冷静と情熱のあいだ Blu (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA (2001年9月20日発売)
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本棚登録 : 10014
感想 : 959
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8年もの間、満たされない思いと孤独を抱えていた順正。彼の心には常に、あおいがいた。

人に何を言われても、現在のパートナーに求められても、「自分の本当の居場所は彼女のとなりなんだ」と感じながら、冷静に孤独を選んでいた。

しかし、いざあおいと出会うと、8年もの年月の中でおこった彼女の変化を突きつけられたような気がした。彼女だけは今を生きていて、自分だけが8年前のまま切り取られた子どものような。
そんなみすぼらしさや、劣等感から冷静に彼女と別れることを選ぶ。芽実に対するそれとは気持ちはまるで違うのに、同じように、冷静に。

彼が修復士という仕事を選んだのは、過去の美しさは過去であっても尊いものだという意識があるからだと思う。今や未来を向くことだけでなく、過去に思いを馳せること、自分の軌跡と向き合うこと、忘られられない時間だけを大切に持って生きること、そんな人生でいいじゃないか。

既に亡くなった画家の名作のように、過去として切り取られたあおいを神格化した彼だからこそ、そう感じたんだと思う。

ただ、8年越しに出会ってしまった。
あおいが現在になってしまった。過去の点が今に飛び越えて、繋がった。

動き出した今は点ではない。
今から、1秒先の今につながる線になる。
ただここで別れてしまえば、また今日という日もあおいの思い出もまた点になる。氷漬けてはいけない、そんな思いで彼は動く。

切なさの中に情熱と希望を感じるエンディングだった。

3.8
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私はタモリの言葉を思い出した。

「明日のことを語れるヤツはゴマンといるが、昨日までのことをキチっとやれるヤツはほとんどいないんだよ。」

自分のコンプレックスや情けなさから逃避するかのように、未来にだけ目を向ける人はある意味で魅力的に見える。

ただ自分を形作るこれまでの経験に目を向けて、自分と向き合うこと、ダラダラしていたとしてもそれを受け入れて自分として消化できる人。そんな弱さを自分の一部にしている人っていいなって思う。


読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2022年12月30日
読了日 : 2022年12月30日
本棚登録日 : 2022年12月30日

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