今年の新潮3冊目
表題作はどちらも古典をアレンジした話。
「山椒大夫」の、予期せぬ悲劇的な始まりに絶句。
いきなり人買いに捕まって、乳母は死に、親子はバラバラに引きさかれ、あっというまに姉弟は山椒大夫の奴隷になるとか、転落具合と絶望感が半端じゃなくて、茫然。
原典はもっと残酷なようですが、鷗外版もじゅうぶん胸が痛む話でした。
「高瀬舟」は、弟を安楽死させた兄と、その護送役の話。
安楽死は罪なのか? と悶々とする役人。
罪ではない気もするが、わからない。
わからないからお上の判断に従おう。
お上が間違うはずがないんだから。
(「最後の一句」にもありました)
こんな皮肉ばかり言ってたら、そりゃ左遷させられます。
(これでも丸くなったというんだから…)
また、この兄・喜助は、足るを知る人間として描かれているのですが、正反対なのが、足るを知らない帝国主義政府というわけですね。
明治の末頃から、日本はどんどん軍事拡張して大陸を暴走していくわけだけど…
内輪の鷗外としては、大っぴらに反論することもできず、かといって黙っているのも忍びなかったのだろうと推測。
彼の日露戦争従軍記をぜひ読みたい。
◇
それにしても、独語や仏語が文中にありすぎです。
ルビもない原語そのままのときもあるので、読めもしない。
該当の日本語がないせいかもしれませんが、それにしても多い。
このグローバル現代でさえ、あんまりカタカナを使われるとイラッとするのに、当時はどうだったのか。
それさえなければ、ふつうに読みやすい文章です。
- 感想投稿日 : 2022年7月22日
- 読了日 : 2022年7月22日
- 本棚登録日 : 2022年7月21日
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