愛と美について [青空文庫]

著者 :
  • 青空文庫
  • 新字新仮名
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感想 : 7
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感想・レビュー・書評

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  • 1番最後に記されるように、5人の性質がよく現れた書き方でひとつの物語が完成するお話であるが、この物語が「愛と美について」なのかなぁと考えた。最後に母が笑い崩れた意味が私にはまだ全く分からないのでもう少し読みを深めたい。
    5人のきょうだいの中では次男が最も私好みであったが、感覚的にはなんとなく次男が太宰に最も近しいんだと思う。作中の物語の結末が個人的にはあんまり好きじゃないのでなんだか次女には苦手な印象を抱いた。5人の性質をさらに理解した上で何度も読めばどんどん面白くなる作品だと思う!

  • この作品の中には兄弟姉妹5人の個性が詰め込まれ、文章の書き方も違う。ほとんどが会話文でできた物語で、短いが続きが気になる。太宰治の作品の中では珍しく心温まる内容で楽しく読めた。

  • この物語はある家族の5人の兄妹が暇つぶしに物語を紡いでいく、というお話です。兄妹5人それぞれの性格を表す個性的な文章が特徴で読んでいて飽きません。タイトルの美しさに惹かれ読み始めましたが、イメージと違って軽快に進んでいく物語がとても面白かったです。私が特に気に入った文章は冒頭の「兄弟、五人あって、みんなロマンスが好きだった」です。性格も見た目もなにもかも違う兄弟が唯一文学という共通の繋がりを持っているのが素敵で印象に残りました。面白さの中にも家族愛が見えて温かい気持ちになれる作品です。太宰治作品としては珍しくハッピーエンドで終わるので気になった方はぜひ読んでみてください。太宰治の文学への愛が感じられます。

  • 5人の兄弟と母親の、他愛ないひまつぶしのお話。

    最後がくすりと笑えるのは当然として、兄弟たちそれぞれの特性がそこここに表れてたのしい作品。
    兄弟たちは太宰の分身たちで、彼が作品をつくるときにはこのように心中で話し合っているのでは、と思わせられる。
    母親の無邪気ないたずらに『斜陽』のお母さまを思い出す。

  • この作品は、読書好きな五人の兄妹と一人の母親の家族の日常を垣間見ることが出来る作品です。よくある家族の日常を描いた作品は典型的なものが多く、大概途中で結末を予測することが出来ます。しかし、当書のそれぞれ性格の異なる五人の兄妹が作り出す、個性豊かな文脈の物語は飽きずにスラスラと最後まで読み終えることが出来ます。家族独特の空気感や情景を想像しやすかったです。特に印象的だったのは登場人物のプロフィールが事細かに明記されていたことです。身長、体型、髪型はもちろん、性格から過去の恋愛経歴に至るまでびっしりと記されていました。長女は人に尽くすことが好きな性格だからこのように語りかけるのか、次男には賢さと病弱さがあるからこのような表現をするのか、など、登場人物のバックグラウンドから作り出しそうな物語を予測し、更に文章の特徴などを掘り下げて考察するのが非常に楽しかったです。ラストには今まで兄妹の様子を暖かく見守っていた母親も物語を作ることに参加し、母親さながらに子どもたちの心を見事に操り、読者もハッとさせられ、家族の一員になれたような気分になることが出来ます。
    『愛と美について』というタイトルの美しさに惚れたのが、私が当書を読もうと思ったきっかけです。太宰治は青森県出身で、東大仏科中退。酒場の女性と鎌倉の小動崎で心中をはかり、ひとり助かります。誰もが学生の頃に一度は教科書で彼の作品を読んだことがあるでしょうか。私は彼と言えば『人間失格』が思い浮かびます。人間失格の内容を知っているひとならば理解できるでしょうが、そんな太宰治が考える「愛と美」はどのようなものかなのが気になりました。題名だけを見ると、若い男女の恋愛物語なのかと想像していまいますが、この作品では家族愛、夫婦愛、兄弟愛など多種多様な愛を様々な描写から感じることが出来ます。今を小さかった頃や昔と比べて家族との時間が減っている人も多いのではないでしょうか。私自身も、歳を重ねるごとにだんだんと家族と共に過ごす時間が短くなり、自然と口数も減ってきているように感じます。特に私の妹は中学に上がって丁度反抗期に入り、コミュニケーションを取ることで精一杯です。しかし家族とは不思議と考えていることが同じだったり、意識せずとも同じ行動をとってしまうことがあります。この作品を読み終えたとき、家族との時間を大切にしていきたいと深く思いました。一生続くと感じるような時間でも、必ず限りがあります。相手を思いやる気持ちや、共に過ごし言葉を交わし合うことの大切さを感じました。

  • 梅雨のある曇天の日、兄妹5人で語られる、あるロマンス。兄妹それぞれがてんでばらばらな方向性を持つのに、一つの物語(ロマンス)が彩られていく。
    なんだかプラトンの『饗宴』やサリンジャーのグラース家をみているみたい。
    兄妹それぞれが持つ特徴が、語る言葉にそのまま映し出されている。失恋尽くしの長女、まじめすぎる末弟、俗物的だが頭の切れる気難しい次男、自己陶酔に浸る次女、ただ物語が好きなだけの長男…物語を通すことで、本来なら響き合う事のない兄弟が一つの調和を奏でる。
    語りの後には、退屈と倦怠、再び訪れる荒涼さと険悪さ。だが、そんな5人を見守るたったひとり母のまなざしと最も気の利いた機智があるから、閉塞的な空気が、さっと雨上がりのような涼しい風で吹き飛ばされる。

  • 兄妹、五人あって、「退屈したときには、皆で、物語の連作をはじめるのが、この家のならわしである。たまには母も、そのお仲間入りをすることがある」ということで、物語が展開していくのだが、こんな遊びも面白いだろうな、と思った。TVやインターネットが無い時代での人々の「知的遊戯」に興ずる様は、もう二度と戻り来ぬ「遊び」だろう。物語の最後に、「母は、ひとり笑い崩れた」、ここに太宰治の、母という存在のとらえ方が出ていて、面白いと思った。

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著者プロフィール

1909年〈明治42年〉6月19日-1948年〈昭和23年〉6月13日)は、日本の小説家。本名は津島 修治。1930年東京大学仏文科に入学、中退。
自殺未遂や薬物中毒を繰り返しながらも、戦前から戦後にかけて作品を次々に発表した。主な作品に「走れメロス」「お伽草子」「人間失格」がある。没落した華族の女性を主人公にした「斜陽」はベストセラーとなる。典型的な自己破滅型の私小説作家であった。1948年6月13日に愛人であった山崎富栄と玉川上水で入水自殺。

「2022年 『太宰治大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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