山椒大夫・高瀬舟 (新潮文庫)

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今年の新潮3冊目
表題作はどちらも古典をアレンジした話。

「山椒大夫」の、予期せぬ悲劇的な始まりに絶句。

いきなり人買いに捕まって、乳母は死に、親子はバラバラに引きさかれ、あっというまに姉弟は山椒大夫の奴隷になるとか、転落具合と絶望感が半端じゃなくて、茫然。

原典はもっと残酷なようですが、鷗外版もじゅうぶん胸が痛む話でした。


「高瀬舟」は、弟を安楽死させた兄と、その護送役の話。

安楽死は罪なのか? と悶々とする役人。
罪ではない気もするが、わからない。
わからないからお上の判断に従おう。
お上が間違うはずがないんだから。
(「最後の一句」にもありました)

こんな皮肉ばかり言ってたら、そりゃ左遷させられます。
(これでも丸くなったというんだから…)

また、この兄・喜助は、足るを知る人間として描かれているのですが、正反対なのが、足るを知らない帝国主義政府というわけですね。

明治の末頃から、日本はどんどん軍事拡張して大陸を暴走していくわけだけど…
内輪の鷗外としては、大っぴらに反論することもできず、かといって黙っているのも忍びなかったのだろうと推測。

彼の日露戦争従軍記をぜひ読みたい。


それにしても、独語や仏語が文中にありすぎです。
ルビもない原語そのままのときもあるので、読めもしない。
該当の日本語がないせいかもしれませんが、それにしても多い。
このグローバル現代でさえ、あんまりカタカナを使われるとイラッとするのに、当時はどうだったのか。

それさえなければ、ふつうに読みやすい文章です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本近代
感想投稿日 : 2022年7月22日
読了日 : 2022年7月22日
本棚登録日 : 2022年7月21日

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