刑罰 (創元推理文庫 Mシ 15-5)

  • 東京創元社 (2022年10月19日発売)
3.84
  • (11)
  • (11)
  • (14)
  • (0)
  • (1)
本棚登録 : 165
感想 : 19
5

フェルディナント・フォン・シーラッハ『刑罰』創元推理文庫。

読者に媚びを売らず、時に読者を突き放すような乾いた文体で、極めて淡々と描かれる物語は長岡弘樹の一連の短編と似ている。人生の機微と不思議な魅力を感じる捻りの効いた犯罪ミステリー短編12編を収録。

『参審員』。世の中には時折、皮肉な出来事が起きる。それは必然であり、偶然ではないという人生の機微。冒頭から一人の女性カタリーナの孤独な人生が綴られる。幸せなひと時から、人生に起きる様々な波乱。幾つもの波乱を乗り越え、新たな職を得ても自ら孤独な人生を選ぶカタリーナは参審員に選ばれる。裁判を通じて夫からDVを受けていた証人に自分の人生を重ね合わせ、痛く同情したカタリーナに裁判所の下した判断は。★★★★★

『逆さ』。この短編集の中では一番のミステリーであろう。やるせない結果となった事件を弁護したことが切っ掛けで、ギャンブルと酒に溺れた弁護士のシュレジンガー。妻とも離婚し、他愛のない弁護依頼を引き受けながら、自堕落な日々を過ごすうちに殺人容疑者の弁護を引き受けるとになる。全く勝ち目の無さそうな事件だったが、過去に弁護した男から謎に満ちたヒントをもらう。★★★★★

『青く晴れた日』。自らの過ちに気付くことの大切だが、気付いてからでは遅いこともある。何とも言えぬ含蓄を含んだ短い話。赤ん坊を死なせた夫の罪を肩代わりし、3年後に出所の日を迎えた母親が取った行動は。★★★★★

『リュディア』。人間以外への愛をどう受け取るのか。人には様々な考え方があり、様々な生き方はある。妻に裏切られ、妻と離婚したマイヤーベックはひっそりと孤独に生きていた。ある日、テレビのルポルタージュでラブドールの存在を知った彼はお気に入りのラブドールを購入し、リュディアと名付けた。★★★★

『隣人』。24年間、一緒に過ごした最愛の妻エミリーを失ったブリンクマン。ある日、無為な日々を過ごす彼の家の隣に夫婦が越して来る。夫の姿はたまに見掛けるだけで、ブリンクマンは妻のアントーニアと少しずつ距離を縮めていく。★★★★

『小男』。運が良かったのか、悪かったのか、何とも皮肉な結末。43歳で未婚のシュトーレッツは小柄な男で、リビングに小男の伝記をコレクションしていた。ふとしたことで大量の麻薬を手に入れた彼は密売を決意するが、飲酒の揚げ句に交通事故を起こし、麻薬所持の容疑で逮捕される。拘置所では小男と馬鹿にされることはなく、大物犯罪者として一目置かれた彼だったが。★★★★★

『ダイバー』。異常な性癖の果てに招いた悲劇。事実は小説よりも奇なり。妻の出産に立ち会ったのを切っ掛けに異常なまでの潔癖症になった夫。ある日、妻は浴室で黒いダイバースーツに身を包み、首をくくって亡くなっていた夫を発見する。しかし、妻は殺人容疑で逮捕される。★★★★

『臭い魚』。少年は時に残酷であり、何をするか分からない。様々な悪い噂が付きまとう臭い魚と呼ばれる男に少年たちの取った行動は。★★★

『湖畔邸』。大きな痣という肉体的な十字架を背負った男が平穏な暮らしを壊されたことに怒る。世の中は常に移ろいゆくもので、それに抗うことは時に愚かさとなる。仕事を辞めて、まるで引きこもるかのように祖父との思い出のある湖畔邸で平穏に暮らすアッシャー。しかし、平穏な暮らしも長くは続かなかった。★★★★

『奉仕活動』。人生の勝利は時として思わぬ形でもたらされる。僅かな望みも捨ててはいけないのだ。トルコ人の厳格な父親に育てられたセイマは大学に進み、弁護士になる。初めて弁護を担当した人身売買事件の被告はどこから見ても容疑は明らかだった。勝ち目のない裁判。★★★★

『テニス』。人生はいつどこで、どちらに傾くか解らない。テニスの腕が無いと夫に忠告される妻。夫の浮気相手の真珠のネックレスを見付けた妻は、これ見よがしにネックレスを家の階段に置いて、出張へと旅立つ。★★★★

『友人』。財産があり、美しい妻が居ても満たされないのが、人生。かつての友人も今も変わらぬ姿でいるとは限らない。ドラッグに溺れ、変わり果てた姿になった友人。そうなったのには、ある理由があった。★★★★★

本体価格720円
★★★★★

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外
感想投稿日 : 2022年10月21日
読了日 : 2022年10月21日
本棚登録日 : 2022年10月19日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする