第111回直木賞。
第一次大戦中の徳島県、板東俘虜収容所が舞台。ここの所長・松江豊寿は当時では珍しく、ドイツ人俘虜に友愛をもって接した。
ドイツ人の文化・文明を尊重し、また、技術を吸収した。印刷、木工、写真、縫製などの技術のほか、パン、ハム、ビール、お菓子などの製造方法や、音楽、スポーツなどだ。収容所内で小売店を開くことを許したほか、近所の住民に技術指導したりした。
なぜ松江がこれほどに、武士の情けをもって俘虜に接したか、彼が会津生まれだという背景に基づいて描かれている。
ちなみに、バウムクーヘンでおなじみユーハイムも、俘虜収容所が発端の会社だそうだ。

2011年5月14日

第108回直木賞。
佃島にある古書店・ふたり書房が舞台。女主人・千加子亡き後、店を運営するのは娘・澄子だが、物語の中心は老いた従業員・郡司。
彼の本屋人生の始まりからふたり書房で働くようになった経緯、明治時代の「大逆事件」と、大正時代の大震災などを背景とした本屋家業の苦労話など。

2011年3月21日

第95回直木賞。
江戸末期から明治にかけての、遊郭と芝居の世界を描いた時代小説。
主人公は遊女屋の娘・ゆう。たまたま見かけた三流役者による芝居に魅せられ、遊女屋のおかみとして生きる道を捨てて、旅芸人と結ばれる。
本筋は、ゆうの恋愛、成長の記録であるが、他に裏テーマというか、さまざまな対立の構図が描かれている。遊女屋の娘・ゆう(使用人)と花魁(雇用人)、ゆうときつ(かむろ)、三流役者・福之助と大名題役者・田之助、吉原と深川、劇場と旅芝居などなど。みなそれぞれに自分の立場を理解し、また、自分の立場をあきらめ嘆き、それでも意地を張って生きていく。

2010年8月10日

読書状況 読み終わった [2010年8月10日]
カテゴリ 直木賞

第80回直木賞。
江戸から明治にかけての大阪が舞台。主人公は「海坊主の親方さん」。江戸時代は奉行所にいたが、明治になってからはフリーとなり、警察の手伝いをしている。
全6話からなる連作の捕物帳で、謎解き要素があり、キャラクターも愉快で、大阪弁がまた話をいっそうユニークにしている。
1話ずつの構成もユニークで、最後に必ずご隠居さんが新聞に投書した記事でしめくくられる。

2010年7月15日

第67回直木賞。
江戸から明治に変わる時代の、死刑執行人の話。
当時の死刑執行は、刀による首斬り。腕のたつ山田家が代々それを家業として継いでいたが、仕事とはいえ人を切る生臭さ、周囲の目、技術の鍛錬など、山田一家にとって精神的・身体的な悩みは尽きない。しかも、家族間のいざこざ、明治の御一新で死刑の手段が絞首や銃殺へとって変わるなどが重なり、山田家は崩壊していく。
時代考察が細かく、ノンフィクションを読んでいるかのよう。実際、斬首した島田一郎(大久保利通の暗殺犯)の逸話などは実話のようだ。
斬られる人々や、山田家に仕え続けた浜田など、サブキャラクターが小説をより面白いものにしている。。タイトルの「斬」は内容を象徴していて、漢字一字で潔い。

2010年7月4日

読書状況 読み終わった [2010年7月4日]
カテゴリ 直木賞
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