老人と海 (角川文庫)

  • KADOKAWA (2024年1月23日発売)
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感想 : 7
5

1920年代から30年代にかけて活躍したアメリカの作家たちを指す「失われた世代」という言葉の響きが、若い頃の私にはやたらと格好良く思え、それらの中心的存在だったヘミングウェイの小説に俄然夢中になった。当然、代表作の「老人と海」にも目を通したのだが、現在となってはあまり記憶に残っておらず、ほとんどが忘却の彼方へと消し去られてしまった。此度、新たな解釈による訳本が出版されたのを機に、およそ40年ぶりに本作と向き合った

90日近く獲物に恵まれずにいる老漁師と巨大なマカジキ、サメらとの攻防を描いたストーリーには、神話にも似た荘厳さが漂い、その研ぎ澄まされた描写はまさにシンプル・イズ・ベストの極みと表現するのが相応しい。単身で大海原の沖合へと小舟を進めた主人公サンティアーゴはさかんに独り言を呟くのだが、そんな彼の様子を一人称ではなく三人称を用いて著した点に斬新な印象を受ける

これまで一般に「少年」と訳されてきたサンティアーゴの相棒マノーリンを本書ではハイティーンの「青年」として捉えた。疑似父子の側面が窺える彼らの繋がりを考えれば、こちらの解釈の方がシックリするのは確かだ

ピュリッツァー賞とノーベル文学賞を受賞し、傑作として名高い「老人と海」だが、かつて読んだときには、正直言ってたいした感想は持てなかった。だが、今回は違った。万物に対して尊敬の念を向けるサンティアーゴの生き方に心を揺さぶられ、終盤で疲弊しきった彼が尚も闘う姿には涙腺が緩んだ。それは多分私自身が年を取り、老いつつあることと関係しているのかもしれない

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 外国文学「ら」行
感想投稿日 : 2024年3月2日
読了日 : 2024年3月2日
本棚登録日 : 2024年1月24日

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