世にも奇妙な人体実験の歴史

  • 文藝春秋 (2012年7月6日発売)
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本書の解説を担当している仲野徹先生も2011年に「生命科学者の伝記を読む」を出版しており、こちらの日本語版が2012年ですがオリジナルは既に2010年に出版されておりますので、両者ともに被る内容が多いとはいえ本書の方が誕生は早かった点だけは指摘しておきます。
本書の「はじめ」で、マッドサイエンティストとは、利他精神と虚栄心、勇気と好奇心のかたまりで、愚行の物語でもあるという文章に続けて、「生半可な知識が危険だというのなら、危険でないほど大量の知識をもった人間がどこにいるのだ」というトーマス・ハスクリーの言葉を重ねて物語は始まります。

では、本書の面白エッセンスを少し紹介します。

第4章「メインディッシュは野獣の死骸」では、昆虫食についても語られています。
昆虫食のメリットは絶対供給不足にならないこと、有名な生物学者は地球に存在する生命体の中でも昆虫種の多いことを念頭に「神は法外に虫好きだったんだなと思う」とこたえ、実際に昆虫の中には70%もタンパク質が含まれているものもあり、グラム当たりのタンパク質の量は肉より多く、脂肪分は少なく、ビタミンやミネラルも豊富という栄養食だが、見た目の悪さから「神の営業戦略の失敗」を嘆く・・さらに、昆虫食をしていないはずの我々の食事には実は昆虫が年間1㎏近く混入されているという事実に驚愕。(具体的には、小麦粉1kgには昆虫片450個、チョコレート100gには昆虫片60個あるいはネズミの毛1本、柑橘類ジュース250mlにはハエの幼虫1匹またはタマゴ5個などが食品加工プロセスから完全に排除できないため、許容上限を設定している)

第8章「人生は短し、放射線は長い」では、キューリー夫人が夫妻でノーベル物理学賞を受賞し、夫の死後、単独でノーベル化学賞を再受賞し、彼女の娘夫婦もノーベル賞を受賞するというウルトラCをやっています。

第14章「プランクトンで命をつないだ漂流者」、第15章「ジョーズに魅せられた男たち」、第16章「超高圧へ挑戦し続けた潜水夫」、第17章「鳥よりも高く、早く飛べ」は読み物としても面白い。
特に、オーギュスト・ピカール親子は、父親は気球を設計して1万6千9百40メートルまで飛び、さらに潜水艦も設計して息子に1万8百83メートル潜水記録を達成させる!

あとがきでは、本書で紹介されたマッドサイエンティストたちこそ、勇敢な突撃部隊だと締めくくる。

読み応えのある良書です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2019年7月19日
読了日 : 2019年7月19日
本棚登録日 : 2019年7月19日

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