高村薫『冷血(下)』新潮文庫。
文庫化されたので再読。文庫化に期待することのは作品解説なのだが、高村薫クラスとなると書き手が居ないのか、高村薫自らが拒否したのか解らぬが、本作の解説は無しである。また、高村薫作品と言えば文庫化の際にはかなりの時間を掛けて加筆修正することが常なのだが、今回はそれも無しのようである。従って、以前読んだ単行本と内容は同じということになる。
下巻では二人の容疑者が犯行を自供し、事件の詳細と、冷酷で余りにも身勝手な犯行理由が次第に明らかになる。まるで今の世を知り尽くしているかのような著者の鋭く冷めた眼は現代の犯罪の姿を紙の上にリアルに写し出しているようだ。ニュースで報道された2018年のハロウィーンに渋谷で起きた騒乱。若者たちが立ち往生した軽トラを横転させるなど、地方に住む者には全く信じられない光景だった。いつ、どこで凶悪犯罪に巻き込まれるかもという恐怖……本作の中に描かれる冷酷な余りにも身勝手な犯罪は今の日本では普通に起こりうることなのかも知れない。
フィクションでありながら、警察機構や捜査の様子、迫真の裁判シーン、犯人が強盗殺人に至る背景から犯行場面とよくぞここまで書き込んだと驚くばかり。創作ノンフィクション小説と呼ぶべきか。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
日本
- 感想投稿日 : 2018年11月6日
- 読了日 : 2018年11月6日
- 本棚登録日 : 2018年11月4日
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コメント 2件
シマクマ君さんのコメント
2020/05/25
ことぶきジローさんのコメント
2020/05/26