『銀河鉄道の夜』はなにか胸が熱くなるものがありました。こういうできごとをこういう表現で表すっていうのは、並大抵の仕事ではないように思います。ただのファンタジーとは一線を画すすご味を感じました。

主人公が鳥取りに対して抱く感情も、なにか特別なものとして味わいました。鳥取り扱う品物について批判しそうになったとき、それを嬉しく手に入れている人の気持ちに思いを馳せるとか、会ったばかりのまったくの他人なのに、相手をおもって切ない気持ちになってしまったり。

本筋とは違うところですが、こういう気持ちの移りに尊いものを感じました。

2024年2月19日

読書状況 読み終わった [2024年2月19日]
カテゴリ 小説

ハッと気づかされる部分がたくさんありました。
そしてまた、普段から感じていたことが言葉にされていて、そうなんだよな、という感じを強くもちました。

・環状ではなくセル(細胞)型をまちの単位として構想する。そのときセルの中心となるのは……駅? いや小学校?
・市町村単位の限界。地方創生の幻想。交通や鉄道会社間競争によるまちの分断。
・東京とそれ以外との分断が進行しているのではないか。
といった問題が提起され、一定の解決策も示されています。

では、ここで述べられていることをどのように現実のものにしていけばいいのか。本の中だけでとどめずに、まちづくりにどう展開していくべきかのか。

そこには、どうしても根本的な問題があるような気がしています。
ハード先行で建築が行われ、テナントはあとから募集するというスタイル。まちにとってコンテンツが重要だとしたら、なぜハコが先に建築できてしまうのか?
高容積率が収益を生み出すという構造。床が多ければそれだけ分譲あるいは賃貸による利益を創出するのは当然ですが、それによる周辺環境への悪影響は明らかなはずです。

このような根本的な問題を破壊しなければ、次の10年も同じ間違いを続けることになるような気がしています。
しかしさらに絶望的なのは、こういう問題に対するカウンターは、絶対にその業界からは生まれてこないということです。なぜなら、彼らの利益の源泉そのものを棄損することになってしまうから。本書に協力している不動産デベロッパーが、このことをどう考えているのかも、聞きたいような気がしました。

2024年2月17日

読書状況 読み終わった [2024年2月17日]
カテゴリ カルチャー

例年の特集よりもネガティブなエッセイが多かったように思います。その点、なるほどなぁと感じるテキストが多くありました。「来年はこの技術がもっと発展して、こんなにすばらしいことが当たり前になる画期的な年になるだろう」という論調が大多数だったはずです。

しかし今年は、DAOが悪用される、量子コンピューティングが挫折する、機械学習の参照元が偽情報や生成情報によって汚染させる……といった、これまでイケイケだった路線に暗雲が立ち込めていることをストレートに記述している記事が複数あったことが印象的でした。

そんな中で、女子スポーツをスポンサードすることについての記事は、目新しい内容で関心をもって読めました。

2024年1月1日

読書状況 読み終わった [2024年1月1日]
カテゴリ 社会

いわゆる「コロナ禍」が一応おわったいま読んでもおもしろかってです。
執筆当時は混乱の中にあったはずですが、抑え目のトーンで事態に過剰に反応することなく、それでもその機会をとらえてこの社会をどうしていくのがいいのか、ということが語られています。エルダーケアの問題、リモートワークとブルシットジョブ。禍が明けてもまだまだ問題であり続けるものがたくさんあります。

もう以前の世界には戻れない、だとか、アフターコロナだとか言われていましたが、結局ほとんどのことが元のとおりに戻ってしまった、という感じがします。その反省とともに、いま読みたい一冊です。

2023年12月29日

読書状況 読み終わった [2023年12月29日]
カテゴリ エッセイ

あるイベントで、紹介文だけをもとに本を交換する企画で入手したものです。

ゴッホの生涯について、史実と著者の想像を交えて描かれたエッセイです。

なるほど、ゴッホについて誤解がいろいろあったかもしれません。そういう葛藤の中で生きていたのかと、芸術家として、人間としての苦悩を感じました。

本書とは別の小説「たゆたえども沈まず」のあとがき的な文章のようです。

読書状況 読み終わった
カテゴリ エッセイ

こういった、ものの根本を再検討する著作は読みごたえがあります。
民主主義のこれからの在り方がファンダムに見いだせるのではないかというあたり、挑戦的ですが納得するものがあります。ただ、一度ですべて理解できるような内容ではなく、高度な内容をたくさん含んでいました。

別に問題ではありませんが、本書はインタビュー形式のような体裁をとっているところ、実際には対談のようです。

読書状況 読み終わった
カテゴリ 社会

外国語の使用がものすごく気になります。カタカナで表記された意味のわからない言葉がとても邪魔に感じました。正直にいって、鼻につきます。

『山椒大夫』はなぜこのタイトルなのでしょうか。
『高瀬舟』はとてもよい作品だと思います。

読書状況 読み終わった
カテゴリ 小説

今後のテーマは「2050年」でしたが、取り上げられているテーマの範囲が少し狭いような気がしました。というか特集部分は終始、SFの話をしているような号です。

連載の中で、間接民主制がどうしても短期的な結果に比重が置かれる制度であり、長期的な視点をもって取り組まなければならない課題が山ほどある今、致命的な構造的な欠陥だ、というようなことが指摘されていました。こういう部分について、もっと切り込んでもらえたらより興味深かったのではないかと思います。

次号のテーマが例年どおり「翌年の世界」として予告されています。next midcenturyのあとにこのテーマ……という気もしますし、年4回しかない発売ですので、毎号テーマを据えて、読者に新しい分野・新しい視点を提供してもらいたいものです。

カテゴリ カルチャー

少し難解な部分を含む本でした。

しかし、この時代にいきる私たちにとって意義深い指摘が提出されています。

「わかりあえなさ」をつなぐ、というのがこの上なくステキに思えます。

2023年9月18日

読書状況 読み終わった [2023年9月18日]
カテゴリ その他

要点は本のタイトルにすべて書いてあります。

本書の中身はすべてそれを補足するためのエピソードと科学的な根拠の紹介と、個人の感想です。

よく理解できましたし、とても重要なことなので、これからの生活で意識的に取り入れていきたいと思いましたが、買って読むほどの意味があるようには思えません。

だって、タイトルにぜんぶ書いてあるから。
この手の海外書籍にありがちですが、冗長なエピソードトークが連続し、蛇足と感じてしまうようなジョークがそこかしこに見られます。

2023年9月9日

読書状況 読み終わった [2023年9月9日]
カテゴリ 科学・技術

特集は「リジェネラティブカンパニー」という、あまり馴染みのないものでした。

理念は崇高でも、財務的な課題が大きな部分を占め、本当に解決しなければならない社会課題に正面から立ち向かうのが困難になったり、短期的な成果を確保しなければならなかったりするようなことが多くあるでしょう。

社会全体としてみても、目指すべきところとしては賛同されるけれど、経済的な理由で思うように進捗しないといったテーマがたくさんあるような気がします。経済合理性という尺度があらゆるものを犠牲にしながら破滅に向かって突き進んでいるという風景が見えます。
これまでにも、非倫理的な団体のうち一握りの極端な例だけは自己破壊するようなこともあったと思いますが、それよりはるかに多くの団体が財務的な理由で解散しているでしょうし、同じような悪事をとがめられない程度に実践している残りの大部分は依然として生き残り続けるという印象もあります。

しかしそれでも、「昔は許されていたことが今では……」という年長者のボヤキが聞こえるということは、少しはものごとが好転していることがあるという証左でもあるような気がします。
今号で紹介されたようなリジェネラティブな個々の団体が力を尽くしてくださるのと同じくらい、社会全体のうねりがもっともっと必要なんだろうと思います。

2023年8月5日

読書状況 読み終わった [2023年8月5日]
カテゴリ 社会

発酵の仕組みや、それを活用した様々な特産品などについての紹介、そしてそれらを中心にした人間社会について解説されています。

正直な感想としては、微生物による発酵現象が社会におけるさまざまな作用や文化的慣習などを形成しているかのような説明には、少し無理があるような気もしましたが、個々のエピソードは非常にたのしく読めました。

登場する方々もとても魅力的ですし、著者の進んできた道のりも数奇で輝かしいものであり、そのおかげでたどり着いた発酵・アート・文化人類学を横断するアプローチには目を見張るものがありました。

語調がやや独特で若干気が散る印象はありますが、どちらかといえば読みやすい方に働いていると思います。

読書状況 読み終わった
カテゴリ 社会

かなり昔に一度触れていたので再読ということになります。

前回は、シンプルなストーリーのわりに読みにくいと感じたように記憶しています。また、かつては異常に荒々しい作品であるように感じたのが、いくぶん和らいでいました。
訳文の違いによるものなのか、自身が年を重ねたことからくるものなのか、すくなくとも今回のほうが読みやすかったのと、老人が朴訥とした印象になった点が大きな相違点ではないかと思っておりました。

この印象の違いを生み出している点に関して、訳者のこだわりがあとがきに記されています。
おなじストーリーでも、わずかな訳し分けが作品に対する評価を大きく変えることになるのだということがよくわかりました。

老人が魚に勝利すること。その勝利の証であり、いつしか友ともなった魚をサメに奪われること。しかし骨だけは持ち帰ったこと。少年の存在(と海での不在)。最後の彼の涙。
これらをどのように解釈して読むか、という点は、訳文のいかんに関わらず、読者に残された余白になります。
こういう点がすぐれた文学たるゆえんのようです。

2023年5月31日

読書状況 読み終わった [2023年5月31日]
カテゴリ 小説

読んでよかったと思います。
全体的に非常にわかりやすく構成されている本でした。現代アートと呼ばれるものがたどってきた道と合わせて、作家・作品の志向がなんとなく理解できました。

成り立ちを知ることで、漠然とよくわからないものだった現代アートが、少しだけ身近になったように思います。
見たものそのままをアートとして感じることが意図されたもの、社会や風潮・先行の芸術への批判など背景を読み取ることで意図が浮き彫りになるものなど、作品を観る視点が備わったような気がします。

分からない、理解できない、自分でも描けそう――。
世の中の、自分が及ばない領域について、こういった感想だけでその場を立ち去ってしまうのは、もったいないしつまならい。
もっともっと知らないもの、新しいものに触れていきたいと思うようになりました。

では、アートを通じて社会的な課題や、何らかの対象を批判するという衝動に関連して、例えば環境団体が芸術作品を巻き込んで行ったパフォーマンスについて、現代アートの文脈で整理することはできるのでしょうか。あるいは今は犯罪行為と認識されていても、やがて評価されるようなことがあるのでしょうか。

2023年8月15日

読書状況 読み終わった [2023年8月15日]
カテゴリ カルチャー

メッセージの中心的な部分は非常に共感できるものがあります。つまり、タイトルにあるような主張は、わたしにはおおむね正しいように思われました。

ただ、全体的には鼻につくような感じがしましたし、やはり教科書というのとはちがうと思います。あくまでもこの著者のやり方、ということです。

これを読んで、なるほどこういうことでいいのだ。なにも大勢で無意味に集まってはしゃぐことは、必ずしも褒められたものでもないのだ。そういうことに気がつければいいと思います。

読書状況 読み終わった
カテゴリ エッセイ

昔ばなしのような。というか、昔ばなしなのですが、つづきが気になるようなお話の連続でした。

ホラーの元祖という感じで、たいへん楽しく読めました。

2023年5月26日

読書状況 読み終わった [2023年5月26日]
カテゴリ 小説

断片的にどこかで聞いたようなことも含まれていますが、脳の特性に基づいて体系的にわかりやすく解説されています。

学生のころとは、大人の脳は仕組みが違う。全盛期は中年期である。

このことは大変勇気づけられるものがあります。
(本書内では、記憶という観点での効用が否定されている行為ですが)なるほどそうだったのか、というところにたくさんマーカーをしました。繰り返し読んで活かしていこうと思います。

読書状況 読み終わった
カテゴリ 科学・技術

特集のテーマがおもしろかったです。

国内で読まれることを想定して編集された日本語版ですから、もう少し身近な話題に比重をおいてくれてもよかったのではないかと思います。

2023年4月15日

読書状況 読み終わった [2023年4月15日]
カテゴリ カルチャー

思ったよりも何割増しかで説教臭かったです。
そういうものを読むつもりで買っているんだから文句が言えた義理ではありませんが。思ったよりも、ということです。
それと、即答力というキーワードに引っかけて色々なことを五月雨式に述べている印象がありました。エッセイ集のようなものですが、それはそれでなんの問題もないのですが。

おっしゃっていることはその通りです。
・好奇心は忙しさに取り紛れていると萎んでしまう。
・また会いたいと思われる人間かどうか。
こういったあたり、大事なことだなと思いました。

否定的視点をもちましょう、というのが情報に接する態度として推奨されているので、どうもそういう目で世の中を見てしまいがちですが、人と接するときには別の姿勢が必要です。

読書状況 読み終わった
カテゴリ エッセイ

「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」「品川猿の告白」は、懐かしい感じがする読んでいて心地いいお話でした。
かつての短編集にも、こういう作品がちらほらあったように思います。品川猿が再登場したのもうれしいです。

「ウィズ・ザ・ビートルズ」の書き出しは、なんだがやるせない感じです。なにかこう、作者自身が、老人の域に踏み込んでしまったことを噛みしめるようなわびしさがあります。

2023年3月12日

読書状況 読み終わった [2023年3月12日]
カテゴリ 小説

著者が体験した猫にまつわる父親との象徴的なできことと、リサーチと推測によって浮かび上がる父親の経歴とが、一見ほとんど無関係のようでありながら、淡々と紡がれて、じわじわと何かを形づくっていくように感じられました。

父親を通じて知った戦時下のエピソードは、たぶん『ねじまき鳥クロニクル』などに通じているように思います。
戦争が人にどのように影響を与えてしまうのか、ということのひとつの資料のようでもあります。

表紙やページいっぱいに描かれている挿絵は、淡く繊細でとても美しく、文章との関係があまりなさそう(でありながら、そうでもなさそう)ですが、短い読書体験を静かに盛り上げてくれています。

2023年2月20日

読書状況 読み終わった [2023年2月20日]
カテゴリ エッセイ

世界的なベストセラーなのにあらすじをまったく知らず、いちエピソードである冒頭の風車との決闘シーンだけを漠然と映像的に把握しているだけ。
それがどういう文脈でなにを意味しているのかも分からないままではいけないと、ずっと思っておりました。

本書は、大長編である原作を低年齢層向けに抄録したもののため、とても読みやすく楽しめました。

なるほどドン・キホーテはこういう人物なのか。
そしてこの小説はそういう意図をもって書かれたものだったのか。
でも、その意図にもどうもそのまま解釈するだけでもなさそうだ。

ばかばかしくも奥深い、とても心惹かれる作品でした。

解説も必読です。

2023年2月16日

読書状況 読み終わった [2023年2月16日]
カテゴリ 小説

ここ数年は毎年冬の号に「THE WORLD IN 202x」という特集が組まれて、いくつかのカテゴリごとに様々な執筆者がオムニバス的に翌年の展望についてのエッセイを連ねるかたちをとっています。

年に4度しか発行されない季刊誌なので、貴重な1号をこの特集に費やすのはやめてほしいと思っています。
なにしろ、来年はこんな年になりますよ、と言いながら実際には、この界隈はこういう方向性で進んでいますよ、という内容ですので、毎度去年とそれほど違いがないような気がしてしまいます。

それでも、初めて聞くようなこともちらほらみられるので、やはり有意義なのですが、もっとそういう内容を掘り下げてもらいたいなあ、と思ってしまいます。
WIREDには、数ヶ月先のことではなく、もっと未来の話をしてもらいたいです。

2023年2月12日

読書状況 読み終わった [2023年2月12日]
カテゴリ 科学・技術

どんどん目新しさがなくなっているのは気のせいでしょうか。

自分の目が鈍くなっているのかもしれません。WIREDの編集志向のせいかもしれません。世の中がつまらなくなっているのかもしれません。

なにか、毎号あまり変わり映えのしない議論が繰り返されているような気がするのです。
テーマが似通っているのか、それともおなじ着地になってしまっているのか……。

2022年10月18日

読書状況 読み終わった [2022年10月18日]
カテゴリ カルチャー
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