燃えるスカートの少女 (角川文庫)

  • KADOKAWA (2007年12月21日発売)
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[捨てる短い本]
[ #300ページ以下で捨てる本 ]
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家が狭いこともあり 捨てる本/残す本 を感想を添えて紹介してます☺︎

#燃えるスカートの少女
#エイミーベンダー
#管啓次郎 訳
#thegirlintheflammableskirt
#aimeebender

刊行年:2007 / ページ数:272ページ/ジャンル:文芸作品 / 国:アメリカ / 価格:660円 /
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「彼女は何かを得るよりも何かが足りないことのほうがずっと好きで、もちろん、男に関してもおなじだった。」

この文に書かれていることが、収録されている作品に共通している気がした。

女の子たちは、体の構造上、常に欠けている状態だ。
持っているのが穴なので、「したい」という能動の感情が「受け入れる」という受動とイコールになる。
そしてそれはどうしても、入り込まれる=自分の体を抉るという行為になり、ナイフを刺すように、傷つける行為とイコールになる。
一方で自分が凹みがある性別だから、逆に凸側になってみたいと思う。だから女の子たちは、常に凶暴性を抱えることになる。
でも現実は、その凶暴性を発揮できる性別ではないから、結果、自らの体を傷つけるしかなくなっていく。

毎日見かけるお腹に肉のついた女の子をファックしたいと思いながら、見知らぬ老人に抱かれる女の子も、殺したかった父親が死んで、誰彼構わずセックスをしてみる図書館員も、みんな誰かに対して能動的になりたくてもそれができる性別でないから自分を傷つけるしかない。傷つけることで生と結びつくしかない。

父親が死んだ日に腹部に大きな穴があいた男性と、反対に腹が膨れて、死んだ母親を出産した女性を描いている短編も、背中にこぶがある男のこぶが凹んだ部分に妊娠した腹をくぼめる女性を描いている短編も、どれも自分が凸側であることを望んでいてそれが敵わない現実に対する苦しさを叫んでいるのではないか。

女の子たちの周りには、自分たちの体を象徴するかのように、何かが欠けたものばかりが登場する。
戦争で唇を欠いた男性、人間から逆進化して猿、海亀、サンショウウオと変化していずれは見えなくなってしまう男性。そうした喪失と女の子たちが向き合う様は自分たち自身と向き合っているように見える。

最終的に、女の子たちが究極に求めている関係というのは、自分を傷つける行為とも、出産という生産行為とも離れられる、性別のない誰かとの関係なんじゃないだろうか。
だから、この短編集の中に出てくる女の子が本当に愛しているのは、一生の食い扶持に困らず、でも常に疲れたと言いながら一歩も家に出ず死にたがってる男の子だけなんだと思う。
男の子には、その女の子以外に身寄りがない。2人に性的関係はなく、女の子は色んな人とデートをしながら、帰ってきた時に必ずその男の子が待っていることを期待している。

一方で、凸と凹が完全に交わるように、手を結ぶと中和し合う火の子と氷の子を描いた作品では、2人の共存は成立しないことが描かれている。この作品集の中で、凸凹がしっかりと噛み合って成立している作品はほとんどない。
だから、女の子たちは、欠け続けるしかないということなのだ。
この作品中に描かれているのは、女の子達の性別のもつ永遠の叫びだと思う。


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読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年12月31日
読了日 : 2022年12月31日
本棚登録日 : 2022年12月31日

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