特捜部Q ―Pからのメッセージ― (ハヤカワ・ミステリ 1860)

  • 早川書房 (2012年6月8日発売)
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本棚登録 : 483
感想 : 69
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「彼女は三つこぶのラクダみたいなものですね」 「なんだって?」 「私の育った土地ではそう言うんです。少し変わっているという意味です。乗りこなすのは難しいですが、見ているだけなら面白い」

北欧ミステリの最高峰「ガラスの鍵」賞受賞!
【特捜部Qシリーズ】第3弾。
文庫版では上下巻にわかれている長編だが、あっという間に読み終えてしまった。

何年も海中を彷徨い、スコットランド警察からカール達の手元へ渡った手紙の解読には、新たな仲間が挑戦する。その仲間達も個性豊かでいい味を出していた。

なかでも、前作から登場したアシスタントのローセの双子姉ユアサがローセと同一人物なのは驚いた。
ユアサもいいキャラクターをしており楽しませてくれたが、ローセに戻ったので今後どのようになるか楽しみだ。
ローセの多重人格について、カールとアサドは冒頭に載せたセリフを交わすのだが、本人から打ち明けられるまで、変わらず見守ろうとする2人の姿勢から感じる優しさが、押し付けがましくなくて良かった。

さて、今回の事件は身代金誘拐事件と宗教が絡んだものなのだが、犯人の得体の知れなさが際立ったストーリーだった。

変装をし、誘拐するターゲットを徹底的に調べ上げたかと思いきや、警察に追われる中ボーリング大会へ行ってしまう統一感のない行動。
そして、最後まで犯人の本当の名前が不明のままであり、本書の中では彼、夫、偽名で表されていたこと。
犯人はまるで役者のように数々の名前を名乗り、役割を演じていたこと。
それらの事と、ラストで犯人をカールが追い詰め、名前を問いただした時、「俺の名前はチャップリンだ」と名乗ったことで読者に気味の悪さを感じさせている。

チャップリンは喜劇王とも呼ばれているのに、犯人がしてきたことは悲劇でしかないこともゾッとする要因だと言えよう。

また、宗教により閉鎖的になって、世間と乖離した家族達の様子になんとも言い難い気持ちになった。
そんな中、犯人に立ち向かおうとする、女性達と、子ども達が唯一の救いだった。

今回はアサドの気になる描写が幾つか登場したので、今後どのような展開になるのか注目したい。

閉鎖的な世界が引き起こした悲劇を観たような1冊だった。


こんな人におすすめ .ᐟ.ᐟ
・北欧ミステリが好きな人
・警察小説が好きな人
・受賞作が読みたい人
・宗教が絡む事件が読みたい人







読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年1月24日
読了日 : 2023年1月23日
本棚登録日 : 2023年1月23日

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