスにやまんばメイクにXJapan。まさか、hideがこんな形で登場するなんて。あと、今じゃ絶滅しているヤンキー。あゆが出てくることも期待したけれど、それは残念ながら出てこなかった。阪神淡路大震災とオウム、世紀末、ポケベルから携帯電話。感動するくらい、全てが私の記憶と一緒。

    花は、私だ。と思ってしまった。
    一人、地道に頑張っているのに、簡単に搾取されてしまう。
    頑張っているはずなのに、誰も気づいてない。
    というよりも、勝手に一人で空回りをしている。
    搾取するほうは、搾取しやすい人を検知するセンサーがついているんだろう。

    搾取されるとは、お金以外にもいろいろあって。家庭でも、職場でも誰かに労力が偏って、搾取している方はさもそれが当たり前だと思っている。
    資本主義が成立するのも、搾取する方と搾取される方があって成り立つ仕組み。
    私は、搾取される側が居心地い自分のまま老いるんだろうなと思うこの頃。
    花はただただ無知で頑張り屋だったのに、搾取されてることに気がついて、キレてやばい奴認定になってしまった。
    悪い奴は、花だった。
    そのうち、私もどこかでキレて後戻りできなくならないように気をつけよう。

    カード詐欺の主犯格のヴィヴの金に対する言葉が響きまくった。
    「金は権力で、貧乏は暴力だよ」
    「金を持ってる奴がルールを作って、貧乏人はルールのなかでどんどんと絞りとられていく」
    みたいな感じでめちゃくちゃたくさんのパワーワードが炸裂していた。
    搾取される身には、涙がでてくお言葉ばかり。

    だからと言って、私にできることは、やっぱり搾取されながら日々働くというラットレースしかない。このラットレースから抜け出すために、どうすればいいか知恵を探して迷走する。これからも読書という現実逃避にハマっていくこと間違いない。

  • 黄色い家の表紙が眩しくて気になっていた。
    親が水商売系であったり、そういう環境下で育った花が学校には馴染めず、必死にバイトで稼いでは誰かに取られたり、親に貸したりして手元には残らなくなる。どこまでも落ちるのに、這い上がって頑張る姿は応援したくなるけど、圧倒的に知識がなく、肩書きもないので普通の生活には届かない。
    花だけでなく、そういった人たちの集まり。
    その中でも花にやさしくしてくれた黄美子さんを慕い、支えようとするが高校生の年齢である花には生活を支えるのは無理があった。
    知識や公共サービスのことを知っていれば、あらゆる局面で打開策があったと思うけど、そんな発想もないからひたすら自分ががんばるしかないと追い詰めてしまうんだろうな。
    そういう層は負のループにハマってしまって、さらに他の人から搾取されたりする。
    つらいなぁと思いながら、それでも生きていかなければならない。
    最後に生きたいと思うのも、つなげるものは人との関わりなのだなと思った。

  • 水商売のシングルマザーに育てられた女性、花が主人公。
    15歳で家を出て、母親の友だちや知り合った女の子とスナックをやって一緒に暮らしはじめ、やがて犯罪に手を出していく・・・という話。

    お金=幸せではないけれど、幸せの土台はお金がある程度あることだなと考えさせられました。
    主人公の花は賢く行動力もあるのに、お金がないのとお金がある家に育たなかった為知識がなく、将来のことを考えられず、いつもどこか不利な選択をしてしまう。
    そして、他の3人は花ほど賢くないので、そんなに将来に不安を持たないで過ごせるが、花は賢いので一人で色々考えてしまうのがかわいそうでした・・・。

    ラストに黄見子さんに会いに行き、「一緒に暮らそう」と誘った瞬間、私は「花ちゃん、昔と同じ状況になるよ!」とアドバイスしたくなりました。
    黄見子さん、断ってくれてありがとう、と感謝。

    約600ページの長編でしたが、おもしろくて時間を忘れて読めました。

  • びっくりするくらいものすごくおもしろかった。おもしろいって言っていいのかわからないけど、こわいもの見たさというか、こわいのに目を離せないというか、心わしづかみにされたようにぐいぐい引き込まれて、後半なんて本当に読むのがやめられなかった。
    水商売しかできないシングルマザーの母親に育てられて貧しい生活を送っていた主人公が、15歳で家を出て母の友人や知り合った女の子とスナックをやって一緒に暮らしはじめ、やがて犯罪に手を出していく、っていう話。

    最初のほうは、例えば、子どもが、家のなかで服がたたまれているだけで明るい気持ちになるとか、繁華街に出かけたりしたことがないとか、映画で見るようなことは自分には関係ないことだと思うとか、わたしなんかがあたりまえと思ってきた普通の生活を与えられない子どもがいて、だれからも守られず、気にかけられず、救いの手も差し伸べられないっていうのがすごく苦しくて悲しかった。そういう親の元、家に生まれたっていうだけなのに、普通の生活ができない、普通に働くことすらできないっていう。そうしたら水商売とか犯罪に手を染めるしかない。正しいことではないけど間違ってはいないというか、それしかない……。

    でも、ユーモアがあって笑えるというか滑稽に思える部分も多くておもしろいし、主人公にはじめて友達ができてみんなで働いたり一緒に住んだり、途中、青春モノのような感じもして読んでて楽しいところも多かった。

    あと、カードを使った犯罪とか(これがいわゆる「出し子」ってやつなのか!と。言葉としては知ってるつもりになっていたけど、実際こういうことをこういう感じでやっているんだな、とリアルにわかる感じがして興味深かった。そして、やっぱり、正しいことではないけれど、生きていくためにはこうするしかないって人もいるんだろうなとも思った。)、死んでしまった人の話とか、ミステリとしても読めそうな感じ。

    設定が当時のことを20年後くらいに思い出すって形になっているわけだけど、結局、20年後もあまり変わらず幸せにはなっていないっていうのが、なんだかけっこうつらかった。ラストは、本当のことや正直な気持ちを伝えられたっていうことで少し救いを感じる部分もあったし、そして、ひどいことばかりじゃなくて心から楽しかったこともよかったこともあったと主人公が思えたことも救いだったけど、登場人物のひとりが言ったように、すべてはもう終わったことだ、っていうのも感じてせつなかった。終わるまで待つしかない、っていうような会話も途中であったけど、そんなふうに、人生過ぎていってしまうな、というか。
    ……というふうに読み終わった感情はけっこうぐちゃぐちゃに乱れていて、そのへんもなんだかすごいものを読んだという気がしたり。

  • 十代と「裏社会」。想像以上に「すぐそこ」にあるのだと思った。この作品は2000年頃を舞台としているが、令和となった今も相変わらず(この作品以上に?)、闇バイトなど、何らかの理由で「がんじがらめ」となった十代が利用されている。フィクションなのだろうが、どうしたらこの子たちが救われたのだろうと考えてしまった。

  • 当時者にしか、わからない葛藤、苦しみ
    そこで一体何があったのか?その黄色い家での一部始終を模擬体験させられた。圧倒的な熱量を感じ、そのページ数を忘れて没頭。主人公達が過ごした年代の流行りや出来事が自分に重なり、時代背景を読み取りやすかった。そしてX japan。
    この本を読みながら勝手に主題歌としてtearsをヘビーローテーションで聴いていた。何でこんなに不幸の連鎖に見舞われるのか?関わる人間があまりに身勝手であること、そしてその身勝手な者達を切り捨てることが出来ぬことから共に溺死に至るのだろうが、そこが唯一の居場所であるなら…唯一の安息の地であるなら。

  • とても重厚な作品でしたが、小まめな章立てになっており、テンポよく展開されるため読みやすく、数日で読み切れました。

    当たり前に働いてお金を稼いで、何気なく金を使って生活してるけど、「生きるためにお金が必要である」と強く意識することは少ないかもしれない。
    本当にお金がない極限状態の時、人はお金に対して執着し、壊れていく、そんな怖さをジワジワと感じられます。

    暗く重たいどん底の人生の中で、微かな希望の光や人との繋がりを必死に掴もうとする主人公に切ない気持ちになりました。

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著者プロフィール

大阪府生まれ。2007年、デビュー小説『わたくし率イン 歯ー、または世界』で第1回早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞受賞。2008年、『乳と卵』で第138回芥川賞を受賞。2009年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で第14回中原中也賞受賞。2010年、『ヘヴン』で平成21年度芸術選奨文部科学大臣新人賞、第20回紫式部文学賞受賞。2013年、詩集『水瓶』で第43回高見順賞受賞。短編集『愛の夢とか』で第49回谷崎潤一郎賞受賞。2016年、『あこがれ』で渡辺淳一文学賞受賞。「マリーの愛の証明」にてGranta Best of Young Japanese Novelists 2016に選出。2019年、長編『夏物語』で第73回毎日出版文化賞受賞。他に『すべて真夜中の恋人たち』や村上春樹との共著『みみずくは黄昏に飛びたつ』など著書多数。その作品は世界40カ国以上で刊行されている。

「2021年 『水瓶』 で使われていた紹介文から引用しています。」

川上未映子の作品

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