哀れなるものたち (ハヤカワepi文庫) [Kindle]

  • 早川書房
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感想・レビュー・書評

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  • 映画観賞後に読んだので映画との対比の感想。
    寓話的だった映画と違って「そんなわけ無いだろ」と現実を叩きつけてきて面食らった。
    最後にはベラすらも「哀れなるもの」になってしまっている内容で得も言われぬ爽快感があった映画とはかなり違った後味だった。
    映画がベラが真に自立していく売春宿での描写を尺を割いたり前夫との対決をベラ単独に描写を変えたのも結末の違いを考えると良い改変だったなと思う。
    ただ小説がつまらなかったかというとそんなことはなくとても楽しく読めた。

  • マッドサイエンティストのお話し…かと思いきや、一筋縄ではいかない。

  • 物語への没入度、という基準でいうと、今まで読んだたくさんの本のなかでも一位二位を争うくらいにひたすらに面白く、作品としての愉しみ、本そのものを味わう視覚的な愉しみ、両方をたっぷりと、浴びるように感じた。

    構成がまず変わってて、著者アラスター・グレイはこの本の中では「編者」として存在している。
    70年代のグラスゴー、ゴミ捨て場から救出された自費出版の本を、再編して翻刻する人物として。

    そしてその本、「スコットランドの一公衆衛生官 医学博士アーチボルト・マッキャンドルスの若き日を彩るいくつかの挿話」
    (アーチボルト・マッキャンドルス著 アラスター・グレイ編)は、
    アラスター・グレイが新たに「哀れなるものたち」というタイトルをつけて世に出された。(という体)

    いきなり、「??」である。どこまでが本当でどこまでが小説なのか、読みながら最初はよくわからなかった。本当のことも混ざっているから。

    「哀れなるものたち」には挿絵がいくつか(アラスター・グレイによるもの)、詩や手紙の手書き(!)のページもあるし、本の中にもう一冊本が存在しているように見せる、というかなり凝った構成。

    中心となるのはベラ、ゴドウィン、アーチボルトに3人で、特に旅先からのベラからの手紙の内容もさることながら、その見せ方(手書きにしたり、文字の大きさを変えていったり)の仕掛けが読んでいて新鮮な驚きに溢れてて。。とにかく楽しい。

    ベラが死から蘇生され、赤ちゃんの脳から徐々に成長していくなかで出会う世の中の不条理に対して、あまりにも純粋に向かっていく様、世界を旅して色んな食べ物を食べ、遊び、性を知り、自分は何者でありどう生きたいのかを理解していく過程を、ベラの目から、ゴドウィンの目から、アーチボルトの目から、旅で出会う様々な人種と階層の人の目から見る。

    人間くさいというか、一番印象に残ったのはウェダバーンかな。。人間の獣性の負側を煮詰めたような、、哀れなる、にピッタリな人。けっこう多分、居そうな人。

    ゲルマン民族の植民地主義と女性差別の繋がりとか、美醜とか、政治的スタンスとかを盛り込みながら、社会主義に目覚めるベラが描かれる第20章、特に324ページに至るまでの経緯にボロボロ泣いて、そこから「哀れなるものたち」のラストまで一気に読ませる、ものすごいカタルシスがあった。

    で、そこから先をどう読むか!これがまた、、皮肉というか何というか、え!こんな風に終わるの!って、また別の驚きで、、カタルシスで大団円で終わらないのが非常に、私の中のイギリスっぽいイメージで、非常に良かった。

    全部読み終わったあと、アラスター・グレイの描いたカバーイラストを何分も見つめた。この瞬間より幸福なことはないだろうなと。

  • 映画を先に見てしまったが、イギリスに帰ってきてからの終盤がかなり違ったのが良かった。本の方が好きだな。
    タイトルが何を指すのかを考えたくなる本

  • とても面白い題材で、内容は読む価値はあるのだけれど、他人に薦めるほどか、読むべきとまではいかないかな。一度より二度読んだ方が面白いと思わせる書き物です。

  • 2024/03/03 購入
    2024/03/24 読了 ★★★★

  • 感謝する必要のない人がそばにいるってなんて素敵なことかしら。
    ん?本の作り方から肝掴まれる。前書き、挿絵、巻尾の用語註釈。更にはその註釈のための写真や説明図。凝ってます。註釈はこの小説設定に合わせたフィクション。

    この徹底さが読んでいてウハウハと。読者を楽しませる小技が効いてます。
    そして物語はメアリ・シェリーの「フランケンシュタインの怪物」をオマージュ。登場人物の名前を一部拝借。成人にして幼児の脳だから物語として面白くない訳がない。そして龍之介の「藪の中」のように登場人物の語りによって事象は異なってくる。

    ベラの思いに驚く。
    そうだったのか~ SFでなくなってしまうやん。
    註釈だけで68ページも。これを見逃してはなりません。

    ドクター・ベラのキャラが「ガープの世界」のガープのお母さんと被ります。

    ロシヤの賭博者の男、名前は出てきませんが多分、ドストエフスキーさんでしょう。時代が一緒だものね。

    ところで、哀れなるものたちって誰の事?読み手はまんまと作者に騙される。
    結局どうなん?ほらほら、やられました。可哀想なあなた。あら?僕の事だったのか~ 残念。さて、映画は本日公開。
    ランディモスはこれをどう描くか楽しみ~ エマちゃん 体当たり 大丈夫?

  • 歴史的事実や実在の人物を織り交ぜつつ、どこまでが本当のことなのか、すべて妄想に過ぎないのか…。
    巧みな構成で読ませながら、人間の精神の成長を倍速で見せる。ベラはどんどん成長する。

    哀れなるものたち、その名は人間。

    マッキャンドレスも、ゴドウィンも、ウェダバーンも、ブレシントンも、みんな哀れで可哀そうな、poor things。
    ただ、マッキャンドレスが語る、成長過程のベラが持つ自由さだけが、哀れではないように思えた。
    人間は、良心を得て本当の理性的な人間になるように思えるけれども、そして良心を得たベラがこの世界をより良くしようと努力するけれども、それはとても崇高なことではあるけれども。
    なぜだろう。そんな理想に燃えるベラでさえも、皮肉なことに、poor thingなのだ。
    人間であることの、どうしようもない、哀れさ。
    そこにはきっと、平和な世界が永遠に訪れない理由が隠されている。

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