スマホ脳 (新潮新書)

  • 新潮社 (2020年11月18日発売)
4.13
  • (1607)
  • (1829)
  • (806)
  • (90)
  • (23)
本棚登録 : 20068
感想 : 1902
4

読んでいる最中、ある映像を思い出していた。
歩きスマホをする人達が、眼前の落し穴に気付かず次々と落ちていく。しかも彼らは落ちている間もスマホを手離さない。
その不気味な映像はSNSで流れてきて知ったものだが、頭の片隅に追いやられてまでそれはしつこく記憶に焼き付いていた。

スウェーデンの精神科医がスマホによる悪影響について掘り下げたこちらの話題書。
でもまさか、原始時代まで掘り下げているとは思いもしなかった。しかも現代社会に適応するほど我々は進化していない、サバンナで生活していた頃と変わらないというのだ。

例えば人間の行動の原動力を発動させるドーパミン。何かを得られるかもしれないという期待さえあれば人間は行動へと駆り立てられる。その不確かな何かとは「たまにしか実らない木」や「スロットマシーン」、そして「スマホの着信音の正体」。
体内のメカニズムやそれによって引き起こされる行動原理に太古から変化はないものの、四六時中手元にあれば心と身体が落ち着いていられなくなるのも無理はない。(実際熱心にスマホを使う人ほど鬱症状やストレスの問題を抱えている率が高いという)

巻末には「デジタル時代のアドバイス」と銘打って、スマホと上手く付き合っていくための秘訣がまとめられている。
中でも自分の心に深く留まったのは、「よい手本になろう」というものだ。「子供は大人がしているようにする。大人に”しなさい”と言われたようにではなく」。

ある時電車内で、幼い兄妹がスマホの取り合いをしているのに出くわした。乱闘の末、独占した兄の目は完全にスクリーンに釘付け。スマホに操られているかのように目が死んでいた。(妹は再起を図ろうと臨戦体勢に入っていた)
その時「自分もいじっている時あんな目をしているのか?」と心がざわつき、以来(ささやかながらだが)電車内ではスマホをいじらずに紙の本で読書をするよう心がけている。
電車内の風景はスマホ一色ではないことを子供に認識してもらえたら…というのは驕りかなと不安でいたが、「よい手本に」の項を読んで一気に方がついた。

スマホ依存症の研究が追いついていないというのもなかなかにショッキングである。
研究結果が発表されるまで通常4−5年はかかると言われており、本書刊行当時で考えると2013-14年頃に計画が始まったものだと考えられる。
ここのところ時代の進み方が急速で、色々と予想がつかない。大人ですら精一杯なのに子供となれば忽ち飲み込まれてしまう…。

冒頭の映像には続きがある。落とし穴の中央には実は橋が掛けられており、その先には”No Phone Zone”という看板が立った花畑で読書をする男性の姿が。
著者もデジタルデトックスの時間を設けることを何度も推奨している。単純だけど研究が追いついていない今はそれしかないのだろう。自分は「デジタル時代のアドバイス」を肝に銘じつつ、時折あの映像を脳内再生するとしよう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年5月22日
読了日 : 2023年5月22日
本棚登録日 : 2023年5月22日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする