翼~李箱作品集~ (光文社古典新訳文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 読書会のために読みましたが、全く理解できずお手上げ状態で参加しました…
    私は詩や現代アートがよくわからず、この作品集は「現代アート」のようなものなのかもしれない

    作者は、日韓併合直後の京城(ソウル)に生まれた。
    一族の取りまとめとしての役割を担わされ、美術や文学嗜好との板挟みになった。
    東京を訪ねて、警察に捕まり(特に理由もないようだ)、勾留中に病症悪化して、釈放後に死亡した。
    発表作品は、漢字、ハングル文字、カタカナを入り交えて書かれている。さらに日本の言葉をハングルにしたり、そのままカタカナで書いたり…。モダンというか、言語が入り乱れてしまった時代を表している文体なのかな。
    まえがきで翻訳者が「どのようにしてわかりやすく翻訳したか」を書いています。
    それでも全く理解できずお手上げなんですが、著者は家族にも国にも言語にも板挟みで、それぞれの居場所を探した浮世草っぽい印象です。それでもところどころで強い言葉があったり。あとクリスチャンなんですかね。


    『烏瞰図(オガムド)詩第一号』「鳥瞰図」ではなくて「烏」です。造語だそうです。
    十三人の子供が道路を疾走するのだけれど、第一の子供、第二の子供…十三人の子供が怖いと言っていて、その十三人の子供たちは怖い子どもと怖がりの子供で、疾走しているのだけれど、疾走しなくても構わない。

    『翼』
    最初に掌編のようなものが書かれる。
    <『剥製にされた天才』をご存知ですか?私は、愉快だ。こんなときには、恋愛までもが愉快なんです。P24>
    続いて京城の私娼窟の片隅で暮らす男の自分語りになる。男には妻がいるのだが、二人の部屋は障子で区切られていて、自分は日の当たらない方で同じ服を着て同じ布団でずっと寝ている。妻にはお客さんが訪ねてきてお金をくれる。妻はそのお金を自分にくれるけどどうしていいのかわからないし、妻のお客さんはどうして妻にお金をくれるんだろう?
    散歩に出た男は、脇が痒いなあって思う。ああ、かつて人工の翼が生えていたんだよなあ。<翼よ、生えてこいよもう一ぺん。
     飛ぶんだよ、飛ぶんだ、もう一ぺんだけさ。
    もう一ぺんだけ飛んでみようじゃないか。P68>

    ==あまりにも男が浮世離れしているので、これは人間ではなくて犬なんじゃないのか?と思ってしまった。最後でいきなり「昔は人工の翼が生えていたんだけど」ってことは前向きな気持もあったんだろうか。
    京城に「三越」が出てきた。「三越百貨店京城店」として日本人街に建てられたんだそうです。

    『日本語詩 線に関する覚書1』
    …、なんか数式的なものが…(ーー?)

    『烏瞰図 第十五号』
    死のうかな、鏡の自分を殺そうかな。…みたいな掌編。

    『蜘蛛、豚に会う』
    小説。
    『翼』と同じように、私娼の妻の家でゴロゴロしている夫の語り。
    妻が日本式のカフェ(状況によっては性的なこともする)で働いているということで、日本が併合した京城に、日本式なものがどのように入っているかが見えます。

    <頼むよ妻よ、もう一度専務の耳に向かって白豚と言ってくれ。蹴飛ばされたら黙って階段から転がり落ちろ。P116>

    『山村余情 成川紀行中の何節か』
    旅行記。
    山村に旅行?に行ったときのつぶやき。
    京城のことをつぶやき、目に入った村の人々の暮らしや自然の様子を冷めた感じで見ている。
    都会にも、田舎にも、居場所がないのかな。

    『逢別記』
    小説。
    著者の結婚生活が根本になっている?
    妓生と出会って、他の男を紹介したり、でも結婚したり、それでも妻は他の男と会っていたり、そしたら妻は出ていったり戻ってきたり。

    『牛とトッケピ』
    童話。
    この短編集で唯一意味がわかったお話だ!!
    牛をとっても大事にしている男がいる。怪我をしたトッケピに「回復するまで牛のお腹にいさせてくれよお」と頼まれる。
    ほんわかしたお話しも書くということは、他の作品は「自分を表現するために探して探した文体」なのかなあ

    『東京』
    随筆です。
    東京に来たけれどももうがっかり。ガソリン臭いし、日本語には情緒がない。

    戦時中の銀座の様子がわかります。
    著者は、京城もなんか違う、山村もなんか違う、どうしても行こうと思って行った東京も全く違った、何かを求め続けてついに見つからなかったのかなあ。

    『失花』
    小説。
    <ひとが
     秘密を持たぬのは、財産を持たぬと同じほど貧しく寂しいことだ。P188>

    二度目の結婚経験が下敷きになっている?
    結婚してさっさと東京に行って、カタカナとローマ字混じりの暮らしをして、浮世草。

    『金起林への手紙』
    東京に行き、失望した様子。
    李箱はこの手紙を書いた二日後に逮捕された。

    『失楽園』
    散文詩集。
     その少女を皆は妻だという。
     キリストに似たけれどボロボロの男がいた。
     天使は地獄が好きなんだ。

    …わからん!!ごめんなさい!

    『烏瞰図 詩第四号』
    …目で見る詩(ーー??????)

    『翻訳者の解説』
    とっても丁寧です!

    読書会メモ
    ・生産性を拒否
    ・日本が急激に韓国を近代化しようとしているなか、自分はどう生きようかと考え続けている
    ・近代化と植民地を同時に体験して、そこからどう自由であるか
    ・思い浮かんだもの。カフカ、太宰治、牧野信一、『代書人バートルビー』、『異邦人』
    ・李箱は相当本を読み、文学の記憶を自分の創作物に取り入れているのが感じられる
    ・分裂しているので、もっと分かりづらく書けるのに、とてもわかり易く書いている
    ・境界がなくなり、内と外が入れ替わる
    ・『翼』のラストについて。
    最後で急に良い子(小説として)になったことに違和感
    最後が可愛くて良い
    イカロスっぽい。①飛べなかった(墜落した)けどもう一度飛びたい。しかしまた失敗する予感も持っている。②墜ちることがわかったうえでそれを楽しむ気持ちがある。負の感情を生きるための遊びにできる
    ・絶望はない、閉塞感がない⇐⇒閉塞感を感じた。その閉塞感からくる明るさを感じた
    ・全世界的に記号詩が流行ったことがある。李箱は小説、紀行、詩、記号詩とこれだけのことをしたのがすごいな
    ・モダニズムの特徴として「都市の書き方が良い」ことがあるが、李箱は都市の書き方が鮮やか
    ・商業作家ではない感じ。後に有名になる作家の若い頃の作品を読んだ感じ
    ・詩の印象と小説の印象が違う。詩はイメージの本流の感じで著者個人が出ていないが、小説は自分の感情をそのまんまという感じ。バラバラで面白い
    ・現代アートみたい
    ・記号詩を「絵を見るように」見て楽しんだ

    • kuma0504さん
      淳水堂さん、こんばんは。
      「翼」しか読んだことがないのですが、李箱文学賞自体は、受賞者作品の幾つかを読んでいるくらい韓国を代表する文学賞にな...
      淳水堂さん、こんばんは。
      「翼」しか読んだことがないのですが、李箱文学賞自体は、受賞者作品の幾つかを読んでいるくらい韓国を代表する文学賞になっていることで、注目していた作家でした。

      で、年末年始の韓国旅行の際に、生家を訪ねてみました。いわゆる中流階級が住む地域の割と小さめな平屋でした。屋根の上にちょっと目にはテレビアンテナのような変形したオブジェがあったのですが、あれは十字架だったのかな。植民地のもとでの中産階級の悲哀みたいなものが彼のもとにあったのかな、と淳水堂さんのレビューを読んで思いました。

      「翼」は、犬を擬人化しているのだと単純に思っていました。とりとめのない感想ですみません。
      2024/01/28
    • 淳水堂さん
      kuma0504さん

      ええーー生家にまで!
      読書会一緒に出たかったです!!
      海外文学読書会で、オンラインなのでどこからでも参加でき...
      kuma0504さん

      ええーー生家にまで!
      読書会一緒に出たかったです!!
      海外文学読書会で、オンラインなのでどこからでも参加できるんですよ。
      参加者の中で私だけが「お手上げです!」でした^^;

      そして『翼』は犬という同意見者がいて嬉しいです!!
      これも読書会では私だけでした^^;

      2024/01/29
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著者プロフィール

一九一〇―一九三七 京城生まれの詩人、小説家。本名、金海卿(キムヘギョン)。京城高等工業学校を卒業し、朝鮮総督府建築課で技手として働くかたわら、三〇年に発表した長編小説『十二月十二日』で作家活動を開始した。三三年に朝鮮総督府を辞職して喫茶店の経営を始め、妓生の錦紅(クモン)と同居生活を送る。三四年には文学同人「九人会」に参加し、『朝鮮中央日報』に詩『烏瞰図』を連載するが、難解だとの抗議を受けて打ち切られた。三六年、『朝光』誌に掲載された短篇小説『つばさ』が一躍脚光を浴び、モダニズム作家としての地位を確立。同年、東京に渡る。三七年に思想犯として日本の警察に逮捕され、持病の肺結核が悪化して保釈された後、同年四月十七日に死去。東京で書かれた『失花』は、死後に遺稿として発表された。このほか代表作に『蜘蛛、豚に会う』『逢別記』などがある。

「2020年 『失花』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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