歴史認識を問い直す 靖国、慰安婦、領土問題 (角川oneテーマ21)

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  • 角川書店 (2013年4月10日発売)
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著者は、元外交官で、主にロシアに駐在し条約局長などを勤めた人で、
東京裁判でA級戦犯として断罪された東郷茂徳を祖父にもつ人物である。

内容は、①領土問題、②歴史認識問題、③新しい日本の国家ビジョンとなっている。
①では、中国との尖閣問題、韓国との竹島問題、ロシアとの北方領土問題、②では、靖国神社と村山談話(対中国)、河野談話と慰安婦問題(対韓国)、見落としがちな問題として台湾との関係を取り上げる。

いずれもタイムリーな政治及び歴史問題で、これらの記事が新聞に載らない日はないといっても過言ではないほど、頻繁にメディアで目にする事柄である。

最近でいえば、橋本大阪市長の慰安婦を巡る一連の発言(というか失言)などは、その最たるものであろう。
橋本氏の発言の問題点を要約すると、①戦時下における慰安婦制度の必要性を無条件に認めたこと、②強制連行を示す証拠がないといったこと、最後に、③現在沖縄等に駐留するアメリカ軍に風俗店の活用を進めたことなどが挙げられる。

橋本氏は、上記のうち、アメリカを最も怒らせた③は撤回したが、残りの①②については、未だ持論を曲げようとはしていない。
中でも、②などは、安倍首相はじめ右派の論客が繰り返している主張だが、本書では、以前著者が参加した国際的な歴史シンポジウムにおいて、参加者のアメリカ人より、このような主張は国際的には全くナンセンスで、この問題の本質にとって全く無意味だと喝破され、衝撃を受けたと著者は語っている。

私もこのアメリカ人の見解に賛成で、強制連行や日本軍の関与の有無などは、日本軍兵士達が、性欲のはけ口として戦地の女性達を弄んだという厳然たる事実(この事実を否定する人はそういない)の前では、何の意味も持たないと思う。

そして、著者は、今後の日本の在り方について、「何よりも必要なことは、日本自身が、他者の痛みを感じ、他者の苦しみを理解する謙虚さのうえに立つことである。(中略)他者の心理を解らず自己の正義を主張する傲慢は、今の日本にとっては、狂気となる」と警告する。

本書は、2013年2月頃に書かれたもので、その後に勃発する、件の橋本発言を図らずも暗示していることは、皮肉としか言いようがない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史
感想投稿日 : 2013年6月4日
読了日 : 2013年6月4日
本棚登録日 : 2013年6月4日

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